獣人
「此処にターゲットがいるのかい?」
遠くに見える城塞都市ガルザスを睨み。
赤毛の女が、隣にたっている黒のローブを身に纏った男に問いかける。
「ああ、そうだ」
男は顎髭を生やし、その顔つきは精悍だ。
女の方は褐色の肌に赤毛。
女性にしては筋肉質な体つきではあるが、出る所はしっかり出ている。
だが何よりも特徴的なのは、その耳だった。
彼女の耳は頭頂部付近から生えており、まるでネコ科の生き物を思わせる形をしていた。
亜人。
人間よりも遥かに高い身体能力と、感覚を有すると言われる種族。
但しその数は少なく。
人間社会において、迫害とまではいかないが冷遇されている存在だ。
「そいつは本当に悪人なんだろうね?」
女性の鋭い眼差しが男を射抜く。
だが男は眉一つ動かさずに嘘を付いた。
「ああ。正式な罪にこそ問われてはいないが、間違いなく大罪人だ」
「そうか、ならいい」
返事を聞いて女は自らの両手へと視線を落とす。
血に塗れた自らの手へと。
「決行は明日。奴らは此処から西の森へと向かう。俺達はそこに先回りして待ち伏せする。いいな」
男の言葉に女は黙って頷いた。
「ミア・カースト。ペイル・セバース。それにティア・ミャウハーゼン」
彼女は目を瞑り、名前を小さく呟いた。
ターゲット達の名を。
それは祈りに近い儀式。
これから手にかける者達の名をその胸に刻み込む。
自らの罪を決して忘れる事の無い様に……
ゆっくりと開かれた彼女のその眼には、自らの運命を受け入れるしかない悲しみの色が湛えられていた。




