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第7章『セイバーン・パイロット・コユキ視点』-1

 第八世界への干渉まで、あと四十二、五十……五十七秒。

 干渉…………成功。

 これより第八世界に干渉する。

 システムによる情報データの書き換え、完了。

 十一月一日。

 ベースの自室に着地。

 あまりの疲労ひろうかんに立っていられず、床に片膝かたひざをついた。

 普通に呼吸をすることすら苦しい。あやうく干渉に失敗するところだった。ギリギリ一分いっぷん以内に、なんとか侵入に成功。

<コユキ、状況は?>

 イスケのタンポポが咲いた。顔色は最悪だ。

「……かろうじて生きてる」

 お互いの生存を確認して通信を切った。

 あの二人は無事だろうか……。

 普段ならたやすくできる作業にも、意識の集中を必要とする。タンポポをつなぐ事すらもどかしい。

「カノコ、聞こえるか?」

 反応はすぐに返ってきた。

<声を聞けてひと安心だわ。そっちも無事みたいね。アタシは結構ヤバかった。トウケンはどう?>

「これから確認する。俺のほうも相当そうとうキツかった。こんな所で狭間はざまに落ちたくないからな。さすがにあせったよ」

 誰もいない自分の部屋。ベッドの上に腰をおろす。

 改めてトウケンに通信を接続。

 しばらく待ってみたが、返事がない。

 近くに浮かぶカノコの映像。表情が瞬時に青ざめた。

<まさか……トウケンのやつ……>

「可能性はあり得る。……最悪の場合、今回は俺たち三人でなんとかするしかない。空間の狭間はざまに落ちたら最後だ。救出する方法もない」

 カノコが両手で顔をおおった。

<なんてこと……>

 干渉の失敗。やはり危険すぎたのか……。

 これが最後のチャンスなのは間違いない。それなのに三人で世界を相手にするなんて。いったい、どうすれば……。

<ちょっと、いーかい。お二人さァん>

 聞き慣れた声にハッとする。

「トウケン!」

<もーっ、心配させないでよ!>

 タンポポに映るトウケンの苦笑。

<すまねえ、干渉に時間がかかった。さっき到着したトコだ>

「生きているならそれでいい。動けるか?」

<いや、ちょっと時間をくれ。会議室だろ? 少し休んでから行く>

 生存せいぞんの確認を終えて、すべてのタンポポが消える。

 すでに皆、満身まんしん創痍そういだ。……俺もふくめて。

 ――たとえこの世界で死亡してもランスに戻れば肉体の蘇生そせいは可能だ。記憶がカギとなりランスに保管されているデータベースで、肉体データをロードすれば復活できる。

 世界にとって異物いぶつである俺たち干渉者の存在は、死亡と同時にはじき出され、記憶データのみがランスに強制送還そうかんされる。つまり死ぬたびに、同じ本人データの新しい身体からだ提供ていきょうされるわけだ。

 ただし狭間に落ちた場合は記憶の回収が不可能となり、肉体データがランスに残っていても再生ができない。記憶データが無いためだ。

 通常は、べつ世界でいくら死を経験しても再生は可能である。

 問題は心だ。記憶を引きぐ以上、心に痛みが蓄積ちくせきされる。

 まさに俺たちは、絶望の繰り返しで精神的に追い込まれていた。ペインの正体も、人数も不明。さらにあの十一月七日を、どうあがいても乗り越えることができない。

 コンディションは最低。

 それでもこの世界を救わねばならない。俺たちの手で。

「答えは闇の中……か」

 ――答え。

 不意ふいにこぼれ落ちた答え。水滴が手の平に落ちるように。

 無意識に近い。事実と結果。自然とたどりいてしまった結論。

 自分の感情の外側で、明確な判断がくだされた。

 ひらめきではない。容赦ようしゃない現実が正解を叫んでいる。

「これが答え、なのか……」

 俺はもう一度、この七日間の出来事を記憶から引きずり出した。

 他の可能性は見えてこない。

 答えは同じ。

 タンポポをつなぐ。

「イスケ」

 反応は思いのほか、早かった。

「通信妨害ぼうがい装置を造れるか?」

<タンポポ用かい? それともウィッシュ用の……>

「すべてだ。効果範囲はしょう規模きぼでいい。あらゆる電波を遮断しゃだんできるようなジャミング装置を造ってほしい。できるか?」

<可能だよ。ボクの得意分野だ>

「頼む」

 自室を出る前に携帯用の小型ナイフを制服の胸ポケットにしのばせた。

 戦場において、ナイフの使い道はひとつしかない。

 サヤを救う。たとえ何が相手であろうと。


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