第1章『コクト・パイロット・サヤ視点』-8
「そーか、そーか。安心なさい。アイツは口が悪いだけで性根はイイ奴だから」
「そ、そうなんですか……」
せっかくだから、ついでに訊いちゃえ。
「こっ、コユキ隊長はどんな人なんですか?」
カノコが急に遠い目をする。なんだか不安になる反応だ……。
「コユキは…………あのまま、かしら」
「へ?」
「頼りになって責任感が強くて。まー、アタシは個人的に付き合いが長いから色々と知ってることもあるけど。ここでバラしたらコユキの奴、怒りそうだしなー」
……ん? 今、なんと言った?
――個人的に付き合いが長い……。
付き合い……すなわち「お付き合い」……か? この女、今そんなことを口走ったのか、オイこら。
「あああ、あのっ! カノコと隊長は……その、お付き合いってゆーか……こっ恋人なんですかっ?」
簡単な質問。カノコ沈黙。……はよ言わんかい。
「あっ」
なに? 答えはどーした! 「あっ」じゃ分からん!
こちらの気持ちをよそに、カノコの目が点になり、そして。
「あっはっはっ! 違う違う!」
なぜか笑われた。
「付き合いって、それは軍人としての意味よ。一緒に戦ってきた仲間としての付き合い。戦友ってヤツね。恋人なんかじゃないって! そうか、そういう勘違いをしたのか!」
か、勘違い……。私の早とちりかーっ。
カノコが目を細めてニンマリと笑う。
「サヤ、惚れたわね? コユキに」
「うぐーっ」
「隠すな、隠すな」
ペシペシと無邪気に肩を叩かれる。はっ、恥ずかしーっ!
「そうねえ、アドバイスをするとしたら……。コユキは香水の匂いが嫌いなの。あーゆーキツイ匂いが苦手みたいね。それより、シンプルな石鹸とかシャンプーの香りが好きみたいよ」
「ほ、ほほお……」
「あと、めん類が好物だから。料理で餌づけして、そこからくどき落とすのも難しいかな。ありがちな家庭料理じゃビクともしないわ」
妙にリアルなデータだなー……。いや、そもそも料理も家事もダメな私には最初から不可能な戦法だ……。
「……あとは……」
カノコが櫛を片手に「むー」と考え込む。
「……悩んでいても周りに相談せず一人で抱え込むタイプ。撃墜するとしたら、そこが狙い目ね」
「スナイパーとしての……狙い目ですか?」
「あはは、そうかも。精神的に彼の支えになれるかどうかがポイントね。だってコユキは女の子に優しいし、他の部隊の子にも人気あるのよ」
「はっ……初耳ですよ! そーなんですか!」
「なんたってマジメで、酒もタバコもオンナ遊びもナシ。ライバル多いからハッキリ言って難易度……高いわよ」
「うわあー勝率、低そうですねー……」
「諦めちゃダメでしょ。同じチームだから一緒にいる時間は多いだろうし、もし二人きりになるチャンスがあったら積極的に攻めていかないと」
「その積極的アタックができなくて困ってるんですよお。隊長の前だと緊張しちゃって普通におしゃべりするのも大苦戦なんです」
「それは自分でなんとかしなさい。そこまでアタシは面倒なんて見る気ないし」
確かにその通りなんだけど……。今日どーしよ……。
「はい。寝癖、直ったわよー」
落ち込む肩をポンっと叩かれ、うつむきがちだった顔を上げる。あれだけ頑固だった寝癖が綺麗にセットされている。
「あ、ありがとうございますっ」
「もっと胸を張りなさい。アンタの笑顔はかなり破壊力あるわよ。不安も絶望もはね返すくらい魅力的かも。もしかしたらコユキを落とせるくらい強力だったり……いや、さすがに言い過ぎか」
カノコなりの励ましなのかな?
私は言葉通り、できるかぎりの笑顔を浮かべて彼女を振り返った。
この笑顔をあの人に届けるために。
「……ウィッシュ訓練、行ってきます!」