3話
「内容は隊商護衛で間違いありませんね?」
幾つかの確認を済ませた後、ギルド受付の職員が俺の持つカードに魔法の判子を押した。
これでこの依頼は俺の物となる。
仕事内容は明日の朝、スタートゥの東にある『リスータ』と言う町に向かう商人の護衛。
このような護衛任務は冒険者によく発注される仕事の一つである。
大きな商家ならば長距離輸送の為に自前の護衛団を持つが、欠員や急な仕事で人員が足りない場合に冒険者が穴埋めに入る事が多い。
その一方、護衛団を持たない小さな商家や個人の商売人はどうするのか?それは最初から護衛の冒険者を雇うのである。
勿論、護衛を雇わないと言う選択肢もあるのだが、もしもの時の保険を自ら除外するような商人は大成しないだろう。
冒険者側からすれば、この手の仕事は“余程の事が無い限り”確実に収入を得る事の出来るいい仕事だ。
勿論、商人側と冒険者側双方の信頼関係は必須である。
商人側の金払いが悪ければ誰も依頼を受けてくれないし、仕事をいい加減に済ます様な冒険者は誰も雇わない。
仲介となる冒険者ギルドもそれを踏まえ、信頼出来る依頼主からの仕事を信頼に応える事の出来る冒険者に紹介するのだ。
ギルド側も優良な顧客を逃すような事は(経営的に)出来ないのである。
どちらにしても、受けた仕事は全力で真剣に。
当たり前の事である。
さて、依頼人の所へ挨拶にでも向かおうか。
王都の中央通りから道を2つばかり逸れると、この街の物流を支える運河が見えてくる。
運河を行きかう小船を眺めつつ下流方向へと歩を進め、目指す先は様々な商会の倉庫が立ち並ぶ港湾エリア。その一画に依頼主の営む商会の建物があった。
大きさで言うと中規模クラス、生活の必需品である魔法の力を秘めた“三種の神石”を取り扱う商会の一つである。
建物内に入り、取引や売買で慌ただしく動き回る商人や従業員達の間をすり抜けて受付に向かう。
必要事項を述べると待合室の一つに案内された。席に座り、出された茶を飲みながら待つ事数分。
ノックの後、扉を開けて顔の濃い一人の中年男が入って来ると同時に声を張り上げた。
「ようこそ、レングラム商会へ!今回“も”依頼を引き受けて下さりありがとうございます!」
このやたらと声量の大きい中年男の名は『マシュー・レングラム』。その名が示す通りこの商会のオーナーだ。
俺は席から立ち上がり、彼と握手をする。
「よろしく、今回も任せてくれ」
この商会の依頼を受けるのは今回で実に数回目。
互いに人となりは分かってはいるし、信頼関係もそれなりに構築されていると思う。
惜しむらくは、既に専属の護衛チームを幾つか所有しているので、依頼に際してのご指名が無いと言う事ぐらいか。
俺のそんな小さな悩みを知ってか知らずか、レングラムはにやりと笑い。
「では仕事内容の話に入りましょう!時は金なりですよ!」
と、大きな声で宣言した。
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(相変わらず暑苦しいおっちゃんやな)
クルツの目を通して何度か会っているが、まさに“商売人”って感じの中年である。
身体も大きく声もデカい、なのに態度は低姿勢な所が高ポイント。
だが何より、金払いがいいというのが一番魅力的。
(ワシが女やったら惚れてまう所やで~、主に金の魅力で)
一番最初に仕事を受けた際、彼がどのような人物か気になったクルツが各方面から聞き集めた話だと、実際その手の金持ち狙いな女には常に言い寄られている模様。
だが、愛妻家であるレングラムはそう言った目的で近寄って来る女の誘いを尽く一蹴しているらしい。
(人を見る目も一流って事やな)
知り合いとしては悪くないどころか、超優良と呼べる相手である。
(どうかこのままクルツと良い関係が長く続くよう頼んます)
そう思いながら、この世界の神に願いよ届けと祈りを捧げた。
(今まで見てきた感じ、この世界の祈りには幾つかの作法があるみたいやけど、二礼二拍手一礼でもええんかな?)
何となくそう思ったのは内緒である。