終章『干渉者の結論』
気絶していたサヤは先に医務室に運び込まれた。
ベースに戻ってきてから俺も医療兵に囲まれたが、すべて遠慮した。まだつま先が潰れっぱなしで痛むが、この程度の傷ならランスに戻ればすぐに再生できる。
とりあえず痛み止めで苦痛をごまかし、カノコに肩を借りてサヤがいる部屋に向かう。
彼女はただ気絶しているだけで、これといった外傷はなかった。
「さっきメグ司令に確認したわ。トウケンのデータは削除。この世界で本人が死亡した今、彼の存在は完全に消滅……」
「そうか……」
何か言おうと言葉を探すが、カノコは答えを否定するように首を振った。
なぐさめも必要ないか……。強いな、カノコは。
二人で、サヤが眠っている個室に入る。俺は立っている事ができないので、サヤのベッドに腰かけた。
「コユキ。言わなくても分かっていると思うけど、あなたはランスの人間。サヤは第八世界の人間よ。つらいでしょうけど、別れの言葉……考えておきなさい」
眠っているサヤの髪を優しく撫でて。
「イスケは先に帰還したそうだから、アタシもランスへ戻るわね」
パズルのピースが砕け散るように、カノコの姿が光に包まれ世界から消えた。
――ほどなくして、サヤが目を覚ました。
「あ……隊長……」
もうこの星に長くいる事はできない……。
「すまない、サヤ。お別れだ」
「んなっ、どーしてですかーっ! ブリーズはいなくなって世界は平和になったんですよお。それなのに!」
サヤはガバッと起き上がり、こちらに詰め寄った。
「俺は別の任務があるんだ。だから行かなくちゃいけない」
「そんな……でも、またどこかで会えますよね?」
この世界にはもう干渉できない。静かに首を振る。
「会えない。もう、絶対に」
「いやですっ」
すがりつくサヤ。
こうなることは分かっていたのに。つくづく自分が情けない。
必要なのは別れの言葉。
必要なのは言葉の力。
――チカラ。戦力?
ふと、思いつく。
彼女の戦闘センスはアイツにも負けていなかった。ならば……。
「サヤがそこまで言うのなら仕方ない」
俺からの告白。
「……ランスには俺から説明しよう。信頼できる新人隊員なら大歓迎だ。ただし、俺の傍を片時も離れるなよ。空間移動は危険だからな」
「はいっ、片時も離れませんっ」
しっかりと抱きつくサヤ。
「もう一生、ずっとずっと一緒です。コユキの傍に……いさせてください!」
「えっ?」
サヤからの告白。
何か壮絶な勘違いをしていないか、この子は? 俺は干渉組織ランスへの勧誘をしただけで……。これはスカウトなわけで……。
つまり、そのー。
…………一撃必殺、告白返し。しかも勘違いって、おい……。
「私じゃ……ダメですか?」
潤んだ瞳が至近距離で突き刺さる。
俺に選択肢は……必要ない。
サヤを強く抱き締める。
――そして。
「サヤ…………生きよう、共に」
「はいっ」
二人の姿が世界から消える。
任務完了。これより帰還する。
さらに戦う者たち END




