三角形関係-demo-
この町に来るのは久々だ。僕の住んでる街とこの町は、同じ県に属しているが、全く別物の世界だ。この町は観光地としても有名で、ちょっとした旅行のような感覚だった。今日は、この町で生きている大事な人に会いに行く。距離はあるが、車を手に入れてから、この町にも随分と訪れやすくなった。
待ち合わせの場所に着く。
「よ!久しぶり!今から中抜き休憩だから、付き合うよ!」
中学時代の友人である彼は、就職を機に、街からこの町へ引っ越し、ホテルマンになった。この町は観光地としても有名で、今日も忙しそう。彼と一緒に、外国からの人で溢れかえっている忠霊塔を登る。
「そういえば修学旅行から5年かー。」
「またその話かよー。」
「俺らが今も繋がってる理由のひとつだからな。」
「そうだな!今度この階段から三浦を突き落とそう!」
「なんじゃそりゃ。」
階段を上っている間、彼と中学時代について語り合う。
「また先生に怒鳴られるな!」
可笑しな思い出話で、腹筋がやられた。398段がとても長く感じ、息切れも起こした。
「最近はどう?」
彼が問う。
「ちょっと上手くいかないことが多い、かな。」
僕が答える。
「そうかー。」
それから彼が、僕の話を淡々と聞いてくれた。
桜と隣り合わせの忠霊塔は綺麗だった。天気がよければ、日本一有名な山も一緒に見えるが今日は雲に隠れていた。でも、友人との久々に再会した嬉しさは、厚い雲も飛ばせそうだ。
その後、彼とは夕食を約束し、彼はまた仕事に戻った。
友人の仕事が終わり、夕食の時間になった。夕食は3人で行う。僕と友人で駐車場で待っていたら、やがて3人目がやってきた。
「やっほー!久しぶりだね!」
彼女は僕の友人であり、彼の恋人だ。二人と会うのは、本当に久々だ。
「久しぶり。どこでご飯食べる?」
「再開を祝して(?)、お寿司にしましょうか?」
「おっけー。」
適当な会話で夕食を決め、チェーン店の回転寿司屋で夕食にする。僕ら3人の回転寿司屋の好みが違うことを初めて知ったが、バラバラの選択は女の子に任せてしまう。
「お寿司!お寿司!」
寿司を前にして、彼女の目の色が変わる。
「今日は休みなのにあんまり寿司が回らないね。」
「そうだね~。たくさん注文しよー。」
「3人で集まるのは初めてだね。」
「うんうん。」
僕と彼女の会話が続く。彼が会話に入ってこない。彼は中学から女の子の前に立つとあまり喋らなくなってしまうが、恋人の前でも変わらなかったようだ。彼は無言で、注文パネルの茶碗蒸しを4回と、注文ボタンを押す。
「ぎゃー!茶碗蒸し4つ押したー!」
「…(彼がニヤリと笑う)。」
「おい!雑な愛情表現しないで喋ろよ!」
僕も思わずツッコむ。
回転寿司に来た時は、食べるのは10貫と決め、何を食べようか決めるが、今日は盛大に食べた。誘ったのは僕なので、お礼も兼ねて僕が少し多めに払った。
食事の後は、彼の家にお邪魔した。一人暮らしってこういう時に羨ましい。家に着いて、彼女がまず、トランプを広げた。
「ババ抜こ?」と彼女が彼に問いかける。彼は何も答えない。正直彼が今もここまで女子の前で話ができないとは思わなかった。ババ抜きが始まってからの彼は、全く喋らなくなった。首を縦か横に振るだけだ。RPGの主人公か。僕の前での彼は饒舌に話すので、会話のテンポが掴みづらい。反対に彼女は、一方的に彼に話しかけてる。
「この子私とだと全然喋んないんだよー。」と彼女が笑う。ババが一旦終わり、休憩に入る。負けたのは僕だった。彼はベッドに潜り、スマホを手に取る。彼の休憩中も彼女は一方的に話し続ける。
「またゲームしてるのー。」
「ケータイばっかりー。まさか!?私以外の女の子と!?」
「ベッド奪っちゃうぞー!」
ここまで一方的だともはや攻撃だ。彼もたまに「うるっさいな!」とか「明日朝早くから仕事なんだよ!」と応戦する。僕は2人の光景をただ見守る。やがて彼は彼女の応戦に耐えられなくなったのと、歯磨き粉が切れたことに気づき、買い出しに出て行った。彼が歯磨き粉を「歯ブラシ粉」と称し、出ていく際に彼女に透かさずツッコまれた。
部屋には、僕と彼女の2人だけになった。彼女はベッドを完全に占拠し、夜更かしに慣れていない僕は、体が辛くなったので、彼女のお城となったベッドにそっと、背をつける。時間は、1時30分になっていた。
「あいつ、君の前だとほんとに喋らないね。」
「ほんとー。どうやったら喋るんだろう…?」
「僕もあいつがあんなに喋らないの初めてだからなぁ。」
彼の話題で、会話を繋げる。僕と彼女が直接話すのは本当に久々だ。彼女との会話の隙を探る。彼女に伝えたいことがある。
「・・・。」
「ねぇ。」
「ん?」
2人が恋人になるずっと前、僕と彼女は、お付き合いをしていた時期があった。お付き合いといっても特に何か特別なことをしたわけではない。学生時代で、お互い家が遠く、交通手段も限られていて、会うだけで一苦労をした。
「・・・。」
「どうしたの?君まで喋らなくなっちゃったの?」
「いや。」
そんな事情もあり、お互いをよく知り、恋人に発展する前に、僕らは離れていった。
「最近、上手くいかないことがあって。」
「そっか。話聞くよ?」
それから僕は、別に恋人を見つけ、彼女は今、一緒にいる彼と出会った。その時、僕たちは別れたけど、お互い前に進めたんだって思えた。
「失恋した。」
でも僕は結局、その恋人とは上手くいかなかった。
「そっか。私でよければ、何かできないかな?」
「もっとゆっくりできる時に、話聞いてもらってもいいかな。」
「うん!いいよ!」
僕の頭越しに、彼女が微笑んだ。彼女は今いる彼を大切にしている。僕もそういう時期があった気がするが、もうあまり覚えていない。僕は、今の2人の幸せを願う。2人は僕の様になってほしくない。
「そうだ、あいつの中学の時の話、聞く?」
「面白そう!聞きたい!」
彼の中学時代は非常に内向的な性格で、当時は彼に恋人ができる日が来るなんて想像できなかった。でも彼は誰よりも友達を大切にする。そして、意外と大事な場面で行動力がある。
「あいつはね。グループで遊んでる友達の中で一番力強かったなぁ。」
「へぇ!」
恋人同士の2人の会話はものすごくぎこちないけど、お互いの興味とか尊敬がしっかり伝わっていて、幸せそうだ。つられて僕も幸せな気持ちになる。僕は、この2人が大好きだ。
「修学旅行の時はさ、」
「うんうん。」
形や結果が何であれ、今彼らと、こういう関係でいられるのが嬉しい。彼女に「ありがとう」と伝えたいけど、上手く言葉が出てこない。
「・・・。」
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ。」
でも今の僕の気持ち、2人に届くといいな。
結局、僕の気持ちは言葉にならないまま、歯磨き粉を買いにいった彼が戻ってきた。さり気なく僕と彼女にジュースを買ってきてくるあたり、彼の優しさはほんとにかっこいい。
その後は、もう一度ババ抜きをし、3時ごろ解散した。真夜中なのに「またなー!」と何回も叫んでしまった。ちなみに、最後にババを引いたのは僕だった。僕がババ抜きここまで弱いとは思わなかった。最後までほとんど喋らなかった彼も、このことに関してはゲラゲラ笑った。
一人の帰り道は長く、孤独感にも襲われる。僕は上手くいかないことばっかりで、相変わらず手探りで生きてるけど、今日の2人と過ごした3人での時間は幸せだった。この時間を忘れないように。明日から、また前に進もう。長い帰り道、車を全力で走らせる。