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手の次は足

「はっ!?夢!!」


私は言葉と共に勢いよく上半身を起こした。

すっごく怖い夢を見た気がする。

内容はよく覚えていないが、とにかく夢で良かった。


ほっと胸を撫で下ろすと、口元からだらしなく涎が垂れている事に気づき袖口で拭う。

するとすぐ傍からため息が聞こえてきた。


「ハンカチを使え、ハンカチを。それと、言っておくが夢じゃないぞ」


ペイルだ。

真底呆れたかの様な目を此方に向けている。

だが呆れたのは此方の方だ。


「乙女の寝起きを覗くなんて!知れ者!」


美しい私の寝顔を一目見たいという気持ちは凄く良く分かる。

だが、ええ歳した爺様が人の寝室に忍び込むのは頂けない。


「お前の寝顔なんざ誰が覗くか!寝ぼけてないで周りをよく見て見ろ。後、乙女を自称するんなら涎を袖で拭うな」


言われて、私はぼーっとする頭で辺りを見回す。


「あれ?何で私こんな所で寝てんの?」


部屋で寝ていたつもりだったのに、気づいたら辺り一面草が生えていた。

そこで少し考える。


ふむ――


「よし、寝よう」


色々嫌な現実を思い出した私は2度寝する事にした。


「なに現実逃避してやがる!さっさと起きろ!」


だが悪魔(ペイル)は私のこの切ない逃避を許さない。

傷心の乙女に気を使わないとか。

この老害め。


しょうがないのでふらふらと起き上がり、挨拶をする。

草原のど真ん中で、優美にお茶を嗜んでいたお嬢様に向かって。


こんな所でテーブルセット広げてお茶するとか、相変わらずよう分からん人だ。


「おはようございます。お嬢様」


「気分はどう?もう少し休んでいてもいいのよ」


「ではお言葉に甘えて」


主の厚意を無駄にするのは良くない事だ。

そう思い早速横になろうとすると、ペイルに勢いよく頭を小突かれた。


「あいったぁ!?」


物凄く痛い。


「寝るな!」


美少女の頭に手を上げるなんて、デリカシーが無いにも程がある。

私は痛む頭を擦りながら、唇を尖らせ渋々と起き上がった。


「小姑じゃあるまいし、ペイルはギャーギャーうるさ過ぎるわ」


「それが腕を直してやった恩人に対する言葉か!」


またもや怒鳴る。

高血圧で脳梗塞でも起こせばいいのに……


ん?

腕?

……あっ!


豪快に粉砕して骨だけになったのを思い出し、はっとなって腕を見る。


「治ってる!!」


見ると腕は綺麗に回復していた。

どうやらちゃんと直してくれた様だ。


「お嬢様ありがとうございます!!」


「直したのは俺だぞ?」


「どうせお嬢様の指示でしょ!」


どうせペイルの事だから、唾でも付けとけば治るとか言ってたに決まってる。

年寄りは何でも唾を付けておけば治ると考えているから、手に負えない。


「確かに魔法使用の許可は出したわ。でもそれはペイルから進言されたから。ふふ、あの時のペイルの狼狽えようったら無かったわよ」


「お、お嬢様!?」


「え!?」


ペイルが?

信じられない!?


絶対私の失敗を鼻で笑っていると思っていた。

見るとペイルは照れ臭そうに顔を赤らめてそっぽを向く。

耳まで真っ赤な所を見ると本当の様だ。


いつもは口煩く罵って来るけど、私の事ちゃんと心配してくれたんだ……

そう考えると、思わずジーンとしてしまう。


んー、でも待てよ……一瞬感動しそうになったが、同僚の手が吹っ飛んだら普通は心配するし手当もするものだ。

そう考えると、単に彼が思っているほど人非人では無かっただけの事。

一々感動する程のものでもない気がするな。


けどま、一応礼は言っておこう。


「一応礼を言っとくわ。サンキュ。ペイル」


「ふん。腕の無い同行者なんて完全に足手纏いだからな」


照れ臭そうに悪態をつくのは、ツンデレ枠でも狙ってるのかしら?

まあそんな事より――


「そういや私の腕、何で吹っ飛んだんでしょうか?お嬢様と同じ要領でやったつもりなんですけど」


完全に模倣したつもりだったのだが、その結果私の腕はパーンした。

何が足りなかったのだろうか?


「お嬢様と同じにしたから吹き飛んだんだ」


お嬢様の代わりにペイルが口を開く。

どうやら彼にも私の問題点が分かっている様だ。

まあこの際答えを教えてくれるなら、ペイルでも構わないだろう。


「どういう事?」


「お嬢様の体は華奢に見えて、そこらの魔物なんかより遥かに強靭だからな。お嬢様と同じ規模で魔力を流したりしたら、お前のそのひ弱な細腕で持つわけないだろうが」


言われて納得した。

お嬢様は見た目からは想像できない程怪力だったりする。

可憐な乙女である私の細腕でそのお嬢様と同じ事をすれば、腕が耐え切れず破裂してもおかしくはない。


「次からは込める魔力を押さえる事だな」


「ふふん。原因さえ分ければこっちのもんよ。とう!」


言うや否や、私は両足に魔力を込めて勢いよく飛び上がる。

いや――飛び上がろうとした瞬間、ボキリと鈍い音が両足から響いた。


「ぎゃーっす!あしが!あしがぁ!!」


こうして再び私はペイルのお世話になる事となる。

後、お嬢様に魔法での回復はこれが最後だと強く念を押されてしまった。


てへっ、やらかしちゃった。

しっぱいしっぱい。

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