第百二話 ワタシが無効化しましょうか?
「クーロン軍が所持する全大量破壊兵器、処理し終えました」
ヒヨと共に全ての原爆を消滅させ、キャスは和斗に報告した。
「ヒヨ、キャス、御手柄だったぞ」
「えへへへ」
和斗に褒められてタンポポの綿毛のような笑い顔になるヒヨの横で。
「簡単な事です」
キャスが当然とばかりに答えた。
「さすが星間戦争対応型惑星制圧兵器。とんでもない性能だ」
「おそれいります」
和斗はペコリと頭を下げるキャスからヒヨに目を移す。
「しかしヒヨに、こんな力があるとは思わなかったぜ。今から考えると、タワーチャレンジの全ての武器が手に入らなくなるデメリットなんかどうでもイイくらいの力だぜ」
ヒヨは『何でも食べる』と言っていた。
もしもその言葉通り、何でも食べられるのだとしたら。
ヒヨは世界一強力な兵器かもしれない。
少なくとも全長5メートル、重量5tもある原爆を食べる事ができる。
つまり核兵器を無効化する能力。
地球だったら軍事バランスを崩してしまう能力だ。
恐ろしい力ではあるが、救いの力でもある。
ヒヨなら、福島原発の汚染土や汚染水の問題を解決できるだろうから。
などと和斗が考えていた、その頃。
「な、なにが起こったんだ?」
用意した秘密兵器、原爆が消滅してしまう。
その想定外の出来事に、福田は唖然としていた。
だが、直ぐに。
「ふん、作戦を1つしか用意しないのは素人のやる事! ちゃんと別の手を考えている!」
福田は自分にそう言い聞かせると、さっそく無線機で指令を飛ばす。
「MRRS! 今までのペースでミサイルを発射してF15を引きつけろ! 焦って連射するんじゃないぞ! 一定の間隔で撃ち続けろ」
そして福田は悪魔の笑みを浮かべると。
「トウコツ殿、毒ガスの出番であります」
福田と一緒に戦況をみまもっているトウコツに、そう告げた。
この毒ガスは、福田が生み出したものではない。
クーロン帝国で昔から使われているモノだ。
「自衛隊では毒ガスなどという非人道的な兵器の使用は認められてないでありますが、この世界には国際条約なんか無いから、遠慮なく使えるであります!」
毒ガス。
地球でなら国際条約で使用を禁止されている、非道な兵器だ。
そして、この世界でも使用すれば間違いなく非難される。
当たり前だ。
毒ガスは兵士だけでなく、一般市民も無差別に巻き込んで殺傷する。
即死する場合もあるが、苦しみ抜いて死に至る場合も多い。
しかも一命をとりとめても、重い後遺症に悩まされる。
そんな無差別殺傷兵器を平気で使うのは、クーロン帝国くらいのものだ。
だからクーロンは世界中から嫌われているのだ。
どんな汚い事も平気でやる、誇りのない国として。
しかし福田もクズ。
クーロンの卑劣な戦い方を平然と実行に移す。
「現在、風上にいるのは……第4軍、第5軍、第6軍、第7軍でありますね」
福田は風向きを確認すると。
「第4軍、第5軍、第6軍、第7軍! 毒ガスを放て!」
無線機に向かって、そう叫んだ。
毒ガスの散布。
それは散布する兵士も、死に至る危険がある。
その対抗策として、福田はトラックに防毒の呪符を張り付けていた。
これによりクーロン兵は、毒ガスの被害を心配する必要がなくなる。
だから。
――第4軍、毒ガス散布完了!
――第5軍、毒ガス散布完了!
――第6軍、毒ガス散布完了!
――第7軍、毒ガス散布完了!
クーロン軍は、何の心配もなく毒ガスを撒き散らしたのだった。
ちなみに。
クーロン軍が使用する毒ガスは無臭無色。
吸い込んで、異常をきたすまで毒ガスに気付く事はない。
だからチャレンジ・シティーは、多数の死者が出てしまうトコロだったが。
「毒ガスを検知しました。3分31秒後、チャレンジ・シティーに到達。事態をこのまま放置すれば、17分52秒でチャレンジ・シティーの人口の99・999%が死滅します」
その前に、キャスが迫りくる毒ガスに気付いた。
「な!?」
またしても和斗の顔色が変わる。
放射能の問題は解決できたと思っていた。
しかし状況は変わっていなかった。
このままでは、チャレンジ・シティーの全人口が失われてしまう。
マローダー改に、他の人々を護る能力はないコトが、悔やまれる。
が、無い物ねだりをしていても仕方がない。
即座に和斗は確認してみる。
「リム、魔法で何とかなるか?」
その質問に、リムリアは悔しそうに首を横に振る。
「無理だよ。いくらボクでも、チャレンジ・シティー全体をカバーできる結界を張るコトは無理だよ」
「ユイコさん、何か手立てはありますか?」
和斗の問いに、ユイコは即答する。
「ムリよ~~」
どうしたらイイ?
毒ガス到達まで、後3分11秒。
それまでに、方法を見つけねば!
必死に考える和斗に、キャスがアッサリと言ってのける。
「ワタシが無効化しましょうか?」
「出来るのか!?」
思わず詰め寄た和斗に、キャスはコクリと頷く。
「はい。ワタシには対BC兵器装備も搭載されています。この程度の毒物を無害な物質に変化させる事など簡単です」
「よし、今すぐ毒ガスを無害化してくれ」
「了解です」
そしてキャスは毒ガスの無毒化を開始するが。
「マスター。想定外の事態です」
キャスが声を漏らした。
その声は、いつものように冷静だ。
しかし和斗はその声に、わずかに焦りを感じた。
「どうしたんだ? やっぱり無理だったか?」
嫌な予感に、和斗も焦った声で聞き返すと。
「いいえ、空気中の有毒物質は完全に無害化しました」
キャスはそう答えた。
それを耳にして胸をなで下ろす和斗に、キャスが続ける。
「しかし無害化できるのは空気中の有毒物質だけです。クーロン軍は次々と密閉された袋から毒ガスを散布していますが、その密閉された袋の中の有毒物質までは無害化できません。つまり袋から有毒物質がまき散らされる度に、無害化の作業が必要となります」
それは、クーロンが毒ガスを散布した瞬間、無効化できるという事。
そのドコに問題があるんだろ?
と首を傾げる和斗に、キャスが告げる。
「無害化の作業を続行する為には攻撃モードを解除し、防衛モードになる必要があります。しかし防衛モードに入ったら、ワタシは一切攻撃出来なくなります。どう致しましょう?」
それはつまり、今からキャスは戦力外になってしまうという事。
しかし和斗には10機の100倍強化アパッチがある。
そして原爆が無くなった今なら、アパッチの武器を心置きなく使える。
だから和斗は、何の心配もなくキャスに答える。
「ああ、構わない。今後一切戦闘に参加する必要はないから、毒ガスの無効化に全力を注いでくれ」
「分かりました」
こうしてキャスは、毒ガス対策に専念する事となった。
それを見届けると、和斗は改めてクーロン軍に目を向ける。
「さて、と。今までさんざん汚い手で悩ましてくれたけど、やっと俺にターンが回ってきたな」
そして和斗はアパッチ10機を自分で操作すると。
「いっくぞぉ!」
10のクーロン軍へと攻撃を開始した。
「まずはヘルファイアだ!」
AGM‐114ヘルファイア対戦車ミサイル。
弾速 マッハ1・1
射程 8 km
装甲貫通能力 1350 ミリ
このヘルファイアを、今は100倍強化している。
その破壊力は。
ドッカァァァァン!!
1発で10式戦車を吹き飛ばし、6両を巻き添えにした。
「よし、ドンドンいくぞ!」
和斗はアパッチ全機からヘルファイアを発射しようとしたが、その瞬間。
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
クーロン兵が91式携帯地対空誘導弾を発射し。
ドカドカドカドカドカァン!
5機のアパッチが撃ち落されてしまった。
「な!?」
目の前でナニが起こった?
アパッチが撃墜された?
まさかそんなコトが?
思いもしなかった事態に和斗が混乱していると。
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
またしても91式携帯地対空誘導弾が発射され。
ドカドカドカドカドカァン!!
さらに5機のアパッチを撃ち落されてしまった。
「え? え? ナニ? アパッチ、撃ち落されちゃったの?」
リムリアも何が起きたか理解できないようだ。
いや、理解したくないのだろう。
それは和斗も同じだったが。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
クーロン軍が進軍する地響きに、我を取り戻す。
「キャス、そのまま毒ガス無効化を続けてくれ」
「はい」
「頼んだぞ」
次に和斗は、リムリアに目を向けた。
「リム、俺達はマローダー改で出撃するぞ!」
「う、うん!」
こうしてマローダー改に向かおうとする和斗に。
「一緒に行くですぅ!」
ヒヨが大声を上げた。
「え? いや……」
安全の為、キャスと共にココに残れ。
そう口にしようとして、和斗は思い直す。
世界で1番安全な場所はマローダー改の中だ。
なら一緒に連れて行った方がイイ。
「よしヒヨ。一緒に行こうか」
「はいですぅ!」
という事で。
和斗はリムリアとヒヨを引き連れてマローダー改に乗り込むと。
「クーロン軍をぶっ飛ばすぞ!」
「うん!」
引き締まった顔のリムリアと。
「はいですぅ!」
春の陽だまりみたいな笑顔のヒヨと共に出撃したのだった。
「城門を開けろ!」
マローダー改出撃の為、城門の分厚い装甲扉は開けられる。
そして城門をマローダー改が通り抜けると同時に、扉は閉じられた。
と同時に和斗が、マローダー改を加速させようとした瞬間。
ドォッカァァァァン!!
マローダー改に、2メートルもある砲弾が命中した。
「な、なんだ?」
そう口にした直後。
和斗はチャレンジ・シティーの近くを流れる大河に目をやり、呆然とする。
「え? な、なんで? なんであんなモノが?」
目を見開く和斗の横で、リムリアが大声を上げる。
「大きい! なにアレ!? あんなに大きなモン、見た事ないよ!」
和斗とリムリアを驚かせたのは。
全長 263・0 メートル
最大幅 38・9 メートル
満載排水量 72808 トン
という巨体に。
46センチ3連装砲塔 3
15・5センチ3連装砲塔 4
12・7センチ連装高角砲 6
13ミリ連装機銃 2
25ミリ3連装機銃 8
の兵装の持つ鋼鉄の船。
そう。
日本が世界に誇る最強の戦艦=大和だった。
2021 オオネ サクヤⒸ