第百四話 福田の視点
MLRSのミサイル攻撃でチートF15は封じ込めた。
アパッチは91式携帯地対空誘導弾で撃ち落した。
残念ながら毒ガスは何故か効果を発揮していない。
しかしマローダー改を引きずり出す事には成功した。
だから福田は。
「ひゃはははは! やっと出てきたか、待っていたぞカズト!」
大和の第一艦橋で、下品な笑い声を上げると。
「主砲! 事前の計画通り、順次発射!」
46センチ砲によるマローダー改への攻撃を開始した。
マローダー改の防御力が、とんでもない事は理解している。
だから福田は切り札として、史上最強の武器を用意した。
人類の歴史上、最大にして最強の戦艦大和と、その主砲だ。
その大和の46センチ砲から。
ドォッカァアアン!!
福田の命令通り、第1弾が発射され。
ドゴォン!
マローダー改を直撃した。
それを目にしたトウコツが、福田の隣で意外そうな声を上げる
「ほう、1発目から命中したか。たった3日で、よく訓練できたな」
「もちろん苦労したであります」
この世界最強の戦艦、大和の主砲発射には。
砲台長1名、砲員長1名、照準手1名、照尺手1名。
旋回手2名、附仰手3名、砲尾栓開閉手3名。
通信手1名、測距手2名、伝令1名。
装薬手3名、装填手3名、給薬手3名、給弾手3名。
という、14種もの役割をこなす、40人近い人員が必要だ。
この大人数での砲撃訓練を3日で終える。
そんな事、出来るワケがない。
「しかし」
福田はそう口にして、ニヤリと笑った。
「チャレンジ・シティーから、たった300メートルのところに大河が流れていたのは幸運だったであります。そしてマローダー改の全長は12メートル。300メートルの距離から12メートルの的を狙うくらいなら、3日の訓練で何とかなるであります」
「なるほど。わざわざチャレンジ・シティーを偵察したのは、こういう事だったのか。情報が大切という意味、少しは分かった気がするぞ」
「それは嬉しい事であります」
福田は、そう口にしてからマローダー改に視線を向ける。
「しかし想像以上に頑丈な装甲車でありますな」
幾ら頑丈でも、たかが装甲車。
大和の主砲で砲撃すれば、1発だと福田は考えていた。
だがマローダー改は現在のところ、7発目の砲撃にも耐えている。
「想像以上でありますが、想定以上ではないであります。破壊できるまで砲撃を続けれは良いだけであります」
戦場では想定外の事が起きるのは当たり前。
だから福田は、焦る事なく。
「主砲! そのまま砲撃を続けろ!」
砲撃続行を命じたのだった。
その福田に、トウコツが尋ねる。
「ところでカズトとリムリアを引きずり出す事に成功したのなら、一気にチャレンジ・シティーに攻め入ったほうが良いのではないか? もうユックリと進軍する意味はなかろう?」
「そうでありますな。カズトとリムリアを誘き出した以上、ユックリ進軍する意味はないでありますな。では全軍に全速前進の命令を下すであります」
福田は無線機の手を伸ばそうとするが、その時。
「おや?」
撃墜したアパッチが、一瞬で元通りになるのが目に入った。
「ふん、性懲りもなく。どうやっているのか分からないでありますが、何度でも叩き落としてやるであります。全軍、計画通り、91式携帯地対空誘導弾でアパッチを撃ち落せ!」
この世界には、一瞬で怪我を治す魔法がある。
ならば撃墜されたアパッチを一瞬で修復する魔法があるかもしれない。
そう考えた福田は、91式携帯地対空誘導弾を大量に用意していた。
アパッチが復活した瞬間、再び撃墜する為に。
そしてそれは正解だった。
先ほどアパッチがいきなり元通りになったが、直ぐに撃墜できたからだ。
だから今回も、簡単に撃ち落すせると思っていたが。
「なんだとぉ!?」
直撃されても微動だにしないアパッチに、福田は目を見開く。
が、さすが元自衛官というべきか。
「攻撃の手を休めるな!」
福田は直ぐに追撃の指示を飛ばした。
その福田の命令通り。
シュパシュパシュパシュシュパシュパシュパシュパ!
無数の91式携帯地対空誘導弾が発射される。
それは全てアパッチに命中するが。
「これでも無傷なんて……ありえないだろ……」
平然と飛び立ったアパッチの姿に唖然となる。
が、短時間で我を取り戻すと。
「なら……10式戦車! 16式高機動車! アパッチを砲撃しろ!」
戦車砲による攻撃を命令した。
当然クーロン兵は命令通り、アパッチに照準を合わせようとするが。
ドシュシュシュシュシュシュシュシュ!
それよりも早く、アパッチからミサイルが発射され。
ドォッカァアアアアアアン!!!!!
10式戦車を直撃したのだった。
アパッチが搭載しているのはヘルファイア対戦車ミサイル。
命中すれば10式戦車でも耐えられるものではない。
それくらい福田だって知っていたが。
「何ぃ!」
福田は思わず大声を上げた。
ヘルファイアが命中した10式戦車が、ありえない規模で爆発したからだ。
10両以上の10式戦車を巻き込む程の大爆発。
どう考えても対戦車ミサイルに破壊力ではない。
その上、発射されたヘルファイアは1発ではない。
装備している全弾、8発だ。
その結果。
ありえない大爆発×8により、100近い10式戦車で破壊されてしまった。
しかも10のクーロン軍、全てで。
「なぜだ? なぜヘルファイアに、こんな威力があるんだ? 通常の数十倍、いや100倍ほどもあるぞ」
さすが元自衛官。
福田は100倍強化を正確に言い当てた。
まあ、言い当てたトコロで戦況が改善するモノではないが。
「オカシイだろ! オレは夢でも見てるのか!?」
夢なら覚めてくれ。
そう願う福田だったが、悪夢はこれで終わらなかった。
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
アパッチが38発のハイドラを発射したのだ。
「ま、まさか、このハイドラも……」
福田の悪い予感は的中する。
ズラリと並んだ10式戦車を包囲するように撃ち込まれたハイドラは。
ズッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
残った10式戦車を全て吹き飛ばした。
「バカな! この威力は何なんだよ! 何でヘルファイアもハイドラも、通常の100倍もあるんだよ! どうやったらが、こんな威力になるってんだよぉ! カズトぉぉぉ! キサマ一体なにをしたんだよぉぉぉぉぉぉ!」
福田は叫ぶが、悪夢は、まだ終わらない。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
アパッチが16式高機動車に、チェーンガンを発射した。
ちなみに16式高機動車の防御力は公表されていない。
しかし16式高機動車は、車重26tもある鉄の塊だ。
チェーンガンくらいなら十分に耐える。
筈なのに。
「またかよぉぉぉ!」
16式高機動車は簡単に装甲を撃ち抜かれてしまった。
しかも1両だけではない。
アパッチがチェーンガンで一薙ぎした後。
残ったのは16式高機動車の残骸だけだった。
「ちくしょうちくしょうちくしょう! 何なんだよ、その馬鹿げた破壊力は! いくら戦闘ヘリが対戦車兵器として優れている、っていっても1機で200両の戦車と装甲車を破壊するなんてオカシイだろ!」
「おい落ち着け」
ガシガシと床を蹴りつける福田に、トウコツが声をかけるが。
「ふ~、ふ~。自分は冷静であります」
その言葉通り、福田は落ち着きを取り戻した。
「10式戦車と16式高機動車を失ったのは痛手でありますが、アパッチは全兵装を使い切ったであります」
「それがどうかしたのか?」
首を傾げるトウコツに、福田は説明してやる。
「つまりアパッチは、基地に帰還してミサイルにロケット弾、チェーンガンの弾を補給してもらわない限り、戦えないという事であります。そしてアパッチが弾薬を補給して戦闘に復帰する前に軽装甲戦闘車両と7tトラックを突入させればチャレンジ・シティーは攻め落とせるであります」
「なるほど。マローダー改を仕留めるのも時間の問題。ならアパッチに戦力をこれ以上減らされる前にチャレンジ・シティーを攻めるのが正解だな」
「その通りであります」
ニヤリと笑ったトウコツに、福田もニヤリと笑い返すと。
「全軍、全速前進!」
無線機に向かって、そう怒鳴った。
その命令に従ってクーロン軍は一気に進軍を開始しようとするが。
ドシュシュシュシュシュシュシュシュ!
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
アパッチからヘルファイアとハイドラが発射され。
ドォッカァアアアアアアン!!!!!
ズッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
軽装甲戦闘車両と7tトラック、合わせて1万台が吹き飛んだ。
「なんだとぉ――! アパッチが搭載できるのはヘルファイア8発とハイドラ38発の筈! なのに何故また、ヘルファイアとハイドラが発射されたんだぁ!?」
絶叫する福田の目の前で。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
アパッチが、チェーンガンでクーロン軍を薙ぎ払った。
「チェ、チェーンガンまで……」
言葉を失う福田の前で、更に2万台の車両が失われた。
「アパッチには予備のミサイルやロケット弾、チェーンガンの予備の弾丸を搭載するスペースは無い筈! いや、それ以前に武器の構造上、着陸して装填する以外に再発射する方法ない筈だ! なのに何故、連射出来るんだ!」
アパッチの弾薬は、リロードで何度でも補給できる。
その事を知らない福田にとって、当然の疑問だ。
「くそ、どうなってるんだ!」
福田は怒鳴りながらも、必死に考える。
福田も自衛官。
自衛隊で正式採用されているアパッチの性能は知り尽くしている。
だから福田は、今回の計画に絶対の自信を持っていた。
なにしろ生け贄と引き換えに生み出した兵器は、地を埋め尽くすほど。
この圧倒的物量なら、想定外の事態が起きても十分に対応できる、と。
しかしアパッチの性能は、福田の想定を遥かに超えていた。
「何で急に91式携帯地対空誘導弾で撃ち落せなくなるんだよ! その上、ミサイルもロケット弾もチェーンガンも撃ち放題って何だよチクショウ! ……落ち着くんだオレ! 冷静さを取り戻して考え直すんだ! まだ手はある筈だ! よく考えるんだ!」
福田は必至に事態を打開しようと考え込むが。
そんな時間は残されていなかった。
2021 オオネ サクヤⒸ