お狐様の神隠し
康太の夏休みに起こった悲劇。物語に隠された本当の真実。あなたは読み解くことが出来ますか?
最後まで楽しんで読んでいただければ幸いです(*´ω`*)
「ねえねえ,知ってる?お狐様の神隠しのこと。山に住むお狐様はね,さびしがり屋だから,その寂しさをなくすためにね,お狐様は,神隠しをするんだよ。知ってる?知ってる?」
夏休み。今日から一週間,田舎に住む,じいちゃんとばあちゃんの家に泊まる。お父さんとお母さんと車で田んぼの中を走っていく。見渡す限りの田んぼ。どこを見ても同じような景色。僕は退屈で退屈で仕方なかった。
「ほら,康太,ついたわよ。早く車から降りなさい。」
「はーい・・。」
僕が車から降りると嬉しそうにじいちゃんとばあちゃんが家から出てきた。
「康太大きくなったな。」
「康太,いらっしゃい。会いに来てくれてうれしいわぁ。」
僕は靴を脱いで家に上がる。床がぎしぎしと音を立て,風鈴がチリンチリンと風に吹かれてゆれ,蚊取り線香のにおいが鼻につく。外はセミがうるさく鳴いている。
「康太,アイス食べるかい?」
「食べる!」
僕はばあちゃんにアイスをもらい,縁側に座る。たまに吹く風が涼しくて心地いい。アイスを食べながら,この後何をしようか考える。お店なども見当たらなく,公園などもない。考えているうちにあっという間にアイスは食べ終わってしまった。
「お母さん,僕ちょっと遊びに行ってくるね。」
「いいけど,危ないとこは行っちゃだめよ。」
「うん。分かった。」
「康太,山には絶対近づくなよ。お狐様にさらわれる。」
家を出ようとする僕にじいちゃんは険しい顔で言ってきた。
「うん・・・?」
僕は,ばあちゃん家を離れて,田んぼの道を歩いていく。途中で近所の人に声を掛けられ,軽く挨拶をする。子供の姿はない。小石を蹴っ飛ばしながら歩いていると,僕と同じくらいの男の子が駆け寄ってきた。
「おめえ,どこの家の子だ?引越してきたんか?」
「僕はじいちゃんとばあちゃん家に遊びに来ただけだよ。」
「ふーん。どっから来たん?」
「東京・・だけど・。」
「えらい都会でねえか!俺,武人!よろしくな!」
「よろしく。僕は康太。」
「なあ,俺の友達紹介してやっから,ついてこい。」
「うん。」
僕は武人に引っ張られて,小さな古い小屋に連れてこられた。
「みんなー!」
武人がそう言うと,小屋の中からひょこっと子供が顔を出した。
「武ちゃんその人誰ー?」
「誰ー?」
元気で明るそうな女の子とまねして小さな女の子が僕を指さす。
「新しい友達の康太!こっちに遊びに来てんだと。」
「へー!じゃあ,私も友達になるー!私,千夏!よろしくね康太君!」
そういって,ニコッと笑う。
「えっと,花梨!お兄ちゃんよろしくね!」
小さな子はぎゅっとくっついてきた。
「花梨ちゃん,ちゃんと挨拶できて偉いね。」
千夏は花梨ちゃんの頭をなでる。花梨ちゃんは嬉しそうに笑っている。その後ろからにらんでくる男の子がいる。
「また,武ちゃん変なの連れて来たんじゃねえの。」
「そんなことねえって!康太は変なのじゃないぞ!」
「あっそ・・・・。」
不愛想な男の子はそう言って小屋の中に入っていった。
「今のは冬樹,あいつ不愛想だけどいいやつだかんな!」
「えっと,僕は浩,よろしくね。」
千夏の後ろからおとなしそうな男の子がおずおずと出てきた。皆が自己紹介したとこで,小屋の中に入る。
「ここ何?」
「俺らの秘密基地!」
「へー。」
「武兄ちゃんが見つけたんだよー!」
「私たち,いっつもここに集まって遊んでるの。」
秘密基地といわれるこの小屋は外見とは異なり中は結構広く,テーブルやソファなども備わっていた。
「あれ?そう言えば,月音はいないんか?」
武人は小屋に入ると首をかしげて皆に尋ねた。
「あ,ほんとだー!」
「月音お兄ちゃんまだ今日は来てない。」
「つ,月音なら,後で,遅れてくるって,言ってた・・・。」
「おー,分かった!」
「月音って?」
「もう一人の仲間!」
「そうなんだ・・。」
僕が秘密基地の中を改めて見る。雨漏りなどもしなさそうだし,普通に住めそうだ。棚などもあってそこには写真やおもちゃなどがおいてあった。
「あのさ,これ・・・」
僕は写真を見て少し気になったことがあったので武人に尋ねようとすると,小屋の扉が勢いよく開いた。
「ごめん!遅れたー!」
「おっそいぞ月音ー。」
「私たち待ちくたびれちゃった~。」
「ほんっとにごめんって!」
楽しそうに笑いながら武人たちが会話しているのを小屋の隅で見ていると,月音が僕に気づいて近づいてくる。
「武ちゃん,この子誰?」
「今日,友達になった康太!こっちに遊びに来てんだと!」
「へ~!僕,月音!よろしくね康太!」
月音は僕の手を握り握手してきた。
「よろしく。」
「よし,それじゃあ!始めるぞ!しゅうごーう。」
武人が号令をかけるとみんなはテーブルの周りに集まった。僕も合わせてみんなと同じようにする。
「さて,今日やることについて!意見のあるやつは挙手!」
「はいはーい!川で水遊びー!」
「私もさんせーい!」
「花梨もー!」
「俺は,小屋でのんびりしてたい。」
「ぼ,僕は何でも・・」
「じゃあ,今日は川遊びで決定!康太もそれでええか?」
「うん。いいよ。」
皆で小屋から出て,川に向かって歩き出す。冬樹は武人に引っ張られながら,いやそうに歩いている。花梨ちゃん,武人,千夏,月音は楽し気に歩いている。僕と浩は後ろから皆を見ながらのんびりとついていく。
「あのさ,聞きたいことがあったんだけど,あの小屋に飾ってた写真に,ここにいるメンバー以外にも,もう一人写ってたよね?その子は誰?」
先ほど聞けなかったことを何気なく浩に聞いてみた。
「えっと・・・,それは・・・,瑞葉・・・・。」
「瑞葉っていうの?写真はあんなに仲良さそうなのに,その瑞葉って子とは遊ばないの?」
浩は困ったようにうつむいてしまった。その顔は何だか今にも泣きそうな顔だった。
「あ,いや,なんとなく気になっただけ。やっぱ,何でもないや。」
そんな話をしていると川に到着した。皆は服のまま川に飛び込んでいく,僕も真似して川に入る。
「おりゃー!」
武人が僕の顔に水をかけてきた。驚いて後ろに倒れる。
「おわあ!」
「あははは!」
「武ちゃんやる~!」
「やったなぁ・・・。おらー!」
僕は起き上がると,武人の顔面に水をかけ返した。千夏,月音も参戦して,みんなで水をかけあう。浩は花梨ちゃんと浅いところで石を拾ったりしている。冬樹は川から少し離れたところで寝そべっている。
楽しくて楽しくて,気が付けば夕方になっていた。
「あ,もう夕方だ。」
「あーあ,あっという間だな。」
「なあ!康太はいつまでこっちにいんの?」
「一週間はいるよ。」
「じゃあ!明日もあの小屋に集合な!」
「うん。」
武人たちと別れて家に帰る。家に帰ってから,僕はそのことを家族に話した。
それから,毎日,武人たちと遊んで遊んで遊びまくった。虫取りをしたり,一緒にスイカを食べたり,鬼ごっこをしたり。つまらないと思っていた一週間はとても楽しくて,あっという間に過ぎて行ってしまった。そして,僕が帰る最終日。
「今日,康太帰っちゃうんだな。」
「うん,寂しくなっちゃうね。せっかく仲良くなれたのに,私,もっと康太君と遊びたかったな・・・。」
「康太お兄ちゃん,バイバイなの?」
「うん,でもまた来年くるし,それに,夕方まではまだいるから,それまで遊ぼうよ。」
「そうだな!じゃあ,最後だから思い出に残るような遊びしなきゃな!」
「んー何がいいかな?私,あんまり思いつかないな・・・。浩君はなんかないの?」
「え,えっと・・その・・。」
皆で考えていると,月音が口を開いた。
「そうだ!山に行こうよ!」
「お!いいなそれ!」
「そうね。あんまりいかないしね!」
「俺は帰る。」
「え!ちょっと冬樹君!」
冬樹は一人で小屋を出て行ってしまった。
「もー,ああいいだすと冬樹君は帰ってこないんだから!そんなに山登りが嫌なのかな。」
「まあ,仕方ないから,俺たちだけで行こうぜ。」
僕はじいちゃんに言われたことをすっかり忘れて,山に入ってしまった。そして,あんなことが起こってしまったんだ・・・。いかなければと後悔するには遅すぎた・・・・。
「はーやく!」
「山って意外と歩くの疲れるね・・・。」
「あはは,慣れればそうでもなくなるよ。」
半分くらい上ったところで,月音がこんなことを提案してきた。
「ねえ,この辺だけでみんなでかくれんぼしようよ!」
「おー!楽しそう!」
「じゃあ,鬼決めしよ。花梨ちゃん以外でね。花梨ちゃんは誰かと一緒にかくれてね。」
「うん!」
「よーし,じゃあじゃんけんで決めようぜ!」
『じゃーんけーん・・・・』
結局,鬼は僕になってしまった。
「いーち,にーい,さーん・・・」
数を数えて,皆が隠れるのを待つ。
「六十!よーし!絶対見つけてやる。」
僕は周りの茂みや木と木の間,人が隠れられそうなところを片っ端から探していく。
「いない・・・。」
あの周辺には誰も見つからなくて,もしかしたらもっと遠くまで行ったのかと思い,探す範囲を広めた。
「なんで,いないんだ・・・?」
歩き回っていると,木々に隠れた洞穴を見つけた。僕はそーっと中をのぞくと誰かいる。
「みーっけ・・・」
そう言いかけた僕は,目の前の光景に息をのんだ。武人も花梨ちゃんも千夏も浩も倒れて,赤い液体が広がっている。そして,冬樹が血の付いた包丁を持っている。
「う,うわあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
僕は叫びながら走ってその場を逃げ出した。
「おい!待てって!」
冬樹が後ろから追いかけてくる。僕は走って走って走った。
(早く!早く逃げなきゃ!)
その時,僕の腕を誰かが掴んだ。僕は驚いてその手を振り払おうとした。
「康太君!僕だよ!月音だよ!」
声を聴いてはっとした僕は,
「月音?良かった!」
月音に飛びついた。
「一体どうしたの?」
「皆が・・・・皆が・・・。」
「落ち着いて。」
「早く,逃げないと!早く山を下りよう!ここを離れたらちゃんと話すから!」
僕は月音の手を引っ張って山を下りていく。途中,月音が石につまずいて転んだ。
「ぃって・・・・・!」
「月音,大丈夫?」
「うん,大丈夫。」
月音はそういうが,膝をすりむいて血が出ている。
「っ・・・・・!」
月音を起こそうと僕が手を差し伸べたその時,
「康太君!後ろ!」
「え・・・?」
「そっちはいたか!」
「ダメだ!」
「まさか,あの子たち山に・・・。」
「うう・・・,どこに行ったの・・?」
「瑞葉や他の子たちが行方不明になった時と同じだ。お狐様の神隠しだ!」
「おい!誰か来るぞ!」
「助けてください!皆が!」
「月音!山に入ったのか!馬鹿者が!」
「ごめんなさい・・・。それより,皆,消えちゃって・・・うう・・。武人も康太君も花梨ちゃんも千夏も浩も・・・・・・冬樹も,お狐様が・・・・」
「無事でよかった。しかし,ほかの子は・・・・,もう,もどらんじゃろ。」
「そんな!康太・・・うう・・・。」
お狐様が子供を隠した。何度も何度も。そして,見つかることも帰ってくることもない。お狐様の神隠し。
「ねえ,知ってる?本当はお狐様なんていないんだよ?え?じゃあ子供たちは何処にいるのかって?ずっといるよ?ほら,僕のお腹の中に・・・・ね・・・。」
「お狐様の神隠し」はいかがでしたでしょうか?物語を読んだ感想や修正点などがございましたら,ご意見お待ちしております(*^-^*)
最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。