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暗殺者

大空高くに、二つの影が浮かんでいる。

影の正体。

それは人間だった。


一人は精悍な顔つきをし、顎髭を生やした黒衣の男。

その肉体は、筋肉の鎧で覆い尽くされている事が一目で分かる程に盛り上がっていた。


もう一人は青いローブを身に纏い、フードを目深にかぶっている。

その線の細い体格と、風によるはためきで時折見えるシャープな顎のラインからは、優男の様なイメージを思わせた。


よく見ると2人の周囲に、不自然な気流の流れが纏わりついている事が分かる。

それは魔法の力だ。


空中を自在に飛び回る事が出来る上級魔法。

その名も飛翔魔法(ウィンダ)

彼らはその魔法よって重力に逆らい、まるで気球のように大空高く滞在していた。


「やっかいだな……」


黒衣を纏った髭面の男が右手を顎にやり、苦虫を噛み潰した様な顔で呟いた。


よく見ると、男の瞳の中には不思議な光が宿っている。

これもまた魔法の力だ。

遥か遠くを見通すその魔法の名は、ラース。


男はその魔法を行使し、遥か遠くの草原を行く3人の姿を渋い顔で見つめ続けていた。


「確かに厄介ですね。強力な回復魔法に加えて、あいつらを切り裂いた魔法。見た事はありませんが、あれは風の魔法でしょうか?」


「ふぅ……」


髭の男は溜息を一つ付く。

何故なら、声をかけて来た青いローブの男。

彼の言葉が余りにも的外れだったためだ。


「回復の方はともかく、戦闘には魔法を使ってはいない」


「え!?しかし――」


「あれは魔力を直接放出して相手を切り裂いただけだ」


「そんな芸当が!?」


「大賢者なのだから、それぐらいやってのけてもおかしくは無いだろう」


武器を持たずに近づき、相手を始末する。

それは暗殺によく使われる技だ。

通常の魔法使いの扱う様な技術ではない。


とは言え、彼らのターゲットである3人組は全員大賢者である。

体術的(トリッキー)な使い方だが、彼の言う通り、魔法に精通する者達なら扱えてもおかしくはない技術だ。


「そこはまあ想定内だ。だが、問題は動きの方だ」


黒衣の男は眉間にしわを寄せ、そう呟いた。


着飾った服を着た女。

ティア・ミャウハーゼンが見せたあの動きが、黒衣の男を苦悩させる。

何故なら、彼にはティアの初動が察知出来なかったからだ。


通常、どんな動作にも前兆というものがある。

それは呼吸や目線であったり、体のちょっとした傾きだったりもする。

だが彼女にはそれが無かった。

それはティアが達人級であり、体術においては黒衣の男以上である事を意味していた。


「奴らを雇って正解だったな」


只の魔法使い相手なら、例え大賢者の称号を持つ者達であろうとも不意を突けば容易い。

何故なら、魔法など使わせなければ良いだけなのだから。


そう高を括り。

情報なしで奇襲していれば、今頃彼らが命を落とす事になっていただろう。


だが黒衣の男はそうしなかった。

彼は念の為、情報を求めて捨て石を用意したのだ。

そしてその慎重さが2人の命を救う事となる。


「え!?そうでしょうか?奴らの魔法は全く未知数のままですが」


「魔法も確かに気にはなるが、それ以上に大事な事が分かったからな」


「それは何です?」


「俺達二人じゃ荷が重いって事だ。一度本拠地に戻るぞ」


「……分かりました……」


ローブの男の声は明かに不服気だ。

まだ未熟な彼には、只荒くれ者達を切り刻んだだけという認識しかなく。

自分達では役者不足だという言葉を暗に「お前と一緒では失敗する」と、そう捉えたのだ。


「別にお前の力量どうこうの話じゃないぞ。仮に俺が10人いても勝てるか怪しいレベルの敵だって事だ」


「そうですか」


どうやら只の言い訳と判断したのだろう。

そっけなくそう答えると、ローブの男は飛んで行ってしまう。

そんな姿を見て、黒衣の男は肩を竦める。


「まあ流石に俺が10人いてもってのは盛り過ぎたか」


男がくくっと小さく笑う。


「流石に10人もいれば負けねぇよな 」


そう呟くと、彼はローブの男を追う様に飛び去っていった。



どうやら男は自分が10人いれば勝てると判断している様だ。

それがどれ程甘い判断であったのかを、彼は後々思い知る事になるだろう。


自らの命を代償に。

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