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第8話 脱出

「どういうことだこれは……」


 魔物たちに蹂躙されたと思われる仮設テントの残骸を拾いながら、リッツが声を絞り出した。


「落ち着けリッツ、まずは生存者の確認だ」


「周囲に生体反応はありません……でも、戦いの跡もあまり無いですね」


 カーラがすでに探査魔法で周囲を探っていてくれていた。

 そう、一見すると派手に設備が破壊されているのだが、ここで戦闘が行われていた可能性は低いと考えられた。まず、魔物、人に限らず出血痕などが見当たらない、同様に剣や魔法、爪や拳等による破壊跡が無い。


「すでにこの施設は廃棄して、その後魔物に襲われたと考えるのがベターかな」


「そうだね、いくら疲労していても生徒たちや先生が一方的にやられるのは考えにくい、少なくとも戦闘の痕跡ぐらいは残るだろう」


「それに見てみろ、倒れた篝火で周囲が燃えていない。すでに消えていたんだろう」


「魔物たちは街の方向へ向かっている。これを追っていけば背後から攻撃できるし、うまくやれば挟み撃ちになるかもしれないな……」


「キーラの言うとおりだ。ゆっくりは出来なかったが、移動しながら補給して、敵軍を探そう」


 休むことも出来ずに俺たちは移動する。

 魔物の数はそこまで多くはなさそうだと推理されたが、激戦の疲れは完全には抜けていない。

 それでも自分たちが暮らす街を守るために重い足を踏みしめながら進んでいく。


「そろそろ探知魔法は隠匿しろよ」


「もうやってるわよ、カーラがそんなヘマするわけ無いでしょ」


「そうだな、余計なこと言った」


「いや、確認したピースは悪くないぞ、もちろんカーラは素晴らしい!

 ちゃんと情報共有していなかった俺のせいだ」


「でたよ、俺のせい。たく、そう言われたら何も言えないだろ」


「だが、チームで起きたことは全てチーム全体の責任、つまりは俺の責任だ」


「いやいや、全員の責任だろそこは」


「皆静かにっ。『前方300mに魔物の集団。数は20……3体……』」


 事前に波長を合わせておけばこのような魔法会話も可能になる。


『もう少し近づけるな……』


『カーラ大変だろうけどよく監視しながら報告をお願い』


 探査魔法でカーラの右に出るものはいない。今オレたちの行動の痕跡はクレスの魔法が完全に消している。この二人がいれば森林戦闘において圧倒的な有意で戦えることは間違いがない。

 見通しの良い平原でも、よほどの魔術師が相手にいなければ見破られることはないだろう。

 魔物の一部のは真眼、魔眼の類のスキルや、直感系スキルでバレることがあるので慎重さは必要だ。

 それを差し引いても、これだけの高度な能力を持っている頼れる仲間であることは疑いようもない。

 慎重に距離を詰めていると、肉眼でも魔物たちの姿を確認できた。すでに街まではさほどの距離がない、それよりも問題なのは、もうすぐ森が開けて平地に出てしまう。

 

『奇襲をかけるなら、ここだな』


 天才キーラでなくても理解できる。圧倒的な多数相手にできる限り有利な状況で戦闘を開始できる最後のチャンスだ。

 

『戦闘に持ち込まず撹乱だけに留めて、あくまでも街で皆と合流するのが必須条件だ』


 俺の発言にキーラが修正案を提示する。


『キーラがそう言うのならそちらが正しいのだろうけど、理由を教えてもらえるか?』


『その23体が、先程戦ったオークと同等、かそれ以上の可能性があるからだ』


 その言葉で俺は自身の認識の甘さを思い知らされた。


『そうだな……まさにキーラの言うとおりだ。俺は未熟だ、気が付かないうちに浮かれていたみたいだ。

 ありがとうキーラ、お前の言葉で目が覚めた』


『相変わらず大げさだな』


 そう言いながらもまんざらではない顔をしている。

 やはり人は自分を認められることに喜びを得るのだ、人のいいところを見つけたら積極的に褒める。

 人のこだわりを知ったら褒める。俺はそう決めている。

 ついでに、人のこだわりを見つけるコツは、他人と違う場所だ。

 それを見つけたら褒めるんだ!


『トラップを作って森の奥に敵がいるように見せかけて俺たちは散開して森を出て街へと向かう』


『わかった』


 すばやく物理装置と魔法装置を組み上げて無人攻撃装置を森に設置する。

 これを遠隔操作で発動させ、敵軍を森に引き込んだら一気に森を脱出して、最速で街へと向かう。

 作戦がキーラによってみるみると組み上げられていく、全員その指示を疑うことなく全力で実行していく、この状態でうまくいかないはずがない、行う前からわかっている。

 皆が、この作戦が成功すると決めて、そのために動いている。

 そう思えばそう。

 

『行くぞ、3・2・1・発動!』


 俺たちの後方で魔法攻撃と矢の射出が開始される。

 擬態とさとられないためにも手を抜かずに協力な攻撃が発動するように組み上げた。


『攻撃、効果的に当たっています……ただ、脱落者はなし、回復されています』


『やっぱり、協力な魔物の集団か、あの攻撃で落ちないとは……』


『キーラの言うとおりだったな。感謝する』


『まだ感謝されるには早い、奴らが森に戻って次のトラップが発動したら、全力だぞ』


『ああ……』


『敵は高速で森の内部に入っていきます。予定ポイントに入るまで、5・4・3・2・1、ゴー!!』


 爆発音と同時に身体強化、加速強化、攻撃の意味も併せ持つ風魔法を並行発動させる。

 体は凄まじい勢いで森から飛び出し、そのまま平野を走り出す。

 森では俺たちのデコイが森の奥へと移動し始めている頃だろう、それにつられてくれればいいけど……


『今の所デコイを追って……いえ……さ、三体こっちに気がついたようです!! は、早い!!』


『プランBだ!! 座標78、109に転身! そこで集合してその先で迎え撃つ!』


 キーラが敵の位置と速度、こちらの位置関係から最善の策を提示してくる。

 どうやら簡単には街へたどり着けないようだ……



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