第6話 言葉の力
オークはこちらの人数的な優位を苦ともせず、触れるだけで肉を削ぎ骨を砕く攻撃を繰り出してくる。
全員が完璧な集中とコンビネーションで戦って、なお互角。
キーラの指示にすべてを任せて、信頼してそのとおりに動くと現状が少しづつ好転していく。
この感覚は心地よい。
たぶん全員が同じ気持ちだと思う、そして指揮をすればそのとおりに動く俺たちに、キーラも気持ちよくなっていると思う。いや、間違いない。
皆でセッションして実力以上の力を出して、この瞬間瞬間に自分自身の成長を感じられる。
自分が変化していくことを感じられる、こんなに素晴らしい時間はそうそう味わえるものじゃない。
全員が成長していく、その結果、さらにオークを押し返していく。
「くそっ! 押してはいるが化物だなあの回復力は!」
「一撃で断ち切れない俺が悪い!」
「悪いとか悪くないとかじゃなくて……って、シーザーに言っても無駄だな。
ああ俺の問題だな畜生! ぶった切ってやる!」
「そうだそうだ! ぶった切っていくぞ!」
「よーし俺もやってやる!」
そう言葉にするだけで全員のモチベーションが上がって、ポテンシャルまでも上がっていく!!
オークの攻撃を必死に避けていた皆が余裕を持って攻撃を見切り始めてくる。
余裕ができればカウンターを仕掛けるようになっていく。
その結果、オークもいたずらに攻撃を振り回すわけにはいかなくなる。
こちらの攻撃をしっかりと防御して攻撃のタイミングを図ってきたりする、つまりオークの戦い方も成長している。それに合わせる形で俺たちもぐんぐん成長していく。ミックスアップが沸き起こるのだ。
「もっとできる! 俺たちならまだまだこんなもんじゃない!」
言葉が一番響くのは、その言葉を発した自分だ。
ただ言葉に出すだけで自分の力は変えられるんだ。
そして、発した言葉は周りの人間だって変えてしまう。
他人を変えるなんて無理だ、変えるのは常に自分。
変わった自分の言葉を聞いて、聞いた周りの人自身が変わっているんだ!
「くそっ! もうちょっとなのになー」
「リッツは速さと踏み込みは抜群だな!」
「パワーが足りない」
「そうだなピースの一撃はパワーに溢れてるからな!」
すべてを承認だ。認めること、良いことを認める。否定はない。
「キーラの指示も最高だ! クレスの魔法で相手もだいぶ弱ってきているぞ!
カーラの補助魔法も冴え渡っているな!」
承認、承認、承認だ!
「できるぞ! 俺たちでジェネラル級のオークを倒せる!
すげーことだぞ! 学園始まって以来だ!
学生がたった6人のパーティでジェネラルオークを倒すんだ!
絶対できる! 伝説になるぞ俺たちは!」
俺の鼓舞に皆の血潮が熱くなっていくのを感じる。
熱くならないはずがない! 俺の血潮が煮えたぎっているんだから!
「うおおおお!!!!」
リッツがオークの注意をひきつけてピースが懇親の一撃を叩き込んだ。
武器を持つ手がだらりと下がるが、ぶくぶくと泡立つように元の位置に戻ろうとする。
「させるかぁ!!」
俺は気合を込めてその部分に剣を振り下ろす。
防ごうとする腕をリッツが見事に弾き、僅かな隙にキーラの飛び道具がオークの瞳に突き刺さる。ごろりと腕が地面に転がり落ちた。すぐにクレスが魔法で腕を焼き切る。
「切断面はふさがったけど、腕は生えてこないな!」
「武器が無くなれば、少しは……」
【ガアアアアアアアアアッアアアアァァァァァ!!!】
咆哮が耳を貫く、突然のことに反応が遅れてしまった。
ビリビリと鼓膜が情けない悲鳴を上げている。同時に目眩のような物に襲われて体勢を崩しそうになる。
それは他のメンバーも同じだった。
「まずい!!」
声が出ていたかはわからない、オークは単純な、ただただその巨体をもって超スピードで俺たちの中に飛び込んできていた。
真っ直ぐ動けるかもわからない、でも、やらなければいけない、俺しか動けるものはいなかった。
オークの盛り上がった筋肉の塊のような肩が目前に迫る、まるでスローモーションのようにゆっくりと近づいてくる。俺は巨大なハンマーのような体当たりの下に潜り込み、その速度と勢いのベクトルを変える。体に触れた腕が肘から変な方向に曲がるが、痛みも感じない、そのまま体を潜り込ませ体全体を利用してオークの下半身を跳ね上げる。そして逆の手でオークのちぎれた腕を地面に向かって引き落とす。
ドゥガアアアァン!!
凄まじい音と衝撃が起きて俺の体を吹き飛ばした。
近くの木に叩きつけられて地面に臥すと、砕けた腕が激しく痛みだした。
引き落とした腕も肩が外れている。潜り込ませた時に肋骨も数本折れて呼吸のたびに気を失いそうになる。
皆もその衝撃で吹き飛ばされたが、無事なようだ。
オーク自身は、ありえない方向に首が曲がり、地面に突き刺さっていた……
オークの魔力反応が消えたことを確認すると、俺の体は意識と切り離された……