6話 蛙、化け物と遭遇する。
飯を探して三千里。
リエール地下迷宮の11階層で勝てそうな魔物を探し始めて数時間。
なかなか魔物と出会うことがなかった。
出会ったとしても勝率が50%に満たない魔物ばかり。
5割しか勝てない相手と戦うのは賭けに近い。
しかも俺の場合暗殺をして5割だからな。
正面戦闘だと1割にも満たない。
さてさてどうしようか?
そんなことを考えているとある生物と出くわした。
それは巨大な尻尾を持った蠍だ。
前にも一度見かけたことがある。
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種族名:リエールオオサソリ Lv.10
HP25
MP15
SP22
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こいつならもしかしたら……
俺は毒生成で毒を作り出す。
ジャンプで天井に張り付くと蠍の真上にまでゆっくりと進み……
口から毒液を垂らした。
俺の口から垂れた毒液は蠍の目に染み込んでいく。
「ギュゥシャァァァァ!!!!!」
蠍の声にならない悲鳴が迷宮に木霊した。
蠍は暴れて周りに敵が来ないようにしている。
しかし俺にとっては意味のないことだった。
俺は蠍が暴れ終えるまでじっと天井に張り付いて耐える。
蠍は一通り暴れ終えると敵はもういないと思ったのかフラフラと歩き始める。
目が見えていないので何度も壁にぶつかっている。
俺はその隙を狙い背中に飛び乗る。
蠍は驚いて尻尾の針を俺に向けて物凄いスピードで攻撃してきた。
俺はそれを間一髪でかわす。
すると針は目標を見失い、蠍の背中へと深々と突き刺さった。
あとは傷口にたっぷりと毒を流し込む。
蠍はどうすることもできずに死んでいった。
『レベルアップしました。 毒生成のスキルレベルがアップしました。 鑑定のスキルレベルがアップしました。 成長のスキルレベルがアップしました。 隠密スキルを獲得しました。』
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名前:
種族名 ドクドフロッグ
Lv.2
HP:17/17
MP:23/12
SP:12/8
スキルポイント:40
*スキル*
【マユの声】【痛み耐性Lv.3】【腐食耐性Lv.1】【鑑定Lv.5】【毒牙Lv.5】【毒生成Lv.3】new【成長Lv.3】new【毒無効】【隠密Lv.1】new
*称号*
【愛に生きる者】【共喰い】【毒使い】
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よし、やっぱりレベルが離れていると上がりやすいな。
じゃあ蠍を拠点まで運ぶか。
俺は蠍を舌で吸着してズルズルと拠点まで持ち帰った。
そして丸呑みしてゆっくりと消化するのを待つ。
その間は眠ることにした。
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この生活を始めて早数週間くらいは経っているだろうか?
日を見ていないのでよくわからないがそのくらい寝て起きてを繰り返してきた。
レベルも順調に上がりスキルも以前よりレベルアップした。
昨日はついにあの蜥蜴を暗殺することにも成功した。
今日は以前と同じ蠍を捕まえたので拠点へと持ち帰る。
しかしそこで異変に気がついた。
扉の外から何かの話し声が聞こえてくる。
その声は確実にこちらへと近づいていた。
俺は蠍を食べるのも一度中止し、天井に張り付き身構える。
そしてついに扉の前まで声が近づいてくると扉が開かれた。
入ってきたのは4人の人間。
猫耳の女、耳の尖った男性、普通の人間の男女一人ずつだ。
おそらく二人は獣人とエルフなのだろう。
4人共武装しているのがわかる。
その四人は拠点へと入ってくると驚いた声を上げていた。
「〜〜〜! 〜〜〜〜〜〜〜!?」
何を言っているのかはわからないが蠍を見て驚いているようだ。
しかし、蠍が死んでいることに気がつくと死体を調べ始めた。
俺には気がついていないようなので鑑定で四人を調べてみる。
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名前:リリエル・エンフォード Lv.38
種族名:人間 性別:女
職業:冒険者 騎士
HP:87/88
MP:35/39
SP:55/77
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名前:レイダース・ローランド Lv.42
種族名:人間 性別:男
職業:冒険者 剣士
HP:104/104
MP:88/88
SP:92/92
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名前:エルーナ・ライオット Lv.39
種族名:猫人族 性別:女
職業:冒険者 格闘家
HP:65/88
MP:20/25
SP:90/95
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名前:エイド・ラーベイン Lv.40
種族名:エルフ
職業:冒険者 魔導師
HP:54/60
MP:101/101
SP:55/58
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つ、強い。
強すぎるぞこれは。
100越えなんて始めて見た。
人ってのはこんなにも強いものなのか!?
四人の冒険者は俺に気がつくことなく蠍を解体し始める。
なにか話しているようだが俺には理解できない。
この1ヶ月暗殺を続けていたので今の俺の隠密スキルは7に上がっていた。
鑑定は6に上がっており、ステータスもある程度見られたのはこのためだ。
俺は気がつかれないように天井の隅で息を殺し続けた。
身体が黒いのもあり冒険者がいなくなるまで数時間、天井の陰に紛れて気づかれることはなかった。
しかし……
あいつら俺の蠍持って帰りやがったー!!!
俺の飯は無くなっていた……
はぁ、仕方ないまた狩りに出かけるか。
俺はトボトボと獲物を探しに行くのだった。
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冒険者達との遭遇から……
まぁ、三週間くらい経ったと思う。 たぶん。
今の俺のステータスはこんな感じだ。
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名前:
種族名 ドクドフロッグ
Lv.8
HP:25/25
MP:28/28
SP:15/15
スキルポイント:50
*スキル*
【マユの声】【痛み耐性Lv.6】new【腐食耐性Lv.1】【鑑定Lv.7】new【毒牙Lv.6】new【毒生成Lv.6】new【成長Lv.5】new【毒無効】【隠密Lv.8】new【気配察知Lv.3】new【暗視Lv.4】new
*称号*
【愛に生きる者】【共喰い】【毒使い】【殺し屋】new
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まぁ色々変わったがスキルポイント20で気配察知を取得した以外は自然に得たものだ。
もう俺に11階層の魔物は敵ではなかった。
ステータスは大して高くはないのだが、隠密性に優れた俺の毒で魔物はほぼ即死してしまうのだ。
いやー強くなったものだね私も。
はっはっはっ。
とまぁ浮かれるのはこのくらいにして、そろそろ次の階層へ行ってもいい頃合いだろう。
この階層でのレベル上げは成長スキルがあっても中々上がりづらい。
ということで俺は早速12階層へと下る階段へと向かっていた。
もうこの階層のことは知り尽くしているので迷うこともない。
かなり複雑な道なのだが、気をつけるのは1つだけ。
大きな落とし穴だ。
それは一番大きなフロアの真ん中にあり、下は全く見えない。
石を落としたりしてみたのだが音も聞こえなかった。
まぁあんな穴に落ちるなんて相当間抜けな奴だけだろう。
俺はルンルンと階段までの道を飛び跳ねていく。
『警告。 前方100メートル先に強力な個体がいます。 警告。前方100メートル先に強力な個体がいます。』
突如としてマユの声が頭に鳴り響く。
え?気配察知にはなにも引っかかってはいないぞ?
俺は目を凝らす。
100メートル先は流石に見えない。
隠れるにしても直線のこの道で隠れる場所などない。
仕方なく天井に張り付き息を潜める。
段々とガチャンガチャンと金属のぶつかる音が聞こえてくる。
そして俺の視界に入ったのは一人の女性だ。
冒険者だろうか?
なぜか気配を感じられない。
俺はいつもの癖で鑑定を使ってしまう。
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名前:エリス・ペンドラゴン Lv.155
種族名:人間 性別:女
職業:勇者
HP:1539/1539
MP:1256/1256
SP:1300/1300
*スキル*
【気配遮断Lv.MAX】【気配察知Lv.MAX】【光波剣】…………………………【…………】……………………
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鑑定を使い情報が頭の中に流れてくる。
しかしすぐにその情報が遮断されてしまった。
俺はなにが起こったのかわからず戸惑っていると
人間の視線が俺へと向いた。
「〜〜〜〜〜〜!」
そしてなにかを叫んでいる。
なんて言ってるのかわからねぇー!!!
でも鑑定で一瞬見た情報はえげつないものだった。
勇者……
おそらく人類最強の一角とかなのだろう。
ステータスも前回来た奴らの10倍以上だ。
俺は冷や汗をかきながら女を見続ける。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
相変わらず何かを言っている。
どうしようか……
俺が戸惑っているとマユが声をかけてきた。
『翻訳いたしますか?』
え、できるの?
『はい。』
なんで前に人間が来た時に行ってくれなかったの?
『聞かれなかったので。 それに主様とコミュニケーションを取ろうとはしていなかったからです。』
あ、はい。
じゃあお願いします。
『かしこまりました。』
そして人間の言葉がダイレクトに翻訳され頭に流れ込んでくる。
「〜〜〜〜者だ!? 鑑定持ちの魔物なんて聞いたことがないぞ。 それにドクドフロッグなんてこんな低レベルの階層にはいないはずだ。」
おう、聞こえてきた。
鑑定したことを気付かれたのか?
そういうスキルを持っているということか。
気配察知かな?
いや、それ以外にもありそうだな。
「前回蠍が毒でやられて死んでいたという報告を受けたがこいつの仕業か。とにかくこんなところに入られては冒険者達に危険が及ぶな。 まぁ折角の暇つぶしだ。 60階層までは素通りするつもりだったが狩っておくか。」
おいおい。
なんか野蛮なこと考えてません?
こちらから話しかけることはできないのでこちらとしては逃げるしかないわけで……
俺は脱兎の如く逃げ出した。
しかし、エリスという女は一瞬で俺との距離を詰める。
は、はやっ!!
そして薙ぎ払われた剣で俺の身体は吹き飛ばされた。
うぐっ!!!!
そのまま数百メートル先の壁にぶつかる。
女はまたも一瞬で距離を詰めており今度は蹴りあげられる。
「おいおい、折角遊んでやってるんだ。 逃げる事は無いだろう?」
そして殴り飛ばされた。
俺は殴られる瞬間に毒液を女にぶっかける。
しかし女に触れた瞬間毒液は蒸発してしまった。
「私に低レベルな毒は効かないぞ?」
くっそ!!
チート過ぎるだろ!?
俺は殴り飛ばされた勢いでさらに遠くへ逃げようとするがやはり追いつかれてしまい追撃を受ける。
女は遊んでいるようでHPの減りは思ったより少なかった。
俺は考える。
どうやって逃げるか?
この女から逃げなければ死んでしまう。
まだ自分のこともわかってないのに死んでたまるかよ!!
そして俺は閃いた。
女の攻撃を受ける時あえてある方向に飛ばされるように計算した。
そして……
「ちっ! しまった、落としちまった。 まぁいいか。 この下は私でも一人じゃいけないレベルの階層につながっているからな。」
俺は穴を除く女の顔を見上げながら重力に引っ張られて加速していく。
俺は例の縦穴から落ちていった……