苦虫を噛み潰したような顔
4章解決編
「結論から云おう。シュークリームを古都さんに渡したのはジョーくん、君だよ」
おれなの? 全く希ちゃんたらうっかりだな。何度も云ってるじゃない。おれはシュークリームを含めて生菓子は一切売ってないって。嘘じゃないぜ。
「つまり、ジョーはシュークリームを売ったのではなく譲渡したのだろう」
間髪いれずに天使が云う。天使と希に真正面から見つめられる。2人はおれの全てを見透かしているように思えてしかたなかった。
まっ、出来る限りの悪あがきはしてみようかね。
おれは肯定も否定もせず問いかけた。どうしてそう思うんだよ2人とも。おれが古都にシュークリームあげる理由なんてあるか? 証拠はあるのか証拠は。
天使はつまらなそうにフン、と鼻を鳴らした。
「証拠はないな。しかしジョーには動機があり、シュークリームの準備も容易。限りなく黒に近いな」
「繰り返しになるが、古都さんがシュークリームを食べ始めたのと君らがお菓子の販売を始めた時期と被ってるのがあからさまに怪しい。ジョーくんならば、シュークリームを用意して古都さんに渡すのは容易さ」
「販売用の菓子と一緒に譲渡用のシュークリームを搬入していたに違いない。待ち合わせ場所で古都鏡にシュークリームを譲渡し、何食わぬ顔で私の前に現れていたのだろう」
オーケイオーケイ。偶然にしちゃ出来すぎてるって云いたいんだな。疑われるのも当然かもしれない。だが、シュークリームを渡す理由が説明されてないぜ。どんな目的があったらシュークリームをプレゼントするんだ。
わかった。おれが古都に惚れてると誤解してるんだな。古都にアピールするためにシュークリームをプレゼントしたと、そう推理したんだな。
「その動機はないね。君は好意を秘めておくよりも、周囲に伝えて協力を仰ごうとする性格だろう。だから僕が古都さんを話題に出したときに古都さんについてとぼける理由がない。つまり君は古都さんとの交流を隠しておきたかったのさ」
的確。あまりにも的確だ。もはや心を読んでるレベルだよ。希ちゃんの指摘の鋭さにおれは体を縮こまらせた。
「古都さんにシュークリームをあげることは目的達成のための過程に過ぎない。君の目的はシュークリームを食べる古都さんを作り出すことだったんだ」
だけど手間暇をかけた結果何を得たっていうんだい? おれは他人を笑顔にするために、財産を投げ打つような慈善家じゃないぜ。
「そんな捻くれなくとも君はいい人だよ。恥ずかしがっているのかい? 君は事件を起こして真実くんを元気付けようとしたのさ」
フッと笑っておれは両手を挙げた。降参だ。全部お見通しみたいだね。希ちゃんがシュークリームをスルーすることだけが不安要素だったけど、杞憂だったみたいだ。
「粘ってた割にはあっさり認めるんだね」
悪あがきは醜いだけだからね。計画では事件を起こした理由までバレるはずじゃなかったんだが……参ったぜ。
「それらしい動機が見当たらなかったから。もっともらしい動機が用意されてたら僕はそっちに飛びついちゃってたよきっと。ほら真実くん、ジョーくんにお礼は?」
「この事件を計画したことは評価するが、難易度が低すぎる。真相がこれでは、礼をする価値などない」
「き、君ってやつは……」
いいのいいの。おれがやりたくてやったことなんだからお礼なんていらないよ。
それよりも計画がバレちゃったことだし、悪いけど古都にシュークリームは今日で終わりだって伝えておいてくれるかな。それで十分だよ。
「ん、わかった。必ず伝えよう。それじゃあ君らも急いでお昼を食べなよ。桃はおうちで食べてね。それじゃ、またね!」
希ちゃんはおれに紙袋を押しつけると、早足で教室へ戻っていった。
おれたちも弁当食べようぜ。ちんたらしてたら昼休みがなくなる。
「ジョーの尽力によって、きっと希くんは友人を作れるだろうな」
あ? 突然何を云いだす。シュークリーム騒動と希ちゃんの友達作りは関係ないだろ。
「希くんの推理では、ジョーの目的の表部分しか解き明かしていない。真の目的は、希くんに友人を作らせることなのだろう」
おいおいバカ云うな。シュークリームがどうして友達作りに繋がるんだよ。
「簡単なことだ。ジョーは希くんに会話の切っ掛けを与えたのだ。彼女の好物はシュークリーム。古都鏡のことが気にならないわけがない。そして今日遂に、希くんは古都鏡に話しかけに行った」
強引なこじつけだね。話にならねえ。
「ならば、何故古都鏡へシュークリームを2つ渡していたのか、合理的な説明を求めようではないか」
……古都が協力する条件に、シュークリームを二つ要求してきただけだよ。はい。この話は終わりだ。さっさと教室戻ろうぜ。
「ジョーは話を逸らすのが下手だな。心配せずとも、今頃はシュークリームを仲良く分け合い雑談に興じているはずだ。ジョーの目論見通り、彼らはきっと友人関係を築ける。今回の事件はなかなか悪くなかった。礼を云うぞ」
んな形だけの礼はいらんから飴玉寄越せ。口の中が苦虫のせいで苦くてたまらん。それとこの件、絶対に希ちゃんに喋ったら……さっき云わなかったな。お前が気をつかえる人間だとは知らなかったぜ。
「私が指摘しなくとも、しばらくすれば彼女は自力で真相にたどり着くだろう。見抜かれるまでの時間がいくらか伸びたにすぎない。労いの意味も込めて3個やろう」
チッ。こそこそやってたことを見抜かれると気分が悪い。おれは掌のいちご味の飴を、纏めて口に放り込んだ。ガリっと噛み潰しても苦虫の味は消えなかった。
希が真相に辿り着けなかったのは、真実が提供した、後に判明した情報に注目しすぎたせい。時間を経て冷静に振り返れば、自分で気がつく可能性は高い。
4章は以上。よければブックマーク、評価、感想等おねがいします。