第7話 帰還
「ぐわっ!」
激しい体の痛みを感じて意識を取り戻した。
「シーザー!? 目が覚めたのね! 皆! シーザーが起きたよ」
下から見上げるととんでもない質量だ。どうやら俺はカーラに回復魔法をかけてもらっていたみたいだ。
しかし、指の一本でも動かそうとすれば、全身にムチを当てられたような痛みが走って顔が歪んでしまう。ただただカーラの柔らかく温かい心地いい感触に身を任せるしか出来ない。ああ、それしか出来ない、仕方がないんだ、だからしっかりと脳にこの感覚を刻み込むことも致し方ないことなんだ。
すぐに皆が集まってくれた。大きな戦いを乗り越えた仲間の顔は、なんだか大人びて見える。
「無茶しやがって、全身の骨がバラバラになってもおかしくなかったんだぞ……
俺たちを助けるためにからだが動いたんだろうけど……」
「一歩間違えれば死んでいたぞ? いや、逆だな、一歩も間違えなかったから生きている、そういうレベルの行動だったぞ……」
呆れてはいるが、心から心配してくれているのが伝わってくる。
呼吸一つで体が燃えるように痛くなっていたのがだんだんと和らいできた。
「あ……り……がと……う、だいぶ、楽に……なってきた……」
「まだ喋っちゃ駄目ですよ。少しづつ治してますから……」
「ほんとにカーラのやってること知ったら一生頭上がらないわよ、私も魔力提供してるんだから感謝してよね」
「まったくクレスはとんだツンデレだな、さっきまでは私の魔力全部使っても良いからーってなきそうっ痛ってー! てかあっち! お前魔法はやばいって、やめ、やめーーー!」
笑うとそれだけで痛みで気絶しそうになるから漫才はよそでやってほしい……
何にせよ、その絶景を眺めながらの治療がある程度終わり、自分の魔力で維持できるようになるのに数時間必要とした。
「ありがとうカーラ、本当に助かった。やっぱりまだまだ修行が足りないな!」
「またそれか、シーザーのお陰で皆助かったんだし、ジェネラル級のオークを倒したんだぞ?
どこまで行くつもりなんだお前は……」
「いいか、リッツ。人はな、自分が決めた場所までしか行けないんだ。
そして、行くと決めたら行けるんだ。だから俺はいずれ一人だってキング級だろうが倒せる男になるんだ! そう、俺が決めたんだから、なる!」
「はいはい、シーザーならほんとになるよ……」
なぜか呆れ顔をされてしまったが。
俺は知っている。
そんな、進んでいく俺のそばで冷静な判断と助言をしながらついてきてくれることを……
「それにしても、あれだな……」
「ああ、まったくもってアレだな」
「「腹減ったな」」
俺とリッツのピッタリと息の合ったセリフに全員が大声を上げながら笑い出す。
最高の仲間とこの時間を味わうために苦難に立ち向かっているんだと改めて心に刻みこんだ。
ようやく動けるようになったので、みんなで拠点へと戻ることにする。
皆自分たちの行なった偉業を少しづつ受け止めてきて、自然とテンションが上がっていく。
「ほんとにやったんだよな俺たちが……」
「みたいなら取り出すわよ?」
「いや、大丈夫。やばいな……素材から凄いものができるだろうな」
「そうだな、あの驚異の再生力は武器にしても防具にしても自己修復機能は間違いないだろうな」
「報酬だってかなりのものだろ!」
「新しいお洋服買えるかな……」
「お店ごと買えるんじゃないかー、そこは?」
「それにしても、どうしてこんなレベルの魔物が出たんだ……」
「……しかもこの実習に合わせたように各場所に……」
キーラとクレスの言葉も最もだった。普段ならありえないことが連続して起きている。
「俺に与えられた試練ではなさそうだな……」
「いくらなんでも今回は違うだろうな、人為的……いや、意思的なものを感じるな」
「ほんとにシーザーは病気よね、何か酷いことが起きると試練試練って喜ぶんだから……
最近私もそのへんな考え方するようになってきちゃったわよ……」
「なにか問題が起きたらそれら全てが自分を成長させるために存在していると考えて、過去の悪い出来事さえも今の自分に必要な時間だった、価値があったんだと思う考え方……だっけかシーザー?」
「そうだ、今の自分の成長は過去に発した言葉によって生まれるんだ。
全て無駄なものはない、そして、人間思った通りにしか生きられない!
未来は発した言葉の通りになるんだ!」
「はじめは何を言ってるのかって思ってたけどね……」
「そのせいで今回だって途中で心折れないで耐えられたしね」
「諦めることを諦める。もう、決めているんだからってシーザーが叫んでる気がしたよ」
「聞こえた聞こえた、絶対できる! もう決めたんだからできる! ってね」
「ほんとに、お陰で……友も自分も助かった……」
「今回ばかりはシーザーのやばい言葉のおかげで助かったよ」
「自分の限界がどんどん変わっていく快感を身をもって知ってしまっただろ?
もう、耐えられないぞその刺激がない生活が」
「ああ……シーザーの病気が完全に感染ってしまったのか……」
「まぁ、こんな話ができてるのも生きて帰ったから、全員の力だ!」
「流石に、これはパーッとやるしか無いな!」
「あんまりはしゃぎ過ぎるなよ、今回は世話は焼かないぞ」
「珍しいねピース」
「ああ、今回は私も杯が進むだろうからな」
「なるほどね!」
そして、俺たちが目にしたのは、壊滅した拠点の姿だった……