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第2話 心が全てを決める

「できる。絶対にできる! 絶対にできるって決めたんだ!」


 一心不乱に木剣を大岩に叩きつける。

 そのたびに衝撃が手のひら、腕に響き、痛みを訴える。

 それでも俺の手が止まることはない、俺は、自分で決めていたから。


「絶対に今日中に岩を砕く! そう決めたから!」


 体の中で魔力を練り上げる。そしてそれが全身にいきわたり爆発的な力を与えてくれるイメージをする。

 強く、強くイメージする。そう思ったら、そうなるから!


「うおおおおおおおおおっ!!」


 体の中を爆発しそうなほどのエネルギーが駆け巡る。

 痛みはどこかへ行った。

 痛みになんて負けない、そう、決めたから!


「割る! 俺は、割るんだ!!」


 高々と剣を掲げて、体の中のエネルギーを全て載せた一撃で大岩に振り下ろす。


 ズガガガァアァァァァァァァ!!


 木剣が大岩に深々とめり込んで、真っ二つに割っていた。


「よっしゃぁ!! 今日もなりたい自分になったぞ!!

 最高だ俺!! ありがとう体! そして……全てのことに、感謝を……」


 俺は祈る。今日の試練を乗り越えてくれた自分に感謝を、ここまで育ててくれた全てに感謝を……


「ほんとに……やりやがったのか……」


 振り返ると同じ騎士見習いのリッツが呆れ顔で立っていた。

 間抜けな顔をしているが、普段はもっとキリッとしていて女子からの人気もある。

 端正な顔つきと美しい金色の髪、そして青い瞳、鍛え上げられた肉体と、まぁ同性からしても女性の人気があることが嫌というほど理解ができる。

 実力もかなりのもので、将来有望な騎士の卵として教師たちの覚えもいい。


「ああ、当たり前だろ。やるって決めたんだからやるさ!」


「ほんとシーザーは頭おかしいよ……やるって決めたって木刀で岩は斬れないよ普通」


「それは斬れないって心で決めちゃっているから斬れないんだよ。

 斬れるって心で決めれば、結果はついてくる。当たり前の原理原則だろ?」


「……やっぱりお前と話しているとこっちまで頭がおかしくなってくる……」


「先生だって言っていたろ? 魔法は具体的なイメージが強ければ強いほどその力が強くなる。

 つまり、心で思ったことは必ず実現するんだよ」


「シーザーは天才だからできるだけだよ……学園始まって以来の魔法の使い手だもんな」


「俺は天才なんかじゃないよ。俺は決めたんだよ、魔法も剣も全てで一番になってこの世界を救うんだって、俺の力で世界を変えてやるんだって、ね」


 手に握った木刀を高々と掲げる。

 頭上には真っ青な空と光り輝く太陽、そして、真っ赤に染まった球体。

 あの球体がこの世界を苦しめる魔王の棲家、俺がいつの日か壊して世界を変える場所だ。

 俺は、その赤い珠を切るように木刀を振るった……




 この世界は、太古の昔より天空に浮いた赤き珠に苦しめられてきた。

 あの珠は時より涙を流すかのように真っ赤な雫を大地に落とす。

 しかし、それは涙などではない、人間に、この大地に生きる全ての生物に害悪を起こす魔物たちの生まれる水だ。

 その水が大地に堕ちると、周囲の物を取り込んで魔物と化し、生物を襲い始める。

 魔物の特徴はギラギラと輝く真っ赤な瞳だ。

 暗闇でもはっきりと輝く赤いゆらめきは、全ての生物の敵である証拠となる。


 人間は魔物を恐れ、街を高い壁で囲って引きこもった。

 獣人やエルフなどの亜人は自分たちの生存権を守るために必死に戦った。

 その姿に勇気づけられた人間は彼らとともに戦い始めた。

 そして、世界の一部に自分たちの居場所を作ることに成功したのだ。

 以来、数千年の間、魔物と生物との境界線を巡る戦いは続いている。

 これが、この世界に生きる者なら子供の頃から聞かされ続けているおとぎ話、しかし、現実だ。

 未だに魔物との戦いは続いている。

 防衛線の内部にいる魔物に怯えながら暮らしている。

 その世界を、俺は変えるために生まれてきたのだ。


「まーたその話か……」


「ああ、何回だって、何万回だって言うさ「俺の言葉を一番聞いているのは俺なんだ」」


 リッツは俺の言葉を真似して被せてきた。

 やれやれといった表情だが、嫌悪しているわけではない。

 そもそもリッツはあまり人とつるむことはなく、なぜか俺とよく一緒にいる。

 俺の言葉を俺の次に聞いているのはリッツだと思う。


「卒業闘技大会、決勝まで残れよ? 今度こそお前に勝つ」


「ああ、俺は全ての試合に勝つと決めている! 負けないぞ!」


「お前の力なら楽勝だろ?」


「楽勝なんかじゃないさ、俺は自分の力が足りていないことを知っている。

 知っているからこそ鍛錬するし、自分自身に繰り返し言い聞かせているんだ。

 自信があったらこんなことを繰り返し言わなくても実現させているさ」


「ほんっとお前って変わってるよな」


「よく言われる」


 俺は、自分の意志で動き始めてからずっとそう言われてきた。

 親いわく、初めて話した言葉は、「世界を変える」だったそうだ。

 それ以来、自分自身がなると決めたことを実行し続けて、平民出身でありながら王立騎士学校の高等科、そしてその最高峰であるSクラスに所属している。

 周りの生徒はS級冒険者の子供や大貴族の子供、大魔道士の孫に、大賢者の娘など凄い人たちばかりだ。

 このリッツにしたって王子なんだから、本来俺が話せるような人間ではない。


「二人で盛り上がってるみたいだけど、私達だって出場するんだから簡単には行かないわよ」


「そ、それに……そのまえの実習だってあるんだから……」


 俺らがでかい声で話していたのでクラスメイトが集まってきた。

 美しい栗色の髪を腰まで伸ばした、男なら目で追ってしまう美人はクレス、大魔導師メリーナ様の孫で緑風の妖精の二つ名を持つ天才魔道士だ。魔道士は魔導師の下の位で、この世界始まって以来の最少年魔道士でもある。

 そして、その後ろに控えてビクビクしているのが大賢者ジニス様の娘カーラ。

 彼女は回復魔法や支援魔法使いにおいて最上位である聖者の称号を持つ、当然最年少聖者で大いなる陽光の二つ名持ちだ。ゆったりとしたローブで身を包んでいるが、そのローブの下には凶悪な武器を持っている。正直、男としての本能が危ない。

 

「そうだぞ、実習を軽んじていては思わぬ痛い目を見る。気を引き締め給え両名とも」


 このかたっ苦しい男がS級冒険者、冒険王バイトの息子のピース。

 親は破天荒な冒険王だが、その息子は規則を守り鍛錬に余念がない馬鹿真面目な男だ。

 嫌いじゃない。


「1ヶ月外で過ごすなんて、かなりしんどい実習になりそうなのに、気楽だよなぁ二人は……」


 めんどくさそうに会話に入ってきたのが4大貴族筆頭パトリオット家の長男キーラ、適当そうで今もあくびをしながらぼーっとしているが、いざ実践になるとその戦略眼は天才以外の言葉が見当たらない。

 兵を率いての戦いでは今の所一度も勝てたことはない、それでも、いつの日か勝つと決めている。

 

 Sクラスでも頭一つ抜けているこの5人と俺は、王立校の六芒星なんて呼ばれている。

 

 そんな場所に俺がいられるのは、生まれた瞬間から神の声が聞こえていたからだ。

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