第百一話 原始的な大量破壊兵器です
クーロン軍が進攻を開始した直後。
「カズト」
リムリアは、地面の揺れで目を覚ました。
「ああ、気が付いてる。これは、余程の質量を持つ何かが動いてるな」
そう言葉を交わした和斗とリムリアの元に。
「カズト様、リムリア様! ギルド本部までお越し願えませんか!?」
ギルドからの使者が飛び込んできた。
その使者の先導でギルド本部に向かうと。
「大変なコトになっちゃったわ~~」
ユイコに、いつもと変わらない声で出迎えられた。
しかしその顔は、いつもの呑気な顔ではなかった。
そのユイコに、リムリアが尋ねる。
「ナニがあったの、ユイコ」
「それがね~~、クーロン軍が攻めて来たの~~。今警備隊が迎え撃ってるみたいだけど~~、どうも旗色が悪いみたいなの~~。ギルドマスターの部屋まで来てくれないかしら~~?」
と、ユイコに連れられてギルドマスターの部屋に入ってみると、そこには。
「へえ。チャレンジ・シティー一帯の立体魔法映像かぁ」
リムリアが口にした様に、周辺の立体映像が映し出されていた。
映像は実に精密で、戦闘状況までもが正確に映し出されている。
そして目の前で、チャレンジ・シティー側が、ドンドン窮地に陥っていく。
バイエルが12・7mm重機関銃に撃ち倒されてしまい。
そしてドンナ―達が、91式携帯地対空誘導弾で全滅させられてしまう。
これらの映像を見つめながら和斗は呟く。
「戦車に装甲車にトラック? しかもアサルトライフルや重機関銃にミサイルまで持ってるなんて、どうなってるんだ?」
その間にも、精密立体映像の中で戦闘は進んでいく。
和斗の目の前では、警備隊が攻撃を魔法に切り替えていた。
状況から、戦士による突進が無駄だと悟ったのだろう。
これなら7tトラックにダメージを与えるコトが出来そうだな。
和斗は、そう考えたが。
警備隊が放った魔法は、7tトラックに命中する寸前で消滅してしまう。
「魔法攻撃が!? ナンで!? このままじゃチャレンジ・シティーはクーロンに侵略されちゃうよ!」
悲壮な声を漏らすリムリアに、ユイコも声を沈ませる。
「魔法を無効化する封魔の呪符みたいね~~」
封魔の呪符。
クーロン帝国に伝わる呪術によって造られた、魔法を無効にする道具だ。
1枚でも、かなりの防御力を持つ。
クーロン軍はその呪符を、車両に隙間なく貼り付けていた。
「これじゃあボクのプラズマランスでも撃ち抜けるかどうか……」
リムリアの声が小さくなっていくが、そこで。
「問題ない」
和斗は自信に満ちた顔をリムリアに向けた。
「リム、ワラキアの戦いを忘れたのか? この程度の軍なんか100倍強化アパッチなら楽勝だぞ」
「そ、そうだったねカズト! ワラキアを攻めて来たクーロン軍を全滅出来たんだから、今回も勝てるよね!」
目を輝かせるリムリアの後ろで。
「ワタシも戦いましょうか?」
今まで黙ってヒヨを肩車していたキャスが口を開いた。
「このような原始的な兵器など、ワタシなら10分で全滅させてみせます。プラズマキャノンなら数秒で片が付くでしょう」
キャスの言葉に結子が顔を輝かせる。
「数秒かぁ~~。ならお願いしちゃおうかな~~」
「しかし川は蒸発し、地表は溶けてガラス質に変質してしまいますから、農作地は壊滅しますが宜しいでしょうか?」
「それも困るわ~~」
全然困ってみえないユイコに、和斗は苦笑を浮かべてからキャスに尋ねる。
「じゃあキャス。アパッチとF15とマローダー改が戦いに参加したら?」
「クーロン軍殲滅まで22秒です」
キャスの答えに、リムリアが目を輝かす。
「ユイコ、これならチャレンジ・シティーに被害が出ないんじゃない?」
「そうね~~、大丈夫だと思うわ~~」
「ならミンナ、それでいこ!」
勝手に話をまとめるリムリアに苦笑しながらも。
「よし。じゃあ、その作戦でやるか」
和斗はギルドマスターの部屋を後にしたのだった。
チャレンジ・シティーを取り囲む城壁の上。
和斗はリムリア、ヒヨを肩車したキャス、ユイコと共にクーロン軍を見つめ。
「クーロンは10の軍に分かれて攻めてきてるんだから、それぞれにアパッチを1機ずつ向かわせるか。いや、その前にF15をクーロン軍スレスレに飛ばして衝撃波を叩き付けた方が早いかな」
ブツブツと呟いていた。
F15は四神の軍を、その衝撃波だけで全滅させた。
ひょっとしたらF15だけでカタが付くかも。
などと和斗が楽観していると。
シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパッ!
チャレンジ・シティーに、10方向からミサイルが飛んで来た。
が、たかが10発のミサイルだ。
バルカン砲対空システムなら楽勝で撃ち落せるだろう。
そう考えた和斗は、余裕でサポートシステムに声をかける。
「サポートシステム。バルカン砲対空システムでミサイル撃ち落してくれ」
しかし。
――この位置からでは建物が邪魔して迎撃できません。
サポートシステムから、予想外の答えが帰ってきた。
「ええ!? じゃあ迎撃は無理か!?」
――F15を使えば可能です。
サポートシステムの冷静な答えに、和斗は瞬時に判断する。
F15の性能なら、ミサイルを迎撃するのは簡単だ。
しかし和斗はレベルアップしたF15を操る練習をしていない。
ぶっつけ本番で操作して、失敗したら市民に犠牲が出てしまう。
ならサポートシステムに任せた方が確実だ。
「サポートシステム! F15の操作を任せるからミサイルを頼む!」
――了解です。
サポートシステムが答えると同時にミサイルが爆発した。
どうやら撃墜に成功したようだ。
しかし。
――新たなミサイルの発射を確認しました。
サポートシステムの声に、和斗は怒鳴る。
「そのままF15でミサイル迎撃を頼む!」
――了解。
確実にミサイルを撃ち落とすサポートシステムに胸をなで下ろしながらも。
「ち! 敵は俺達の事を、よく研究してるみたいだな」
和斗は舌打ちした。
これでF15はミサイルを撃ち落とす為に動かせなくなった。
つまりF15の衝撃波でクーロン軍を攻撃できなくなったワケだ。
「それならアパッチで攻撃したらイイだけだ。ポジショニング!」
和斗はアパッチを上空に出現させると。
「キャス! アパッチとキャスで敵を攻撃するぞ」
「はい、カズト様」
キャスは和斗の命令を耳にするなり。
「リムリア。ヒヨをお願いします」
ヒヨをリムリアに預け、戦闘体型に変形した。
それを見届けると同時に和斗は、アパッチによる攻撃を開始した。
いや、開始しようとしたのだが。
「カズト様! 攻撃を中止してください!」
キャスの緊張を含んだ声に、反射的に動きを止めた。
「どうしたんだ、キャス」
訝し気な和斗に。
「あれを見てください」
キャスはクーロン軍を指差した。
正確には、戦車を追い越して前に出た、7tトラックだ。
「只のトラックみたいだけど、アレがどうかしたのか?」
首を傾げる和斗に、キャスがとんでもない事を告げる。
「原始的な大量破壊兵器です。核反応を利用したタイプですが、核反応効率が非常に悪い為、爆発した場合、この一帯は放射能によって汚染されてしまいます」
「な!?」
キャスの言葉に、和斗は7tトラックの荷台を凝視する。
そこにあったのは。
「リトルボーイ……広島に投下された原爆か……」
全長5メートル、重量5tの原子爆弾だった。
「ちくしょう! これじゃあ……」
和斗が言いかけたように、これで殆どの攻撃が出来なくなってしまった。
今、確認できる原爆を搭載したトラックは100台ほど。
それが10台ずつ、10の軍に配置されている。
この原爆搭載トラックに攻撃が命中したら原爆も爆発してしまうだろう。
が、それは原爆搭載トラックに命中しなくても同じ。
戦車を攻撃しても、その爆発によって誘爆するかもしれない。
それに今見えている原爆が、敵が所持している全てとは限らない。
他のトラックにも原爆が搭載されているかもしれない。
そしてアパッチの武装はチェーンガンにミサイル、ロケット弾。
どれも爆発する武器ばかりだ。
しかも100倍に強化されている。
ヘタに攻撃したら、誘爆してしまうだろう。
そして1発が爆発したら。
その高熱の爆風により、次々と他の原爆も爆発。
チャレンジ・シティーを跡形もなく吹き飛すだろう。
もちろんF15による攻撃も出来ない。
衝撃波は広範囲を破壊するから、原爆も巻き込んでしまうからだ。
だが、もっと恐ろしいのは放射能だ。
100の原爆がまき散らす放射能が、どれほどのものか。
和斗には見当もつかない。
しかし原爆を投下された広島の様子なら知っている。
和斗の曾祖母が、被爆者だったからだ。
その曾祖母が語った、当時の広島は正に地獄。
だが原爆の真の恐ろしさは、その後何十年も原爆症に苦しむ事だ。
和斗の曾祖母も、放射能がもたらす幾つもの病気に苦しんだ。
そして戦後50年間苦しんで、そして一生を終えた。
そんな悲劇をもたらす原爆を、ここで爆発させるワケにはいかない。
しかし、どうしたらイイんだ!
顔色を変えて考え込む和斗に、リムリアがオズオズと尋ねる。
「カズト、どうしたの?」
「アレは、俺の世界で最悪の兵器だ。もしもアレが爆発したらチャレンジ・シティーが粉々になるダケじゃなくて、この辺り一体を生物が生息できない状態にしてしまう」
「そ、そんな……」
リムリアが絶句したのも無理はない。
それはドラクルの魔法攻撃も出来ないコトを意味するのだから。
もちろんマローダー改に乗っていれば、核爆発も放射能も平気だ。
しかしそれはマローダー改に乗っている和斗達だけ。
チャレンジ・シティーの住民は全て死に絶えてしまう。
そんなピタリと動きを止めたアパッチを見上げ、福田はほくそ笑んでいた。
「どうだ、これが俺の秘密兵器だ。これならアパッチの武装がどれほど強力でも使用できないだろ? F15イーグルが、どれほど高速で飛べたとしても、衝撃波によって攻撃できないだろ? 原爆が爆発したら大変だからな。くくくく、これが戦略というモンよ! 倒せる敵は倒す。もしも倒せなくても無効化すればいい。これがプロの戦い方だ」
福田は自慢げに呟いた、その頃。
「マスター、どうして困ってるですぅ?」
リムリアに抱っこされたヒヨが無邪気な声を上げていた。
「ヒヨ、あの乗り物に積まれている兵器が見えるか?」
「あの大きなテルテル坊主ですぅ?」
「テルテル坊主? ああ、そういや似てるかな。ま、そのテルテル坊主が爆発したら、ここにいる全員が死んでしまうんだ」
誤魔化す事なく事実を告げた和斗に、ヒヨは無邪気な目を向ける。
「なら、あのテルテル坊主が無くなったらイイですぅ?」
「そうだな、アレが無くなったらイイんだけどな」
苦い顔でそう答えた和斗に、ヒヨはお日様のような笑顔を向けた。
「なら、なくしてしまうですぅ」
「え?」
ヒヨが何を言ったか理解できない和斗の目の前で。
「あ~~ん」
ヒヨがパカッと口を開けた。
「え~~と、ヒヨ、ナニする気……」
和斗が最後まで質問する前に。
パウッ!
ヒヨの口から眩い光が発射され、原爆の1つに命中した。
その直後。
ポウッ!
原爆は、跡形もなく消滅した。
その思いもしない光景に、和斗はヒヨをマジマジと見つめる。
「ヒ、ヒヨ、今ナニしたんだ?」
「最初に言ったですよ? ヒヨは何でも食べるですぅ!」
ヒヨの答えに、和斗もリムリアもポカンとしてしまう。
原爆の問題が、こんなに簡単に解決してしまうなんて。
「いや、今は呆けている場合じゃないな。俺達の攻撃を牽制するつもりの原爆だったんだろうけど、効果が無いと悟ったら、クーロン兵ごと爆破しかねない。よしヒヨ、どんどん原爆を食べてくれ」
「はいですぅ!」
ヒヨは和斗の言葉に、元気に頷くと。
「あ~~ん」
またパカッと口を開けて、原爆を吸い込んだ。
「いいぞヒヨ、その調子でどんどん食べてくれ!」
弾んだ声を上げる和斗に、キャスが人間の姿に戻って声を上げる。
「カズト様、ワタシもあの原始的な大量破壊兵器を処理しましょうか?」
「出来るのか!?」
「当然です。ヒヨには負けません」
驚く和斗に、キャスは平然とした顔で答えると。
「見ていてください」
右手をクーロン軍へと向けた。
その瞬間。
バヒュ!
キャスの手の平が青く輝き、同時に10個の原爆が消滅した。
「どうやったの!?」
思わず声を上げるリムリアに、キャスが説明を始める。
「転移装置によってワタシのエネルギー炉へと転送しました』
「え!? 原爆をエネルギー炉に転送して大丈夫なのか?」
「ワタシのエネルギー炉にはブラックホールが圧縮収納されています。この原始的大量破壊兵器は転送された瞬間、圧縮ブラックホールに飲み込まれるので、何の心配もありません」
思わず口を挟んでしまった和斗にキャスが事も無げに答える。
「そ、そうか、なら原爆を全部、処理してくれ」
「了解です」
「ヒヨもがんばるですぅ!」
こうしてキャスとヒヨは、全ての原爆を処理したのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ