第百六話 分かった。思いっ切り騒ごう
「す、凄い威力だねカズト。あの巨大な鉄の船が、完全に消えちゃったよ」
唖然としているリムリアに、和斗は苦し気な声を漏らす。
「大和の技術をクーロンの手に渡すワケにはいかないからな。どうやってもクーロンが回収できないくらい破壊するしかなかった。ゴメンな大和」
そして和斗は空を仰ぎ見る。
「今回はマローダー改の弱点というか、対処できない事が沢山判明したな。マローダー改は最強だけど、やっぱり人々を守る能力に欠けるんだよな。それに煙幕で視界が奪われたら照準を合わせる事も出来なくなるし」
溜め息をつく和斗だったが、そこに。
――その多くは、解決できる事案でしたよ。
サポートシステムの呆れたような声が響いた。
「そ、そうなのか?」
訳が分からない、という顔の和斗にサポートシステムが続ける。
――煙幕によって視界が悪くて狙えなければサポートシステムに任せたら良かったのです。それに対空バ
ルカン砲システムとは、バルカン砲とレーダーを組み合わせたものですので、煙幕に関係なく攻撃す
る事は可能でした。
「マジかよ」
――それに、アパッチやF15を購入して戦闘に投入できるドローンを増やすという手段もありました。
「……はい、そうですね」
言われてみれば、その通り。
気づかなかった自分に腹が立つ。
――毒ガスも、アパッチやF15が巻き起こす風で逆流させる事も出来ましたし。
「……おっしゃる通りでございます」
またしても、その通り。
ぐうの音も出ない。
――マローダー改に出来ない事も多いのは確かですが、マスターが口にした欠点とは工夫でカバーできる
事が殆どだと思います。
「はい、反省しております」
思わず正座してしまう和斗に、サポートシステムが付け加える。
――チャレンジタワーでの訓練はマスターの役に立つ筈です。しっかり修行してください。
サポートシステムに言われて、和斗は思い出す。
神霊力の使い方を教えてもらう予定だった事を。
「そういやそうだったな。クーロンの襲撃で忘れてたぜ」
和斗はポンと手を打つが、そこに。
「カズト様」
マローダー改のフロントガラスに、キャスが顔を張り付けてきた。
「敵の生命反応が消滅しました。戦闘を終了します」
そう口にするキャスだったが、ガラスにベッタリと顔を引っ付けているので。
「ねえカズト。ザンネン感ハンパないね」
リムリアが口にした様に、せっかくの美少女が台無しだった。
と和斗が苦笑した、その時。
パラパパッパッパパーー!
――累計経験値が130億になりました。
装甲車レベルが106になりました。
最高速度が40万キロになりました。
最高速度到達までの加速時間が0・15秒になりました。
質量が650万トンになりました。
装甲レベルが鋼鉄310万キロメートル級になりました。
ⅯPが25万になりました。
装鎧のⅯP消費効率がアップしました。
1ⅯPで90秒間、装鎧状態を維持できます。
サポートシステムが操作できるバトルドローン数が350になりました。
神霊力が恒星10万個級になりました。
耐熱温度 15兆 ℃
耐雷性能 1500京 ボルト
になりました。
と、サポートシステムの声が。
「へえ、レベルアップしたのか……って、何で!? 何でそんなに大量の経験値が得られたんだ!?」
人間1人の経験値は1だった筈。
そして今回攻めて来たクーロン兵の数は、恐らくだが100万人程度のはず。
なのにどうしてレベルアップする程の経験値が?
という和斗の疑問が分かったのだろうか。
サポートシステムが説明を始める。
――今回倒した敵に、どんな兵器も生み出せる者がいました。
その者を放置した場合、水爆すら生み出した筈です。
つまり数十億人を殺せる兵器を生み出す者を倒した経験値だそうです。
「なんだか、誰かに聞いたコトを伝えているみたいな言い方だね」
そう漏らしたリムリアに、サポートシステムがサラッと答える。
――はい。そう至高神が、そう言っていました。
「そっか。……って、至高神!!? 何で!? いつの間に!?」
――忙しいので残念ながら、人間の生きる時間帯で話せない。だから超高速通信で伝える。と、いつの間
にかメールが。
「メール!? メールってナニ!? っていうか、そんなにホイホイ至高神からの
言葉が届いてイイの!?」
混乱気味のリムリアに、サポートシステムは冷静な声で答える。
――サポートシステムにそんな質問されても答えられません。
「ま、まあそうなのそうかも……ハァ、何だか想像を絶するコトに巻き込まれてる
みたいだけど……ねえカズト、ボク達これからどうなるのかな?」
「いきなり俺に聞かれても……」
やはり何が起きつつあるのか見当もつかない和斗だったが、そこに。
「リムちゃん~~、カズトくん~~、ありがと~~。おかげで助かったわ~~」
ユイコまでフロントガラスに顔を張り付けてきた。
「この人も、ザンネン過ぎるな」
「まあ、これがユイコだから」
苦笑いを浮かべてから、リムリアはマローダー改から飛び降りる。
「ユイコ、貸し1つだからね!」
ピッと指を立てるリムリアに。
「もちろんよ~~」
ユイコは親指を立てて見せてから、ホニャっと笑みを浮かべた。
「とにかく今から~~、クーロンを撃退したお祝いの酒盛りよ~~。もちろん1番の功労者のアナタ達2人にも参加してもらうからね~~」
「え~~と、沢山の人命が失われた直後なのに、そんなコトしてイイのか?」
和斗に質問にユイコは笑みを崩さずに答える。
「チャレンジ・シティーを守って命を散らせた人達を~~、盛大に送り出すのはココの伝統なのよ~~。湿っぽいのは無し~~。勇者を派手に見送る為に~~、夜通し騒ぐわよ~~」
ユイコの表情は、相変わらずホニャラとしたものだった。
しかし、その目には光るモノが。
その光るモノが何なのか分からないほど馬鹿ではないが。
それを口にするのは野暮というものだろう。
きっとコレが、チャレンジ・シティーの流儀なのだろうから。
だから。
「分かった。思いっ切り騒ごう!」
「うん、思いっ切り騒ご!」
和斗とリムリアは、そう答えたのだった。
この話で4章は終わりです。
次回から急展開の予定。
章ごとのタイトルは付けていませんが、あえて言えば
『時獄編』でしょうか。
12月の投稿を目指しています。
少々所間がかかりますが、気合を入れて書いていますので、できればお付き合いのほどを。
2021 オオネ サクヤⒸ