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第1章『コクト・パイロット・サヤ視点』-5

 十一月二日。

 早朝六時。ぼやけた頭を引きずって身支度みじたくをはじめる。

 昨日、泣きすぎたせいでやや目がれぼったい。こんな顔で隊長に会うのかあ……。

「これは、ちょっとなー……」

 こんなことなら、きちんと冷やしておけばよかった。後悔先に立たずってトコかなー。

 などと思いつつ鏡とにらみ合って寝癖を退治する。いつになくこの黒い髪の毛は言うことを聞いてくれない。おのれー。

 部屋には軍から支給された味気ないカレンダーが張られている。私は先月でようやく十五になった。

 ここに来てまだ一週間。

 つい昨日体験した……はじめての戦闘。

 それまではずっと訓練学校でトレーニングをしてきたけど、学校と実戦はまるで違った。

 まるっきり別世界。まさか……あそこまで自分が役立たずだとは予想してなかった。我ながら情けない……。

 ここは私を含め、すべての兵士が生活している本部。通称『ベース』と呼ばれている。

 兵士たちにはそれぞれ個室が与えられており、食事の面でも困らないように食堂などの施設も充実している。さらには実戦データを基に更新される訓練シミュレーター。チーム別の作戦会議室などもある。

 当然、ベースで暮らしているのは戦場で戦う兵士だけではない。他にもウィッシュの整備を行う整備兵。怪我人を治療する医療兵。

 そして機体の武器などを改良、開発するための開発部など。

 ――ここには多くの人々が生活している。

「寝癖が直らないよう……」

 狭いとはいえ一人部屋。多少の自由は認められる。そんな私のベッドの側には小さながくに収まっている写真立てがひとつ。写真には…………コユキ隊長の横顔が写っている。

 盗撮ではない。ましてや私が撮ったわけでもない。自分でやろうとすると緊張して失敗する危険性があったので、訓練学校時代からの友人、マリナに頼んで撮影してもらった。

 その友人はこのベースで整備兵をしているのだが……。実はこの写真は隊長とトウケン、カノコが食堂でご飯を食べている時に撮ったものである。本当は彼の写真が手に入ればそれで良かったのだが、意外とチャンスが少なく……堂々と正面から撮る勇気もなく……。

 この一枚を撮った時も、私がおとりになって隊長に声をかけ、彼が振り向いたところをマリナにコッソリ撮影してもらったのだ。

 アレ、これって盗み撮りって言うのかな? ま、いーや。

 つまり写真には本来トウケンとカノコも写っていたのだが、邪魔なのでいらない部分はバッサリと切り捨てた。そして残ったコユキ隊長の横顔が今も写真立ての中に収まっている。

 ちなみにこの時、コユキ隊長はタマゴたっぷりカルボナーラを食べていた。パスタ系、好きなのかな……。

 だから、その、えー……。

 ……結論から言うとね、一目惚れだったわけですよ。不覚にも。

 むー……。改めて冷静に考えると、かなり恥ずかしいな……。

 訓練学校を無事に卒業して、はじめてこのベースに案内され、部隊ナンバー・ダブルオーに配属されたあの日。最初に会ったのがコユキ隊長だった。全員が同じ制服を着ているのに、彼が着ているとなぜか凛々しく素敵に見えた。

 整った顔立ちも、少し長めのあおい髪も、優しい声も、スラリとした長身も、軍人とは思えない綺麗な指も。

 なにもかも、すべてに惹かれた。あの時の言葉を今も鮮明に覚えている。

『……俺が隊長のコユキだ。この戦争を終わらせて、共に生き残ろう』

 ――生き残る、共に。

 あの日、あの言葉が私にとっての目標になった。

「とわぃちょおおおーっ」

 溢れる愛情で写真立てを抱き締める。ついでに頬ずりまでしちゃえ。だって直接コユキ隊長に抱きつくなんて出来ないし。昨日は勢い余って飛びついちゃったけど……。あんなマネもう二度と無理だと思う。

<サヤ、俺だ。起きてるか?>

「ぐっふおーっ」

 突然、彼のタンポポ出現に動揺しまくって写真立てを落としてしまった。すかさず拾って背中に隠す。

<大丈夫か?>

「い、一応……。それより女の子の部屋にいきなり通信してくるのって反則ですよー!」

<……ん、そうだな。すまん>


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