第十話 レベルアップするのが快感になってきたんだもん
「しかし進むほどゾンビが強力になってるのは何でだろ? まあ経験値を稼ぐ効率が上がるから文句はないけど」
ふと漏らした和斗の呟きに、リムリアが当たり前とばかりに答える。
「そりゃもちろんヴラドの仕業だよ。ボクの他にも正ドラクルになって自分に楯突く者がいたら困るから、正ドラクルになれる魔方陣があるドラクルの聖地を護らせてるんだ」
「じゃあ、ドラクルの聖地に近付けば近付くほど、より強いゾンビがいるってワケなのか?」
「もちろん」
「ゾンビヒドラやゾンビドラゴンってヤツだな」
「うん。ヒドラは首の数が多くなるほど大きくなって強くなっていくよ」
リムリアの説明によると、ヒドラとは基本的に首が沢山ある蛇の姿をしており。
三つ首ヒドラ 体長 15メートル前後。
四つ首ヒドラ 体長 20メートル前後。
五つ首ヒドラ 体長 25メートル前後。
六つ首ヒドラ 体長 30メートル前後。
七つ首ヒドラ 体長 40メートル前後。
八つ首ヒドラ 体長 50メートル前後。
九つ首ヒドラ 体長 60メートル前後。
そして首が1つ増えるにしたがって、ヒドラの戦闘力は5倍になるらしい。
「四つ首くらいならマローダー改で轢き殺せそうだけど、それ以上になるとキツそうだな」
そう呟いてから、和斗は搭載武器にチラリと視線を送る。
「Ⅿ2重機関銃は強力だけど、体長60メートルもある九つ首ヒドラに通用するか分からないし、こりゃあ困ったな」
しかしⅯ2重機関銃より強力な搭載武器を購入できるほどのポイントはない。
「そうなると、今のポイントで購入できる最強の武器はカールグスタフか」
考え込む和斗にリムリアが気楽に笑う。
「でも七つ首ヒドラ以上のゾンビは、ドラクルの聖地付近にしか配置されてないと思う。遭遇するのは、このペースだと2、3日後じゃないかな?」
「そうか。じゃあ暫く経験値稼ぎに徹して、武器を充実させてから先に進んでもいいな」
「うん、焦っても仕方ないもん。まずは九つ首ヒドラに勝てる武器を購入する事を目標にしてもいいと思うよ」
というワケで武器を買うポイントを貯める為、しばらくゾンビ狩りに専念する事にしたのだった。
こうしてゾンビマンティコアやゾンビグリフォンを、ひたすら狩りまくって3日が経過し。
――ゾンビマンティコア4匹を倒しました。
経験値800
スキルポイント800
オプションポイント800
を獲得しました。
累計経験値が25000を超えました。
パラパパッパッパパ――!
――装甲車レベルが15になりました。
最高速度が330キロになりましました。
加速力が10%、衝撃緩和力が25%アップしました。
登坂性能が78度、車重が180トンになりましました。
装甲レベルが鋼鉄6メートル級になりました。
セキュリティーがレベル7になりました。侵入者をチェーンガンレベルで排除します。
ⅯPが170になりました。
必要なスキルポイントが貯まり、それに伴ってマローダー改のレベルもかなり上がったのだった。
「よし、かなりポイントも溜まったし、レベルもアップした。そろそろ強力な搭載武器を購入して先に進もう」
「長かったね。ゾンビグリフォンやゾンビマンティコアは、経験値は多いけど、疾走ゾンビやビーストゾンビと違って群れてないから」
リムリアの言う通り、ゾンビマンティコアの経験値は200もあるが、200匹を倒すのに3日もかかってしまった。
しかし必要なポイントは溜まったので、後は搭載武器を購入するだけだ。
ちなみにゾンビが群れでいる事が多いのは、村や町単位でゾンビ化する場合が多いから、とのこと。
「さてと。それじゃあチェーンガンを購入するか」
和斗は考え抜いた結果、チェーンガンを20000ポイントで購入する事に決めていた。
Ⅿ230 30mmチェーンガン
重量 55・9キロ
全長 1638ミリ
全幅 254ミリ
全高 292ミリ
口径 30×113ミリ
使用弾薬 Ⅿ789HEDP形成炸薬弾
(50ミリの装甲を撃ち抜く)
装弾数 1200発
発射速度 650発/分
初速 805m/S
最大射程 4500メートル
「うん、このチューンガンなら全長60メートルもある九つ首ヒドラゾンビだって倒せるだろな」
和斗はニヤリと笑うと、カーナビを操作する。
「配置場所は運転席の真上に設定して、と。よし、これで完了だ。リム」
「うん!」
リムリアが和斗から受け取ったヘルメットを被る。
このヘルメットのディスプレイはチェーンガンと連動しており、リムリアが目を向けた方向にチェーンガンの銃口が向くようになっている。
つまりⅯ2重機関銃よりも、簡単に狙いを付ける事が出来るワケだ。
「よし、じゃあリム、先に進むぞ」
「うん!」
こうして準備を整えてドラクルの聖地を目指す旅を再開したところ。
「お! さっそくヒドラと遭遇か」
1時間もしないうちにヒドラを発見したのだった。
「でも三つ首だね、カズト。これなら……」
「ああ。チューンガンを使うまでもない。Ⅿ2重機関銃で十分だ。っていうか、ワザワザ撃たなくても、今のマローダー改で轢き殺せるだろな」
和斗がカーナビを操作してマローダー改のステータスにチラリと目を走らせる。
マローダー改
レベル 15
最高速度 330 キロ
加速力 380 %。
衝撃緩和力 2273 %。
登坂性能 78 度
車重 180 トン。
装甲レベル 鋼鉄6 メートル級。
「厚さ6メートルに相当する装甲を持つ、重さ180tの鉄の塊が時速330キロでぶつかるんだから、三つ首ヒドラなんか簡単に轢き潰せるだろな」
和斗はそう呟くと、マローダー改のアクセルを思いっ切り踏み込んだ。
ガロォン!
「うお!」
380パーセント、つまりオリジナルの3.8倍もの加速は想像以上だった。
あっという間に時速330キロに達し、そしてその高速でマローダー改は三つ首ヒドラに激突した。
当然ながら、物凄い衝撃が襲ってくる。
……と思ったが、ほとんど揺れを感じない。
「あれ? あ、そうか」
和斗はマローダー改の、衝撃緩和力2273パーセントというステータスを見て納得する。
そもそも今のマローダー改の車重は180tもある。
その大質量が、たかが15メートルしかない三つ首ヒドラに激突しても、大した衝撃は発生しない。
それに加えて、元の22・73倍も衝撃を弱めてくれるのだ。
揺れないのは当たり前だろう。
「ん?」
そこで和斗はカーナビの表示に視線を向けて、顔をしかめる。
――三つ首ヒドラ1匹を倒しました。
経験値200
スキルポイント200
オプションポイント200
を獲得しました。
「三つ首ヒドラのポイントって、たったの200なのか? ゾンビマンティコアと変わらないじゃねぇか」
「う~~ん、攻撃力なら三つ首ヒドラの方が上だけど、倒すのはゾンビマンティコアの方が難しいからじゃないかな? なんといってもゾンビマンティコアは空を飛ぶんだから」
リムリアに言われて和斗は納得する。
確かに3首の大蛇よりも、空を飛んで毒を吐くゾンビマンティコアの方が、敵としては厄介だった。
「ま、マローダー改をぶつけるだけで倒せるんだから、たった200ポイントでも仕方ないか。ま、ゾンビ200匹に相当すると思って我慢するしかないか」
「そうだね。ってカズト! 今度は四つ首ヒドラだよ!」
「お、ホントだ! よし、マローダー改をぶつけるぞ!」
「うん!」
ぐしゃ。
どうやら四つ首ヒドラでも、今のマローダー改にとってカエルと一緒らしい。
簡単に轢き潰してしまう。
――四つ首ヒドラ1匹を倒しました。
経験値400
スキルポイント400
オプションポイント400
を獲得しました。
「お、四つ首のポイントは400か……5倍の強さなのに、ポイントは5倍じゃないのか」
残念そうに呟きながらも、和斗はヒドラを見つける度に轢き殺していく。
「そんなに大量ポイントじゃないけど、確実にポイントが貯まっていくな。この調子なら、そのうちレベルアップできそうだ」
こうして何匹もの三つ首ヒドラと四つ首ヒドラを倒していく和斗だったが、10匹ほどヒドラを倒したところで、リムリアが、少し緊張を含んだ声をあげた。
「カズト! 五つ首ヒドラだよ!」
「これが五つ首ヒドラか。思った以上にデカいな」
和斗は五つ首ヒドラの巨体を見つめて呟いた。
25メートルもある全長は、その数字以上に大きく感じるうえ、胴の太さは1メートル近い。
いくらマローダー改でも、踏み潰せる大きさはない。
「ま、とにかくぶつけてみるか。いくぞ!」
ガロォン!
アクセルを踏むと同時に猛獣の咆哮を上げたマローダー改を、フルスピードで五つ首ヒドラにぶつけると。
『ギシャア!』
五つの首が一斉に悲鳴を上げ、ズドォン! と地面に崩れ落ちた。
「よし、効いた!」
「カズト、まだだよ!」
リムリアが指差した先では、動きは弱々しいものの、五つ首ヒドラが再び身を起こそうとしていた。
「そうはさせるかよ!」
和斗は再びマローダー改のアクセルを踏み込むと、五つ首ヒドラの頭を踏み潰していく。
もちろん五つ首ヒドラも抵抗するが、最初の一撃によるダメージが大き過ぎるらしく、まともに動けない。
結果。
和斗は楽々と五つ首ヒドラに止めを刺したのだった。
――五つ首ヒドラ1匹を倒しました。
経験値700
スキルポイント700
オプションポイント700
を獲得しました。
「ふう。デカい敵だったけど、何とかマローダー改の体当たりだけで倒せたな」
そう呟きながら、和斗はモニターに目を走らせ、笑みを浮かべる。
「お! 五つ首ヒドラのポイントは700もあるぞ。中々の高収入だ。よし、とりあえず今の戦法を続けるか」
というコトで、ヒドラを見つける度、マローダー改をぶつけて、順調にポイントを獲得していく和斗だったが。
「カズト、六つ首ヒドラだよ。どうする?」
「う~~ん、こりゃあ、どうしたモンかな?」
リムリアが発見した六つ首ヒドラの巨体を目にして、和斗は考え込んだ。
「全長30メートルを超えてるな。でも、五つ首ヒドラよりも絶望的にデカいってワケじゃないし……まだ体当たりが通用するんじゃないかな?」
「そうだね。でもダメだったら、チェーンガンで撃つよ」
ヘルメットを被るリムリアに和斗は頷く。
「ああ、頼む。じゃあ突進するぞ」
「いつでもイイよ」
グロォォォォン!
ズッズゥン!
『ギャォォォン!』
マローダー改の一撃に、六つ首ヒドラは悲鳴を上げた。
が、五つ首ヒドラと違って倒れない。
倒れるどころか、六つの口で反撃してきた。
ガキッ! ギキィッ! ギャリッ! ギリリッ! ガチッ! ギンッ!
硬いモノが装甲を擦る嫌な音が響くが、それでもマローダー改の装甲はビクともしない。
「いくら六つ首ヒドラでも、鋼鉄6メートルに相当するマローダー改に傷を付けるのは無理だったみたいだな」
ホッとした声を漏らす和斗にリムリアが尋ねる。
「撃つ?」
「いや、まだいい。このまま何度かぶつけてみるから」
グロォォン! ズン!
グロォォン! ドン!
グロォォン! ズドン!
3回マローダー改をぶつけてみたが、六つ首ヒドラに致命的なダメージを与える事は出来なかった。
「仕方ない、リム。頼む」
「了解!」
待ってました、とばかりにリムリアがチェーンガンをぶっ放す。
ガガガガガガガガガガガガガガガ!
流石は50ミリの装甲板を撃ち抜くチェーンガン。
その弾丸は、六つ首ヒドラを簡単に撃ち倒したのだった。
「凄い! カズト、凄いよコレ!」
歓声を上げるリムリアに笑顔で頷いてから和斗はカーナビを覗いてみる。
「さて、六つ首ヒドラのポイントは幾つかな……」
――六つ首ヒドラ1匹を倒しました。
経験値1000
スキルポイント1000
オプションポイント1000
を獲得しました。
「おお! 六つ首ヒドラは1000ポイントだ!」
「1000ポイント!? 凄い!」
和斗の言葉を聞きつけたリムリアが目を輝かせる。
「さ、カズト! どんどん六つ首ヒドラを倒していくよ!」
「張り切ってるな」
「だってマローダー改がレベルアップするのが快感になってきたんだもん」
その気持ちはよく分かる。
和斗も初めてRPGをした時、経験値を貯めてレベルを上げるのに夢中になった覚えがあるから。
「よし。じゃあリム、しっかりレベルを上げようぜ」
「うん!」
こうしてレベルアップの快感に目覚めたリムリアと共に、和斗はヒドラを狩りまくったのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ