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第10話 そう思えばそう

 街からはかなり距離をとって戦っていたが、とにかく魔法戦は派手になることも多い。

 二匹目のリッチを倒せそうになった時に街からの兵が俺たちを視界に捉えてくれた。

 俺ら6人が兵士たちの存在に気がついたのは、最後の1体に突然拘束魔法がかかった時だった。

 あまりいいことではないのだが、それくらいその戦闘に集中していた、いや、してしまっていた。

 自分たちの成長が自分たちで感じられてしまった瞬間に、すっかり酔っていたのだ。


 その後、森から戻ってきた魔物たちは兵たちと合流した俺達の敵ではなかった。

 顔見知っていたはずの隊長さえ俺たちの戦いを見て、


「誰だお前ら?」


 と言った程だ。

 確かに自分たちでも自らの成長がここまで短期間にこの高みに達すると考えていたものはいないだろう。

 俺がその事を口にすると、皆が口を揃えて俺が考えてないことをやったのなら、とんでもないことだなと笑っていた。


 今回の事件は魔物たちの大攻勢のための威力偵察である可能性が示唆され、国を挙げての防衛力の強化が急がれた。俺たち6人はその功績によって学校の卒業を前倒しされ、一流の人達に混ざって最前線で戦うことになった。

 怒涛のような魔物の攻勢に序盤こそ俺たちは苦戦を強いられたが、ピースを中心として反攻作戦を成功させ、なんとか戦線を膠着状態へと持っていくことに成功した。


 魔物たちの攻撃はとどまることを知らず、人間側はさらなる苦戦を強いられる事が予想されたが、凶悪強大な敵との戦闘は人々の成長を飛躍的に高めていった。

 特に英雄と後に呼ばれる一部の人々が普通の人間の限界を超えるような成長を遂げ、少しづつ戦線を押し戻すことが出来るようになっていった。


 もちろん俺の大切な仲間たちは全員英雄と呼ばれるような場所にたどり着いていた。

 俺は、俺自身が信じていた可能性を疑うことはないので、今、この場所にたどり着いていた。


「ようやく追い詰めたぞ魔王!

 この世界を治めるべき神としての責務を果たさず、自らの欲望のままに好き勝手をした挙げ句、他の神に咎められたことに腹を立ててこの世界を滅茶苦茶にするとは……

 正直ドン引きだ、どれだけ意識が低いんだ!

 俺たちをおもちゃ扱いしやがって!」


「いやだって、俺は悪くねーし、どいつもこいつも熱くなってバカジャネーノ。

 これだってどーせただのイベントみたいなもんだし、俺のアバター倒したってなんにもなんねーよ。

 無駄だから辞めねぇ? どーせ何も変わんねーよ……」


 この椅子に座ってるデブが魔物の親玉だと思うと、今までの苦労が馬鹿らしくなる。

 

「残念だが、そのアバターを俺が倒すことに意味があるんだ」


「はぁ? なんの意味があるんだよ?」


「俺は、この世界ではない場所から管理者権限を与えられて転生させられている。

 俺に直接倒されることで、管理者はお前のアカウントをこの世界から排除することが出来る。

 お前の悪行にほとほと呆れ果てて、相手をするのも飽きたそうだ、覚悟するんだな」


「はぁ!? マジ!? うっざ……はぁ……!?

 いや、待てよ、このアバターめんどいから何もしてねーんだよ。

 まじで、権限とか奪うとか、ありえんだろ。

 いやだって盛り上がってたじゃん。こっちはイイコトしてんのに、なんなんうっざ……

 あーあー、もう良いわ。はいはい、俺が全部悪いんですね。

 殺せばいいよ、勝手にしろ、もーいーですよー、どーでもいいですよーーー」


「シーザー、さっさとこんなやつ殺せ。耳が汚れる」


「同感だ。ただ生きているだけなら人に迷惑をかけるな」


「……承認されてこなかったんだな……」


「はぁ!? まさかシーザー馬鹿なことを考えてないわよね!?」


「い、いけませんシーザーさん。さすがにそれは……」


「こいつの心の器は……今まで誰も水を注いでこなかったんだ……

 そのせいで自分自身を愛することが出来なかったんだ……誰かが、いや、すべての人が水を注いでやっていれば、こいつはこんな存在にはならなかったんだ!

 全部オレのせいだ……俺が全ての人間を他人の心の器に水を注いでやれるような承認の世界を作れなかったからこいつは産まれたんだ! すべて俺が悪い!!」


「……始まっちゃったよ……」


「もう、おしまいだ……」


「魔王も、死ぬより辛い目に会うのね……」


「え? え? なんなのこいつ、いきなり泣き出して?

 いや、めんどいんでさっさと終わらせてほしいんだけど……」


「めんどくさい、その言葉の定義が根底からひっくり返るほど、そいつ、めんどくさいぜ」


「頑張ってな、魔王さん」


「大丈夫だ! 俺がお前に水を注ぎ込んでやる!! 絶対にだ!

 人は変えられない、でも、自分が変わることで人にも影響を与えるんだ!

 きっと、変われる。いや、変わってしまうんだ!

 俺がずっと水を注ぎ続けてやる!!」


「……考えようによってはシーザー×魔王……いや、逆に魔王×シーザー……ブツブツ……」


「確かにありかも知れないわねクレス……」


「俺達は先に帰るからな」


「ああ、任せておけ! 胸を張ってこいつをお前らの仲間と紹介する事ができる日まで修行部屋にいるよ!」


「や、やめろ……その言葉を聞くだけで記憶が……」


「な、なんなんだよ!? ちょ、やめろ、話せってば」


「マイルーム、オープン」


 俺が魔法を唱えると目の前に扉が開く。

 ここで俺は魔王と向き合って修行の日々を過ごす。

 心の器が満たされて変わってしまった魔王を見るのが楽しみだ。


 そう思ったらそう。


 俺はもう決めている。

 魔王は自分を愛せる魔王になれる。

 健全な肉体と精神をもって、高い目的意識と強い自己承認力を持つ男になると。

 これから一日24時間しか無い、寝る間も惜しんで俺の思いを伝えていかなければ。


「やめ、なんだ、この拷問器具みたいなのは! やめろ、話せ、ほんとに、いや、まじで、ぎゃーーーーー助けてーーーー!! さらわれ」


 俺の空間につながる扉が閉まれば、魔王の部屋に静寂が戻る。

 そして、この空間には魔王と俺しかいない。

 楽しみだ。この自分を愛せない男が、熱い想いをもって生き生きと生活する姿を想像すると胸が高鳴る。


「よし、とりあえず今日は動けなくなるまで走ろう!

 それが終わったらお祝いだ!」


「はぁ? 動けなくなるまで!? 意味わかんねーよ、それに祝い!?

 何を祝うっていうんだ! それよりさっさと俺を殺せよ、めんどくせーんだよお前!」


「何を祝うかって!? 決まってるだろ、魔王が変わっていくことが決定した今日にだよ!」




 その後、シーザーと共に仲間たちの元に戻った魔王がどんな様子だったか。

 シーザーはすでに決めている。最高の魔王にすることを、そして、そう思えばそうなるのだ。

 5人の英雄たちは理解していた。シーザーとはそういう男なのだということを……


  


反省しか無い黒歴史ができた気がします。



もっとがんばります。

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