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置き引き少年

「へへ……ここまでくりゃ大丈夫だろう。てか何が入ってるんだこれ?いくら何でも重すぎだろう」


人気のない要り込んだ路地裏で、赤毛の少年がリュックをおろして中を確認しようとしていた。

私は気配を殺し、建物から飛び降りて少年の背後に着地する。


「レディーの秘密の花園を覗き見るには、10年早いわよ」


「――っ!?」


私は少年の首根っこを掴んで片手で持ち上げる。

ちょっと……ううん、かなり臭い。

この様子だと、少年は1月以上行水して無さそうだ。


まあお国柄水は高価だろうし、ぼろぼろの衣服を身に着けているこの少年では仕方のない事だろう。


「は、はなせ!」


少年がじたばたと暴れる。

小さな体の割にかなりのパワーだ。

置き引きを極めるべく、日々精進でもしているのだろうか?


「随分と体を鍛えてるわね」


「うるせぇ!離せブス!」


「ブス?」


この……この超絶美少女に対して……ブスだと?

どうやらこの少年には、世界の真理と厳しさを叩き込んでやる必要がありそうだ。


「早く離せよ!ブス!」


「…………しぬ?」


「へっ?あ……いや……ごめんなさい」


私の強烈な殺気を感じ取ってか、少年が途端におとなしくなる。

まあ流石に本気で殺すつもりはなかったけど、最終警告を無視したら折檻フルコースの予定ではあった。

この少年、中々良い勘してるわ。


素直な謝罪に免じ、私は少年を下ろしてやる。


「んで?あんたは何でこんな事してるの?ひょっとして、犯罪組織の一員か何かな分け?」


少年の動きは街角の盗人にしては良すぎた。

土地勘抜きにしても、たぶん私じゃなかったら逃げ切られていただろう。

あれは訓練された者の動きだ。


まあ正式に所属していなくても、末端の小遣い稼ぎに利用されている可能性ならあり得るし。一応聞いておく。


「そ、そんもん知らねぇよ……」


さっきの脅しが余程聞いたのか、少年はおどおどと答える。

目を見る限り、嘘を付いている様には見えない。


闇の組織系に関わっていないとすると、体を鍛えているのは趣味という事になるが……


まあお嬢様なら尋問という名の拷問で、少年の口を綺麗に割って見せるのだろうが、私はそこまでして確認する気は無いので少年の言葉を信じるとしよう。


「関わりは無し……か。所で貴方はこれで生計を立てているの?」


これとは、勿論置き引きの事だ。

荷物は取り戻せているし、面倒臭いから一々衛兵に突き出すつもりはない。

もう用はないので、さっさと帰ってもよかったのだが。


だがやはり、少し少年の事が気になった。


「な、何だっていいだろ……そんな事」


私に咎められると思ったのか、少年は言葉を濁そた。

素直に話してはくれなさそうだ。

仕方がない。


押してもダメなら引いて見な。

北風と太陽作戦だ。


「私の名前はミア・カースト。貴方の名前を教えて貰っていい?」


私は優しく少年に微笑んだ。

完璧なる営業スマイル。

これなら――


「そ……んな事、聞いてどうするつもりだ」


少年が警戒して後ずさってしまう。

どうやら笑顔での懐柔は逆効果だった様だ。


「隙あり!喰らえ!」


どうした物かと頭をかいた瞬間、少年が腰の袋から何かを掴んで私に向かって投げつけた。

それは空中で破裂して、粉塵を撒き散らして周囲を覆う。


煙幕だ。


だが残念な事に、既に私はその場には居ない。

少年が煙幕を投げた瞬間、壁を跳ねる様に飛んで、素早く彼の背後に回り込んでいた。


「うっ……」


背後から肩に手を置くと、少年の顔が恐怖に固まる。


いかんいかん。

意図してやった事ではないとはいえ、これでは北風のままだ。

太陽、太陽。


「ね、これから御飯に行かない?」


「ご……ごはん?」


「ええ、奢るわよ。その代わり、貴方の話を聞かせて欲しいの」


この街に来る道中に狩ったサンドランナーの報酬で、私の財布はパンパンだ。

ガキンチョ一人ぐらい、華麗に腹いっぱいにしてくれようぞ。


「飯……いいの?」


少年の表情が変わる。

警戒が少しとけ、年相応の表情を覗かせた。

ちょろいぜ。


「ええ、お腹いっぱい食べていいわよ!」


お礼は貴方の情報よ。

存分に食べて、ペラペラ自分の事を喋るがいい。


「おれ……レイ」


早速名前の引き出しに成功した。

お嬢様程では無いが、私の人心掌握術も大したもんだと自画自賛する。


「あの……お願いがあるんだけど……いいかな」


「いいわよ。何でもおねぇさんに言って見なさい」


何でも言って見なさい。

そう大人の余裕を私は見せつけた。


だがその言葉を、私は直ぐに後悔する事に成る。

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