第百三話 福田の切り札
チャレンジ・シティーの城門にマローダー改が姿を現した瞬間。
「ひゃはははは! やっと出てきたか、待っていたぞカズト!」
福田は下品な笑みを浮かべた。
以前、チャレンジ・シティーで集めた情報から、福田は確信していた。
チャレンジ・シティーを追い詰めたら、必ず和斗が姿を見せると。
そして状況が不利であれば不利であるほど。
マローダー改で仲間を庇うに違いない、と。
そしてその福田の考えは正しかった。
警備兵を叩きのめし、攻撃魔法による反撃も無効化。
F15はMLRSで足止めし、アパッチは撃ち落した。
もうチャレンジ・シティーに戦闘力は残っていない。
この状況なら、和斗はマローダー改で出撃せざるを得ない筈。
という福田の目論見通り。
マローダー改が姿を見せた。
その中にカズトとリムリアが乗っているのは疑う余地が無い。
後はマローダー改を破壊するだけだ。
切り札として用意した最強戦艦、大和の主砲によって。
大和の主砲は、有名な46センチ砲だ。
その砲弾の速度は音速の2倍以上。
30キロメートル先の、厚さ40センチの装甲を撃ち抜く。
連射速度は毎分2発。
3連装砲塔が3つだから、大和に搭載された46センチ砲は9門。
毎分18発、つまり3・3秒に1発、打ち込める計算になる。
その3・3秒ごとの砲撃に、和斗は動けないでいた。
「くそ、この場を動いたら46センチ砲が城壁を直撃しちまう」
いくら城壁が頑丈でも、大和の46センチ砲には耐えられない。
簡単に砕け散って、その破片は多くの人々を殺傷するだろう。
「つまり、ここでクーロン軍を迎え撃つしかないってコト?」
フンと鼻を鳴らすリムリアに、和斗は頷く。
「そうだな、俺は戦車砲で大和を狙うから、リムは他の武器で見える範囲のクーロン軍を始末してくれ」
「分かった!」
という事で、和斗は大和を攻撃しようとするが、そこに。
コココココン。
マローダー改の装甲に何かが命中し。
ボワッ!
真っ黒な煙がマローダー改を包み込んだ。
「なんだ、こりゃ!? ……発煙筒か!」
正確には76ミリ発煙弾だ。
ちなみに。
16式高機動車には76ミリ発煙弾発射器が装備されている。
「くそ、これじゃあ狙いを付けられない」
和斗は唇を噛んだ。
マローダー改で出撃する直前、和斗は見ていた。
警備隊が、城壁から100メートル地点に塹壕を掘っているトコロを。
その幅は10メートル。
深さは敵側が1・5メートル、シティー側が2・5メートルだ。
その塹壕を、チャレンジ・シティーを取り囲むように掘り進めていた。
これなら戦車や装甲車がはまり込んで動けなくなる。
よく考えているものだ、と和斗は感心したのだが。
それが足枷となってしまった。
煙によって狙いが定まらない今。
適当に武器を発射したら、塹壕を掘っている警備隊に当たる恐れがある。
つまり現状、マローダー改は46センチ砲の直撃を、ひたすら耐えるしかない。
「でも、このまま弾切れまで待ってたらイイんじゃない? そしたらマローダー改で攻め入ったらイイだけだし」
そんなリムリアの感想に、和斗は首を横に振る。
「いや、その間にクーロン軍が城壁に辿り着いてしまう。そうなったら戦車砲で城壁を破壊されてチャレンジ・シティーに攻め入られてしまう。その後は……どんな酷い殺戮が行われるか見当もつかない」
「え? それって……」
和斗の言葉にリムリアは顔色を変えた。
最強兵器であるF15は、ミサイルを迎撃するだけで手一杯。
移動砲台であるアパッチは撃ち落されてしまった。
キャスは毒ガスの無害化で戦闘参加は不可能。
そしてマローダー改の武器も、今は使えない。
「救いは、マローダー改なら敵の攻撃にもビクともしないコトだね」
リムリアが口にしたように、それだけは福田にとって計算外だったろう。
まさか世界最強の戦艦の砲撃に、装甲車が耐えるとは思いもしなかった筈だ。
しかし。
「攻撃手段が何も無い、ってのは痛いな。このままじゃ、俺達はともかく、チャレンジ・シティーが壊滅しちまう」
と、そこでリムリアがポンと手を叩く。
「あ、そうだ! ねえカズト。アパッチを自分で操ったら、アパッチの視点になるじゃん? そしたら煙で何も見えない今の状況でも、クーロンと戦えるんじゃないの?」
「そ、そうか! ありがとなリム! よし、早速!」
和斗はレストアを発動させてアパッチを直した。
同時にアパッチを上昇させようとするが。
シュパシュパシュパシュパシュパ!
ドカァン!
即座に91式携帯地対空誘導弾によって撃墜されてしまった。
「くそ! クーロンのヤツ、アパッチに攻撃されたらマズいと分ってるから絶対に飛び立たせない気だな! くそ、どうしたらイイんだよ!」
和斗が、イラついた声を上げた、その時。
――マスター。
急にサポートシステムが声を上げた。
「ど、どうしたんだ、サポートシステム」
訝し気な顔になる和斗に、サポートシステムが強い口調になる。
――自分で気付くまで見守る予定でしたが、もう時間がありません。
マスター。
「は、はい」
思わす背筋を伸ばす和斗に、サポートシステムが告げる。
――ドローンが13段階まで強化が可能なのは覚えていますか?
「も、もちろん」
――なら、なぜアパッチを強化しないのですか?
事前に強化しておけば撃墜されるコトなどなかったのに。
「ええ!? アパッチも強化できるのか!?」
和斗が大慌てで確認してみると。
バトルドローン(アパッチ)
重量(t) 強度 必要ポイント
ノーマル10・4
『1』 15 1 m 1千
『2』 20 5 m 2千
『3』 25 10 m 4千
『4』 35 20 m 7千
『5』 45 40 m 1万
『6』 55 70 m 1万5千
『7』 70 110 m 2万
『8』 90 170 m 3万
『9』 110 250 m 5万
『10』 140 350 m 8万
『11』 170 500 m 12万
『12』 210 700 m 17万
『13』 250 1 km 23万
最大速度(水平 垂直降下 横・後進 垂直) 航続距離
( 時速 ) (毎分)
ノーマル 293∥ 365∥ 81& 633m 611km
『1』 350∥ 420∥ 90& 800m 1050km
『2』 400∥ 480∥ 100& 900m 1400km
『3』 450∥ 550∥ 120& 1000m 1800km
『4』 500∥ 630∥ 140& 1100m 2250km
『5』 600∥ 720∥ 160& 1200m 3000km
『6』 700∥ 820∥ 180& 1300m 3850km
『7』 800∥ 930∥ 200& 1400m 4800km
『8』 900∥1050∥ 220& 1600m 5850km
『9』 1100∥1300∥ 240& 1800m 7700km
『10』 1300∥1500∥ 260& 2000m 9750km
『11』 1500∥1700∥ 280& 2300m 12000km
『12』 1700∥2000∥ 300& 2600m 14400km
『13』 2000∥2300∥ 330& 2900m 18000km
となっていた。
「13段階まで強化したら、防御力は鋼鉄1キロ相当!? しかもマッハで動けるし! これって無敵の移動要塞みたいなモンだろ!?」
――ではアパッチを13段階まで強化しますか?
興奮気味の和斗に、サポートシステムが呆れ気味に尋ねた。
マローダー改のレベルアップで、感情豊かになったのだろうか?
まあ、それはおいといて。
「あ、ああ、お願いします」
――了解です。
こうしてアパッチ強化が終了したトコで。
「ようし、レストア!」
和斗はアパッチを復活させた。
もちろんこれは、10機のアパッチで同時進行している。
当然。
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
ドカドカドカドカドカァン!
91式携帯地対空誘導弾が雨のように降り注ぐが。
「へん! 今のアパッチに、そんなチャチな攻撃が効くかよ!」
和斗が声を上げたようにアパッチは無傷だった。
なにしろ今のアパッチの防御力は鋼鉄1000メートル級。
91式携帯地対空誘導弾など、何発食らっても痛くもかゆくもない。
だから和斗は。
「さてと。今からが本当に、俺のターンだ」
今日初めて笑みを浮かべると。
「よし!」
パァンと頬を叩いて気合を入れ、アパッチ10機を操作したのだった。
その瞬間、和斗の視界は10のアパッチのものへと変わる。
10の視界というのは不思議な感覚だったが、それにも直ぐに慣れた。
というより、10本の指と同じような気軽さで操れる。
「マローダー改がレベル105になって、俺の能力もアップしてるからなんだろうな。前よりずっと簡単な気がする」
和斗はそう納得すると。
「いくぞ!」
まずはアパッチを上昇させた。
上昇速度が毎分2900メートルにアップしているだけあって、実に速い。
あっという間に地面が遠くなっていく。
「おっと、上昇し過ぎたら狙いにくいから……」
和斗は地上200メートルくらいで上昇を止めると。
「アパッチ1機でクーロン軍1を相手にするくらいで丁度いいか。さてと、10か所同時攻撃の始まりだ!」
和斗はそう呟き、そして。
「そら、食らえ!」
ヘルファイア対戦車ミサイルを発射した。
アパッチが搭載するヘルファイアは8発。
その100倍強化ヘルファイア8発は。
ドォッカァアアアアアアン!!!!!
100近い数の10式戦車を吹き飛ばした。
もちろんコレは、他のアパッチも実行している。
つまり10のクーロン軍で、合計1000近い10式戦車を破壊したワケだ。
「う~~ん、この威力はもう、対戦車ミサイルじゃないな。逆に戦車に使うにはもったいない破壊力だぜ」
和斗はそう呟くと。
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
今度はロケット弾を発射した。
ハイドラ70ロケット弾。
それがアパッチに搭載されているロケット弾の名称だ。
全長 1・06 メートル
弾体直径 70 ミリ
重量 6・2 キログラム
M151弾頭の場合、殺傷範囲は50メートルだ。
もちろん、これはノーマルの場合。
今のハイドラは100倍に強化されている。
そしてアパッチは、このハイドラを19発収納したポッドを2つ装備している。
つまり和斗は、38発のハイドラを発射可能にしたワケだ。
当然ながら爆発範囲を計算して、着弾点を分散させている。
こうして広範囲に撃ち込んだハイドラは。
ズッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
最前列に展開していた10式戦車の殆どを破壊した。
大和を除けば、クーロン軍の中で1番強力な兵器は10式戦車。
しかし、それとほぼ同等の脅威となるのが16式高機動車だ。
いや、時速100キロで走行出来るぶん、コッチの方が厄介かも。
だから和斗は、16式高機動車を次の標的にする。
「次はチェーンガンだ!」
M230チェーンガン。
発射速度 625発/分
最大射程 4500 メートル
しかも弾頭は形成炸薬多目的榴弾、つまり爆弾のようなもの。
50ミリの装甲を撃ち抜き、半径4メートルが殺傷範囲となる。
このチェーンガンも100倍に強化されている。
だから。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
チェーンガンに一薙ぎで、16式高機動車はスクラップと化したのだった。
しかしまだ、10式戦車と16式高機動車を破壊しただけ。
4万台の軽装甲車、4万台の7tトラック4万、1000両のMLRS。
そして大和が残っている。
2021 オオネ サクヤⒸ