6話
駆け付けた兵士達による掃討戦が始まった頃、ビルケの回復魔法による治療を終えて一休みしていた俺達を兵の一人が呼びに来た。
襲撃時の状況を聞きたいので町の門の横にある守備隊の詰所に来て欲しいとの事。
「それは構わないが、先ずは隊商責任者に無事を伝えたい」
エイスが対応し、要望を伝えると兵は。
「ああ、その方達なら詰所で保護しているので直ぐに会える筈だ」
聞くと隊商一行だけでなく、助けた御者もその詰所に居るらしい。
「分かりました、直ぐに向かいます」
もう少し休んでいたい所ではあるが、こればかりは仕方がない。
兵の先導で詰所に向かう事となった。
「おお!全員無事だったか!」
詰所の入り口で隊商責任者が俺達の無事を喜んでくれる。
「君達のお陰で私も助かった、荷馬車と馬は損失ではあるが…」
笑顔ではあるのだが、どことなく笑顔になりきれていないのは襲撃時に助けた御者だ。
「そこはまぁ、とりあえず命ある事を喜びましょう」
慰めにはならないが、そう言う物である。
「と、いう状況でしたので我々が迎え撃つ事となった訳です」
説明は予想よりも簡素に終わらせる事が出来た。隊商責任者が既に事細かく説明していたらしい。
「お疲れさまでした、貴方達に感謝を」
リスータ守備隊の文官と、そして状況の確認に来た町の偉い人の代理らしき人物が最後に礼を述べる。
町に被害は無く、犠牲になった者も居ないという幸運。
唯一の被害と言えば、助けた御者の馬車一台と馬が一頭のみ。
魔物の群れによる町や村への襲撃と言うものは、たとえどんなに弱い魔物であっても地域にそれなりの被害や犠牲が発生する案件なのだ。
それに比べると一個人の損失は“被害無し”も同等である。
「ああ、それとクルツ君でしたか?町の冒険者ギルドからお呼びがかかっていますよ」
詰所の部屋から退出する際、文官が俺にそう伝えてきた。
「ギルドが?」
俺個人にと言う事は冒険者としての要件だろう。
「そういう事らしいから俺は今からギルドに向かうけど、いいか?」
俺のその問いにエイス達は頷き。
「分かった、隊商の皆には俺から伝えておくよ」
「後で話聞かせてね~」
「では我々は商会の宿舎の方に向かいます、帰ってくる頃には軽く宴会でも始まっているでしょうが」
と、快く送り出してくれた。
詰所を出ると日はすっかりと暮れており、町の通りにある店はランプや光源石を明々と灯して営業を始めていた。
魔物の襲撃があったと言う事で多少ピリピリしている感じもするが、酔っ払いの姿もちらほら見えるぐらいなのでいつも通りの日常が訪れているようである。
俺は途中で見つけた屋台で串焼きを一本買い、食いながら目的地である冒険者ギルドに向かう。
ギルドは基本的にそれなりの大きさの町には必ずあるような施設であり、自分もこの町に来た際に何度か利用した事があるので場所は把握している。
襲撃を防いだと言う事もあるので怒られる様な事は無いだろうが、そこは色々な意味で予想の斜め上を行く事が多々あるので油断は出来ない。
「面倒事じゃ無ければいいんだけどなぁ」
体力もだが、今日は精神的にも疲れているので思考がどうしても嫌な方向へ向かってしまう。
そうこう考えている間に、一軒の宿付きの酒場を改装したような建物の前に辿り着いた。
ここが冒険者ギルド、リスータ支部である。
ああ、早く用事を終わらせて宴会に参加したい。
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(おつかれさまやでクルツ)
クルツに強化魔法を使ったおかげで疲労気味である。
どうも自分が精神体寄りという影響なのか、肉体疲労が無い代わりに精神的な疲労が大きいのだ。
(まさに我が身を削るって感じやしな)
毎回の事だが、魔法を使うと少しだけ自分の容量?が減っている感じがする。
暫くすれば回復するのだが、使いすぎたら確実に危険なような気がしないでもない。
(解決策はクルツが強くなるか、もしくはワシがもっと精進するかどっちかなんやろうけど)
クルツは確実に強くなっているし、冒険者ランクというものをゲーム的なレベルと考えるならこの先も伸びるだろう。
だが自分はどうなんだろうか?
そもそもそう言った意味でのレベルアップとか自分にあるのだろうか?
確かに魔法とかは覚えたが、最初に目覚めて以来、自身の容量が増えたとか言う感覚は無い。
(なんかええ方法ないか、しっかり考えんといかんよなぁ)