超自然的手法は認めない
やっぱシュークリームが売ってるわけないよな。購買の商品は食欲旺盛な高校生によってほぼ売り切れになっている。
念のため希ちゃんが購買のおばさんにシュークリームを販売しているか尋ねてみたが、成果は得られなかった。
購買から戻りながら探偵2名は考えを巡らせる。
「シュークリームは一体どこから湧き出したんだ」
「未知の流通ルートがあるのか、あるいは見落としがあるのだろうか」
「購買とししやで購入した可能性は潰れたね。考えられるのは、古都さんが学校にシュークリームを保管しているのと、人物Xからシュークリームを受け取っている可能性かな」
「古都鏡が学校でシュークリームを作成している可能性もあるのではないかね」
「時間的にも設備的にもそれは難しいよ。シュークリームを作るのには1時間以上のまとまった時間が必要だ。それに家庭科室にクッキー生地を作れる設備なんてないだろう」
シュークリームが湧く、時間と設備の制約。おれの頭に閃くものがあった。
そうだ。シュークリーム創造能力だよ。古都さんは教室から出た後、隠れて能力を使ってるんだ。それなら全てに説明がつく!
「馬鹿も休み休み云いたまえ。そのような突拍子もない能力は存在しない」
「ジョーくんの云うような超常現象は全ての可能性を潰すまでは考慮しないことにしているんだ。ごめんね」
折角意見を出したのにぶった斬られた……
すんすんと泣き真似をするおれに構わず、希ちゃんは天使と相談している。
「古都鏡についてもう少し詳しく知りたいのだがね」
「さっき話したのでほぼ全部だ。古都さんが教室を出てシュークリームを持って戻ってくるのに気が付いたのは先週から。その間約3分」
「私が知りたいのは教室での立ち位置だ。そんなことは分かっている」
天使が個人について知りたがるなんて異常気象の前触れではないだろうか。おれは傘を持ってこなかったことを心底後悔した。
「古都さんは明るくていい子なんだけど、それが空回りしている感じがするね。嫌われているわけではなさそうだけど毎日を一緒に過ごしていると疲れてしまいそうだ。だからいつも幸せそうに一人でお昼を食べているよ」
やっぱクラス内でもあのテンションなんだな。ブリキのおもちゃを文芸部に持参したときも始終ハイテンションで、天使も気圧されるくらいだった。ワクワクするという感情を人間にしたら古都鏡という人間になりそうな気がする。もう高校生なのに心が男子小学生だとしか思えないね。彼女と友達になれるのは同類か、彼女を落ち着かせられる人間くらいだろう。
「情報提供に感謝しよう。これで私には真相が見えたが、一方的に情報が足りていないというのはアンフェアだろう。ジョーよ、希くんに菓子販売の流れを教えてやるのだ」
何故に。関係あんの?
「いいから話したまえ」
ふーん……まあいいけどよ。お菓子販売は先週から始めた。商品は昼休み直前に搬入されるから、おれが受け取って売り場まで運ぶんだ。店の準備はその間に天使がしてくれてる。在庫が無くなるかピークを過ぎたらすみやかに撤収。片付けが終わったら教室に戻ってお昼かな。んー、説明はこんなもんでいいか?
「十分だ。ジョーの云う通り、我々は一部別行動しているのだ。希くんならシュークリームの出処へ辿りつけるだろう」
「なるほどね。君の云わんとすることが理解できたよ」
すげえな。流石は探偵だわ。おれにはさっぱり分かんねえなー。それじゃ事件も解決したらしいし、お昼食べるか!
「まあ待てジョーよ。昼食は我々の推理を聞いてからでも遅くはないだろう?」
「その通り。この事件の真相、気になるよね?」
教室へ歩き出そうとしたおれの肩を2人ががっしりと掴んだ。ガックリ。こりゃあ逃げられそうにないな。
仕方ねえ。推理ってのを聞いてやるよ。ただし、昼休みが無くなる前に手短に頼むぜ。
次回解決編。
推理のポイント
・シュークリームは出どころ
・古都はなぜシュークリームを食べていたのか
シュークリームの出どころは簡単。シュークリームの真意は難しいと思う。
この真相をあなたは見抜けるか。