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8話


「ゴブリンの調査、ですか?」

 それが、領主と冒険者ギルドからの依頼内容であった。

 依頼達成時に貰える褒賞もDランクとしては破格と言っていいぐらいの金額を提示される。

「そうだ」

 ギルド支部長であるタリスンは苦虫を噛み潰したような顔で。

「ゴブリンが住み着いていたと思われる巣穴を見つけ出し、その周辺を調べて欲しい」

 そして更にこう付け加えた。

「この調査には君の他にも数名の冒険者、そして領主直属の兵士も数名同行する事になる」

 冒険者は分かるが、兵士?


「確か、とある冒険者がゴブリンの討伐を行ったと聞きましたが?」

 道中に出会った行商人から聞いた話である。


「確かにそう言う事にはなっていた。だが、討伐された筈のゴブリンが現われたのが問題なのだよ」

 そう答えたのはエルディスだ。

「追撃に出た兵士によって倒されたゴブリンの中に、その冒険者が倒したと言っていた変異個体が確認されている」

 ゴブリンにも個性があり、まれに上位種が現われる事がある。

 代表的な例では『ゴブリンキング』や『ソーサラーゴブリン』と言った個体の事だ。

 魔族のような存在によって組織化された軍勢なら兎も角、野生の群れでそのような個体が一度に複数現れるような事は考えられない。


 つまり。


「件の冒険者が依頼を遂行していない…と、言う事ですか?」

 もしそれが事実なら大問題である。俺としてもこれは許せない案件だ。

「そう言う事だ」

 頭を抱えるタリスン。


 ギルドがその冒険者に依頼を任せ、討伐して来たとの嘘で報酬を騙し取られ、挙句そのゴブリン共が町を襲いに来た。

 間一髪で防いだものの、一つでも間違えていたら町に多大な被害が発生していた案件だ。現に領主までがこうして出てきている。

 要するに『冒険者ギルド』に対する責任問題が発生しているのだ。


「その冒険者は今どこに?」

 念の為に聞いてみる。

「奴らは報酬を受け取ると直ぐに次の町に向かうと言って出て行った、追わせたが足取りは不明だ」

「各所に通達を出して指名手配するべきじゃないですかそれ!」

 だが、そんな俺の案に異議を唱えたのはタリスンではなくエルディスの方だった。


「普通の冒険者相手ならそれで解決なのだろうが、そう軽々しく出来ない事情があるのだよ」

「事情?」

 エルディスは静かにこう答える。


「その冒険者と言うのが、とある貴族の息の掛かった“勇者候補”なのだよ」


~~~~


(待て待て待て、何やねんその勇者候補)

 思わず頭を抱えた。

 普通、勇者と言えば正義の具現者的な存在である。

 並外れた戦いの才能、熟練の魔法使いに匹敵する魔力、多くの物を惹きつけるカリスマ性、何らかの異能を持って生まれた者達。

 この世界には遥か過去から近代まで数多くの勇者が存在しており、人族と敵対して世界の均衡を崩そうと暗躍する数多くの魔族や邪竜を倒して世界の破壊を阻止してしてきた歴史がある。


 そして今現在、そんな勇者の一列に並ぶ事の出来る可能性を秘めた者が存在していた。

 普通の冒険者や兵士では勝つ事すら難しい高位の魔族とも対等に戦える力を持つ、勇者の素質を持つ者達。

 それが勇者候補と呼ばれる者達である。


 勇者としての力と高潔な精神を持って世界を旅する彼等の功績や勇名が響く中、自らを勇者候補を自称する連中も数多い。

 大半は純粋に憧れとして勇者候補を名乗り、そして本当に勇者として目覚めた者も居る中、勇者の名を自らの欲望の為に利用するヤツも居るのだ。


(まぁ今回のも大方そんなアホな連中なんやろうけど…)

 幾らそれが勇者候補だとしても、罪に問われるような事をしたら普通に捕まる。

 だが、エルディスは『軽々しく処分出来ない』と発言した。


(つまり何とかしようとしても、そいつらに貴族の名を出されたら木っ端レベルでは手も足も出ん訳やな)

 その貴族にとってそいつは相当なお気に入り、もしくは利用価値のある連中という訳だ。


(せやけどこの領主、絶対何か考えとるやろ)

 今回の件、自分が治めている領地に爆発物を投げ込まれたような物である。

 その相手の貴族が何者かは分からないが、エルディスにとっては売られた喧嘩だ。

 調査の結果次第で色々な物が大きく動く事だろう。


(とりあえずクルツは内心憤慨してるようやし、この依頼受けるんやろうな~)

 若さゆえの正義感は嫌いじゃない、こちらは全力でクルツをサポートするだけである。

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