第9章『干渉者・コユキ視点』-2
<刻まれろやあああーッ!>
『ケンパク』が接近。
<ランスのデータは削除済みだ。オマエは安心してこの世界と一緒に滅びろォォォーッ>
刀が振り下ろされる。
ここはトウケンの間合い。無策で近づくのは死を意味する。だがここで下がれば追撃され結果は同じ。
「ならば!」
引けない。接近されたこの距離で引くわけにはいかない。
サヤが俺の意思を読み取ったように、絶妙のコントロールで機体を操り、初撃を回避。
二体のウィッシュがほとんど密着した状態で同時に動く。
今さらナイフなど、武器を出している余裕はない。
トウケンの強さは二刀ワンセットの連続攻撃にある。まったく隙のない連撃。
右手が振り下ろされれば、次は左がくる。サヤはそのわずかな動作を見切り、追撃がくる前に高く脚を振り上げた。迫っていた相手の左腕が蹴り上げられ、手から刀が落ちる。
まだ止まれない。お互いに次の一手を予測しながら動いている。
脚を振りきり、こちらの両脚が地面に着く直前、トウケンは下からすくい上げるかたちで刀を一閃。さらに二閃。『コクト』の右腕、左腕を斬り落とした。
こちらは武器もなく、今、両腕を斬り落とされ。
<とどめだあああァァァーッ!>
<甘いわね、トウケン>
声。
そして銃弾が走る。
ライフルの一撃が、刀を持っていた右腕を肩からもぎ取った。
<カノコ、テメエェェェーッ>
のけぞりながら、生きている左腕で落ちていたフウセツを拾うトウケン。刀を逆手で持ち、突き刺す要領でこちらに接近。
カノコが無事だったことを喜んでいる暇もない。
サヤが足下のフットペダルを踏み込む。
「だしゃあああーっ」
まともに作動するのは脚だけ。
ゼロ距離からの膝蹴り。
お互いに回避しない。
膝が『ケンパク』に直撃。仰向けに倒れていく。
しかし倒れながらも、トウケンは刀をこちらに突き刺してきた。機体を貫通する一撃。わずかに上半身を逸れ、『コクト』の肩に刀が食い込む。
俺は叫んだ。
「サヤ!」
「はいっ」
二人でレバーを握り、機体の全体重を目の前の目標に乗せる。『コクト』の脚が容赦なくトウケンの操縦席を…………押し潰した。
ドンッという重量感。『ケンパク』が大地に倒れる。
俺たちの機体は、『ケンパク』の胸部に脚をめり込ませたまま、沈黙した。
潰れたコックピット。
それっきり。
『ケンパク』は動かない。もう二度と、動かない。
サヤが短く息を吐き、俺に身体を預けてきた。全身から緊張が抜け落ち、力が入っていない。
限界を超えたのか、どうやら気を失ってしまったらしい。
「カノコ、生きてるか?」
<勝手に処分しないでよ。ちょっと焦ったけどね>
「そうか……良かった……」
司令塔を失ったブリーズは完全に機能していない。ブレインを無くして沈黙している。
今回の干渉時間を考えれば、ランスもペインも二度と世界に干渉はできないだろう。そうなればこの星に危機は存在しない。
安心しきったサヤの横顔が傍にある。
緊張を解いて、ようやく俺も長く長く息を吐いた。
――ひとつの終わりが訪れた。
目を閉じ、世界を越え、意識をあちら側につなぐ。
「……第八世界からランスへ。バッドエンドは回避された。繰り返す、バッドエンドは回避された」




