2話
【名称】クルツ・オプファン
【年齢】17
【ランク】E
【主戦闘スタイル】槍
【備考】優良
これが冒険者組合から発行されたカードに書かれている、現在の俺を簡易に示した内容である。
今から一年前、成人の儀に出る為に王都へと向かい、スタートゥ王家の紋章の入った銅の剣と祝い金を貰うとその足で冒険者としての登録を行った。
何故冒険者となったのか?
それは自分が農家の三男と言う事も関係している。
家や農地は主に二人の兄貴達が継ぐ事になっており、例え俺が農家になったとしてもそれらを三人で分けるには心許なかったと言うのが理由だ。
それに。
全然覚えてもいないのだが、どうやら俺は5歳の頃にゴブリンを一匹仕留めたらしい。
その時に負った怪我から回復した後、滅茶苦茶怒られたのだけは覚えてはいるが。
だが、弱いとはいえ魔物を倒したと言う事が自信となり、その時から冒険者の世界を密かに目指していたと言うのは否定しない。
現に今、俺は冒険者をやっているのだから。
さて、そろそろギルド会館に依頼書が張り出される頃だ。
何かいい仕事でもあれば嬉しいのだが。
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(そうなったのは十中八九ワシのせいやな)
クルツが冒険者を目指すと知った時にちょっとだけ反省した。
(だって仕方なかったんや、そうせなクルツは確実に死んでたし、そのクルツに憑りついている?ワシもどうなるか分からんかったし!)
誰に対しての弁明かはこの際置いておく。
あれ以来、自分が表に出るような出来事は殆ど無かったものの、意識はしっかりと目覚め、身体の持ち主であるクルツの感覚や意識が分かるようになった。
しかしそれは一方通行な感じであり、クルツにはこちらの事は全くと知覚されてはいない模様。
だが、彼の思考や感覚にこちらから“こうした方がいいかも”という程度の指向性を持たせる事が出来ると分かったのは凄い収穫である。
そしてそれを利用し、クルツの手の届く範囲だけではあるがこの世界に関する様々な事を学んだ。
(最初のインパクトが強烈すぎたせいで、ここが剣と魔法の異世界だと言う事にはあっさり納得できたけどな)
地域や場所にもよるみたいだが、時代背景や文化レベルは地球で言う中世の中後期から近代初期ぐらい。一部の国では魔法で作られた銃のような物まであるらしいが。
実際、便利な魔法や魔道具という物が普通にある分、当時の地球よりは発展しているかもしれない。
更に最も大きな地球との差異は、人間以外にも獣人、エルフ、ドワーフと言った亜人種と呼ばれる者達から、魔物や魔族、果てはドラゴンまで実在すると言う事である。
つまり、これが“ロクシア”と呼ばれる世界の姿であった。
そしてクルツ(自分)の今居る場所は、ユグレスと言う名の大陸の東端に位置する『スタートゥ王国』、冒険者の聖地として名高い国である。
(しかし、あれからもう十年以上経つんやなぁ)
何となく感慨に浸る。
日々の生活の喜怒哀楽や、村に立ち寄った冒険者の戦士に剣の振り方を習ったりした事。
畑を荒らす動物や魔物を狩ったりした事もあった。
魔法の才能が無い癖に、眼帯を装着し腕に包帯を巻いて魔導関連の書籍を漁り始めた時なんか過去の自分を見ているようで非常にモヤモヤした事もあったが。
(せやけどそのおかげか、クルツやなくて自分の方に魔法の才能があるのが分かったけどな)
表に出る事が出来ないので派手な攻撃魔法の使用は無理ではあるが、様々な場面でこっそりとクルツに支援魔法を付与したりしている。
そして何時だったか、何かの書物で見た今の自分を表す様な現象。
どうやらその書物の内容によると、今の自分はクルツにとって“精霊”のようなモノらしい。
(少なくとも幽霊と呼ばれるような魔物や無い事だけは分かって良かったわ)
流石に十年以上もこうやって過ごしているので今更どうこうしようとは思わない。
一個の精霊として、クルツに付き合うだけである。
ちなみに、あれから歳を取った感覚とかは全然無いのでそういうモノなのだと思っている。
後、関西風丸出しで自分の事をおっちゃんとかワシとか言っているが、実際の所は性別も曖昧だ。
て言うか、精霊に性別ってあるんかな?
とりあえずは今のまま“おっちゃん”感覚を通そうと思う。