第1章『コクト・パイロット・サヤ視点』-4
レーダーに敵機の反応はない。銃撃の音もない。コユキ隊長の声がなんだか遠くから聞こえてくる。
<どーした、新人?>
<そっとしておいてあげなさい。はじめての戦闘は誰だってこうなるわよ>
トウケンとカノコの声。
でも受け答えするための気力が湧かない。しだいに全身から力が抜け落ちる。近づくウィッシュの足音。コユキ隊長だ。
<ちょっと待ってろよ>
脱力した私を案じてか、こちらの機体に密着して『セイバーン』から出てきた隊長が手動で『コクト』の胸部にある操縦席をオープン。密室となっていた操縦席が開放され、冷たい冬の空気と光が差し込んできた。
戦場で繰り返し聞いたあの声が。
「サヤ?」
太陽の輝きを背にして、彼の穏やかな声が私を呼ぶ。
「サヤ……。大丈夫か? 意識は……ちゃんとあるみたいだな」
「た、あー……」
コユキ隊長の顔を見た途端、今までの緊張と不安があっけなく崩れていった。
「たいちょおおおーっ!」
安心感を求めてしまったのか、そのまま彼に抱きつきボロボロと泣いてしまった。それまでこらえていた涙が溢れると今度は止められず、しがみついたまま泣き声をあげ続けた。そんな私を隊長はしっかりと抱いて「よしよし」と頭を撫でてくれる。
そんな時、タンポポが反応して出現。
<……こちらオーファイブ。六ブロック、ブリーズを殲滅>
<……こちらオーナイン。八ブロック、ブリーズを殲滅>
「了解した。こちらダブルオー。……七ブロック、ブリーズを殲滅。……あー、すまない。先にベースへ帰還してくれ」
コユキ隊長が困った顔で、他の部隊の隊長に告げた。
「この子が泣きやんだら我々も帰還する。全員、無事だ。問題ない」
<オーファイブ、了解>
<オーナイン、了解。……それと>
見ればタンポポには、人の良さそうな中年の男性が映っており、オーナインの隊長さんが笑顔でこう言った。
<よくぞ生き残った。期待の新兵に幸運を>