第5話 すべてが変わる
「カーラ!!」
「シーザー君……よかった……」
俺はわざと大声を上げてカーラを呼ぶ、今まさにカーラに、正確にはカーラの前で戦っていたクラスメイトに、留めの一撃を放とうとしてしていた魔物がこちらに意識を向けた。
その僅かな隙に、なんとか向かい合う敵と味方の間に入り込む。
でかい、オーク……ハイオークかジェネラルだろう、分厚い脂肪とそれでも隠せない筋肉が一般的なオークとは桁違いだ。
カーラの顔は真っ青だ、魔力切れを起こしていることは間違いないが、それでも激しい、頭が割れそうな痛みに耐えながらクラスメイトを回復しようとしている。
「ちょっと待ってろよ、すぐに相手してやる」
本気の全開の殺気を乗せて魔物に話しかけると、数歩俺から距離を取る。
ゆっくりと後ずさりながらカーラのそばへ向かう。
「よく耐えたな……他のメンバーは?」
「大丈夫……避難しているよ……」
俺はカーラの手を握って魔力を込める。
よくやった! その気持をたっぷり込めた魔力を分け与える。
基本的な魔力操作の一つだが、相手の魔力の波長からずれすぎると相手が辛くなるのでその調整は繊細に行う必要がある。魔力の波動は個人の性格や生き方が関係するために、カーラのことを真剣に思い出して考えることで魔力の波長が整っていく。
真っ青な顔に少し朱が差していく。少し赤くなりすぎている気がするので流す魔力を抑える。
「も、もう大丈夫だから、ありがとう」
「シーザー、来てくれたのか!」
「ああ、安心して休んでいてくれ。よく頑張ったな! 最高だお前は!」
殺気を放ちながら笑顔を作るのは難しいが、最高の笑顔を二人にかける。
あとは、俺の仕事だ。
「さぁ、またせたな」
改めてオークと向き合う。
体がブルリと震える、もちろん恐怖じゃない、ワクワクしている。
多分目の前にいるオークはジェネラル級だろう。
個人で相手ができるような存在じゃない……一体出れば軍が出る魔物だ。
カーラたちも本当によく耐えてくれていた、恐怖に震えて命を落としてもおかしくない、それでも果敢に耐え忍んでくれていた。二人の勇気に胸が熱くなる。
その心の動きをもらった俺は恐怖に震えない!
この困難を乗り越えたときの自分の成長を想像してワクワクしている程だ!
困難を乗り越えた姿を想像できれば、必ず現実はついてくる。
もう大丈夫だ……
「つまり、俺は、勝つ!!」
そうと決まれば一気にオークに突っ込む。
俺の殺気で警戒していたオークは、突然の加速にもきっちりと対応してくる。
そのぶっとい腕で巨大な棍棒を軽々と振り回してくる。
この相手だとショートソードでの立ち回りは、受けてはいけない……避けなければいけない。
あんな巨大な質量をまともに受ければ、剣が曲がるでは済まない。
剣ごと肉体までもが無残に砕け散るだけだ。
暴風を起こしながらスレスレを通過していく棍棒に恐怖を感じてはいけない、恐怖は体を動かなくさせる。全ての神経を集中して相手を見る。そして相手が動く前に動きを読んで動く。
それでも棍棒は俺の鼻先を掠めてくる、このオークは強い。
それでも俺は勝つ、俺は信じているからだ。自分を、そして仲間を……
「神よ、彼の者に加護をお与えください……ブレッシング!」
カーラからの支援魔法、温かい力が体を包み込み、さらなる力を俺の体に沸き起こしてくれる。
俺は一人で戦っているんじゃない、みんなの力が俺の力になる。
その力は単純に二人分ではない、他人への思いは自分ひとりだけでは出せないほど大きな力を生み出す。
1+1を10にも100にもできるのが人間なんだ!
カーラの支援魔法が飛んでくるたびに俺の力は増大していく、そして敵には阻害魔法がかけられていく、敵のヘイトは俺がコントロールして、圧倒的な実力差が埋められていく。
「うおおおおぉぉぉぉ!!」
棍棒を紙一重で避けながらもオークの懐に入り込みその分厚い筋肉を切り刻んでいく、数秒前に体があった場所を巨大な棍棒が過ぎていく姿は至近距離で見ると恐ろしく感じてしまうかもしれないが、それを乗り越えた先の、勝利への熱が俺をさらに加速させていく。
「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔法の力で強化された刃の光が、オークの腕から体を切り刻む。
オークの顔が苦痛にゆがむが、それでも攻撃の手が休むことはない、しかし、それはオークの攻撃も同じこと、俺からの攻撃を喰らいながらも、大量の血液や体液を振りまきながら棍棒を振り回してくる。
そして、驚くことに傷口はボコボコとピンク色の肉芽が盛り上がり、乱雑に傷を塞いでいく。
オークの上位種が持つ回復力は化け物じみている。
「だからって、諦めるって選択肢は俺には無い!」
やると決めたらやる、そう思えばそうなるんだ!
俺は必ずこいつを倒してまた一つ高いステージへとたどり着き、最後には世界を変えるんだ!
「苦戦してるなシーザー、今度は助けに来てやったぞ」
オーガの右目にどこからか飛んできた短剣が刺さる。
そして、キーラがいつの間にかカーラのそばで短剣を構えていた。
「さて、それじゃあ行こうか」
いつの間にかリッツが隣で構えていた。
「おお、皆!」
「及ばずながら、私も力を貸しますよ」
「ピース! それにクレスもか!」
「仕方がないから助けに来てあげたわ、ここで最後なんだから皆で帰るわよ!」
六芒星が揃った。もう、負ける気がしない。
俺を認めてくれる仲間がいる、ただそれだけで俺は何倍もの力を発揮できる。
承認しか無い集団はすべての人が無限に成長できるんだ!
「よし、行くぞ皆!!」
「おお!」
オークには悪いが、ショータイムだ!
「最強の俺たちが揃ったんだ、絶対に負けることはない!」
「ああ、お前がそういうんなら、そうなるんだろうな!」
そう、自分だけじゃない、周りのみんなも巻き込んで、そう思ったらそうなるんだ!!