第9話 体験
3体とは言え魔物を街へ近づける訳にはいかない、キーラの指定したポイントに全員が集合する。
森での奇襲のなか、俺たちの存在に気がついて向かってくる魔物、それだけでも嫌な予感がする……しかもそれが3体、その正体はすぐに判明する。
「もう、追いつかれたか……罠の一つも作れなかったな……」
「ま、仕方がないでしょうね。敵はリッチ、魔法感知能力は魔物の中でもトップクラス、さらに霊体に近い彼らの体はその気になれば高速で移動します」
冷静にピースが説明するが、この状況の危険度を理解している全員の表情は硬い。
オークジェネラルと同等、いや、年齢によっては遥かに上位の存在だ。
しかもそれが3体……
「クレス、カーラ、リッツ、シーザーそれに俺が魔法の対応して、ピースに託すしかないな」
「3体同時か……」
「俺も攻撃に回る。妨害もする」
「……シーザー、信じるぞ」
「ああ、やれる。そう思ったらそうだ。絶対に成し遂げる」
高位な魔法使いとの戦闘では、いかに相手の魔法を阻害して、こちらへの妨害を打ち消すか、そして霊体であるリッチに有効な攻撃は闘気を帯びた攻撃だ。今のメンバーで考えればピースが一番の闘気の使い手、俺とリッツがそれに続く、しかし、3体の魔法を妨害するにはクレスとカーラだけでは難しい、ピースとリッツもそちらに回ったほうが良い、一つでも魔法が通ってしまうと一気に戦況が変わってしまう、魔法戦の怖さでもある。強力な物理モンスターは闘気を大量に帯びていることが多く魔法耐性が高いので物理の存在が重要なんだが、魔法戦はバランスを必要とする。
燦々と太陽が照りつける草原で死霊系モンスターであるリッチと戦うというのは非常にシュールだ。
「しかし、リッチがいるってことは……本格的な魔王軍の襲撃だな……人為的な線をうたがっていたんだが……」
「その方が良い、人同士が腹を探り合うような余計な労力がいらない」
キーラとリッツが物騒な話をしているが、俺も口には出さないが、考えてしまっていた。
今回の事件はタイミングが良すぎる。人間たちの将来の人材をになう学園の生徒が外で実習する日に合わせて何者か、王子であるリッツあたりを狙ったと考えれば色々と辻褄も合う。
しかし、死霊系モンスターを操ることは人間には出来ない。
奴らは本能のままに生者を襲うか、彼らの王である魔王の命令しかきかない。
「と、されている……」
思わず考えが口から漏れる。
何かが引っかかる……
が、それよりも今の状況をなんとかしなければいけない。
そのもやもやを顔を振ってどこかへ飛ばす。
これからの戦闘は一瞬たりとも気を抜けない。
「いいか! わかってると思うが、偽装に引っかからずに的確に魔力の動きを読み続けるんだ!
ピースとシーザーはできる限り攻撃でも邪魔してくれ!」
「おう!」「わかった!」
すでに戦闘に突入している。3体のリッチを自由自在に動き回らせないための結界形成に魔法阻害、不浄の浄化もしていかないとアンデットが湧いてくる。さらに味方のバフ、敵の精神攻撃や物理攻撃もレジストしなければならない……
特に俺は全てをやると決めて発言した以上、全てをしっかりと行わなければいけない!
俺は出来る、絶対にやってやる!
なにか物事を始める時に、準備が終わっていないとやり始めないことがある。
これは全くの無駄だ。逆に聞くが、一体どこまで準備が終わったら動き始めるのか?
まずは成功した姿を思い描き口に出す。自分自身で決めてしまえば必ずその通りになる。
心が先、結果が後だ。
「ピース右だ!」
「シーザーすぐに左も対処してくれ!」
「右はダミー、本命は頭上だ!」
それぞれが自分の状態と指示を話しながら、聞きながら最適の行動を続けねばならない状態が続く。
3体を2人で相手していれば当然1体はフリーになるし、魔法を阻害しても直接精神や肉体や体力を奪う攻撃を死角から受けるリスクもあって、本当に戦場全体の状況を把握することが何よりも重要になる。
情報の伝達は声を発する以外に魔法を利用した方法もあるが、ただでさえ魔法やら魔力やら闘気やらを操作していてそんなハイコストな作業を並行する余裕はない。
結果として全員が大声で状態を話しながら戦闘するはめになってしまう。
「リッツ右! カーラ左! ったく、喉が乾く!」
「声出してると力出るけどな! せりゃぁ!!」
「ナイスシーザー! 直撃だ! 背後注意!」
「止めだ!!」
ピースが俺の仕損じたリッチを仕留めてくれる。
本来なら1体でも苦戦するレベルの魔物であるリッチを3体相手をしながらいともたやすく倒してしまった。これの原因は明白だ。俺たちは全員でオークジェネラルを倒したという成功経験を知っている。
そして、全員で力を合わせて本気を出した先にたどり着いた成功を知ってしまった。
もう、止まるわけがないのだ。
全員が、全員を高め合って強敵に打ち勝つ快楽を追い求めて、自分の実力を限界を超えてひねり出すことをきついと思わず、快感だと思ってしまっているんだ。
こうなった組織は最強だ。
どんな苦難も困難も俺達にとってはより大きな快楽を得るための糧でしか無いのだ。
そう思えばそう。
俺たちは今、それを6人全員で証明している。
ごめんなさい、あまりおもしろくできる気が流石にありません。
もう少しで打ち切ると思います。
実力不足で無計画に走り出してすみませんでした……
完結はさせます……
情けない……