4話
次の日の早朝、準備を済ませた俺は指定された倉庫へと向かい、護衛対象である隊商と合流する。
現場では2頭立ての幌馬車3台が停まっており、商会の従業員達が倉庫から出した商品をその荷台に積み込んでいる最中であった。
隊商責任者の元へ向かうと準備にもう少し時間がかかるので休憩場所で待っていてくれとの事。
言われた通りに倉庫横にある休憩場所へ向かう。
そこには今回同行する商会の護衛団三人の姿があった。全員が見知った顔である。
「やぁ、今回も宜しく」
護衛のリーダー格である男が俺に気付き、お互い挨拶を交わす。
今回、行動を共にする護衛団のリーダー『エイス・アーグ』、軽戦士である。
他の二人も同様に挨拶を返してくれた。
一人は痩身の男で『ビルケ・バイス』、癒しの力を行使する神官技能を所持。
一人は小柄な女性で『チャムリ・シェスタ』、炎の術式を得意とする魔法技能所持者だ。
それと後もう一人、戦士が居る筈だが姿が見えない。
各々が冒険者ランクで言うとD、チームでならC相当の力を有しており、この商会の護衛任務で何度も同行した間柄である。
「なるほど、ディエンは養生中か」
隊列や役割の確認をする際、本来ならここに居る筈の護衛団の一員であり、戦士であるディエンの姿が無い理由を聞いた。
先日の護衛任務の時、野営地を襲撃してきたジャイアントフロッグの体当たりを盾で受け止めた際に足を負傷との事。
回復魔法による治療は済ませてはいるが、オーナー命令で今回は休養を取らされた模様。
「俺達護衛の仕事に怪我とかは当たり前の話だが、護衛も冒険者も使い潰しが前提の所が多い昨今では貴重なオーナーだよ」
「ディエンも最近は他の護衛の穴埋めで忙しかったし、丁度いい休暇じゃないですか?」
「オーナーには感謝しかないけどね~」
三人組はそう言って笑う。
そうしている間に商品の積み込みが終わったらしく、隊商責任者から全員集合の合図が掛かった。
「よし、じゃあ今回もしっかり稼ぐとしますか!」
エイスの号令の下、一行はリスータを目指して出発した。
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(リスータに到着するんは明日の夕方ぐらいやな)
馬車の横を歩くと言う事はせず、護衛も馬車に同乗しての旅だ。
隊商責任者が手綱を握る先頭の馬車にリーダーであるエイス、中央の馬車には魔法職であるビルケとチャムリが、そして殿の馬車にクルツである。
(道中キャンプで済ますんはいつもの事やけど)
客や荷物を守る警備兵が居るような大きな高級宿にでも泊まらない限り、全員が同時に休む事はない。
普通の宿に泊まっても数台の馬車を停める事の出来るような場所の確保が難しい場合が多く、例え停める事が出来たとしても積み荷は自分達で守らないといけないからだ。
そもそもリスータまでの道中にそのような宿がある場所は少ない。ならば最初からキャンプで済ますというのが隊商旅の常識である。
(せやけど、安全と思ってキャンプしても安全とは言い切れんのがこの世界の厳しい所やな)
平和なこの王国であっても襲ってくる魔物は存在するし、野盗のような悪人も多い。
勿論そう言った魔物は全力で撃退するし、相手が人間相手であっても襲ってくるのなら手加減する必要は無い。
こちらも命がけな以上、そうする事が普通に許されているのである。
(賞金掛かってるような連中やったら臨時収入なんやけど)
たとえ魔物であっても、種類によっては素材の採取等で得られる物は多い。
だが結局の所、無事に目的地まで辿り付ける事が出来るのならそれに越した事はないのである。
(うん、何事も無く済むのが一番やで)