第6章『ベース開発部・イスケ視点』-5
十一月七日。
巨大ブースターによるブリーズの追い込み。
具現化と同時に放たれる『セイバーン』の超大型ミサイル・キリサメ五式が、戦場に大爆発を起こす。消し飛ぶ敵機の群れ。
すべては不思議なほど順調に進んでいた。
しかし、これで終わらないのは予測済み。
<さあ、来いよ。とっておきのプレゼントをぶち込んでやらァ>
サーモグラフィーに反応。……来た。
大量の風を抱いて。
空を支配するウィッシュ……『コウキ』が具現化をはじめる。
トウケンは慌てることなく大型ライフルをセット。カノコの指示でターゲットへの微調整をすみやかに完了する。いつもケンカしているあの二人とは思えない見事な連携。
あの時と同じタイミングで、銀色の機体が空を覆った。完全に実体化している。
ツララ・ゼロ式……その銃口が天を捉える。
行動は可能なかぎりシンプルに。
冷静に照準を合わせ、トリガーに指をかける。
目標とつながるイメージ。
カノコが、動いた。
<砕けなさい>
高く高く一発の弾丸が空を走る。
『コウキ』の装甲に目がけ。
その一発が直撃する。
<落ちろッ! ……って、オイッ!>
トウケンのリアクションは正しかった。予想外の現実にボク自身が動揺している。
弾丸が機体に当たる直前、見えない存在がそれを弾いた。
<あれは、障壁か……?>
コユキのつぶやき。相手はどうやらバリア・フィールドを展開している。弾丸に耐性のある壁らしく、まるで効果が無い。
完璧にこちらの手の内がばれている。
ライフル攻撃の情報がペインに流れていたのだろう。またもや先手を打たれた。
障壁が揺らぎ、小さな、極めて小さなヒビが広がる。
<……次弾、装填完了。トウケン、そっちにデータ送ったから調整よろしく。もう一発いくわよ>
<お、おうッ。了解ッ>
冷静なスナイパーの一撃。
<散りなさい>
解き放たれた二射目は真っすぐに伸び、障壁にあったわずか数ミリのヒビを抉り。
<障壁を、貫通…………しやがったッ!>
はじめは小さな亀裂だったヒビが障壁の全体に広がり、音を立てて崩れ落ちた。
障壁を砕いた弾丸は、そのまま『コウキ』に直撃。
だが敵機は、ほとんど無傷だった。装甲に小さな弾痕が残っただけ。あのツララ・ゼロ式を受けて、この程度のダメージなんて……かなりの強度だ。
<もっと破壊力のある攻撃じゃないと……落とせないのか?>
『セイバーン』が『コウキ』に接近して銃撃を浴びせるが、まるでダメージが無い。
<サヤ、聞こえる?>
<は、はひっ>
<トウケンのフウセツ六式を取って。一本でいいわ。あとは……あの銀色に向かって全力でぶん投げなさい!>
<りょ、了解でっす!>
大型ライフルを固定しているため動けない『ケンパク』から刀を借り、『コクト』が空に向かってフウセツ六式をめいっぱい投げた。
<うにゃあああーっ!>
一本の刀が天に吸い込まれ、敵機に近づく。
刀の柄はせいぜい十センチ。しかも空に目がけて動いている物体を、彼女は狙い撃つつもりなのか……。わずかでも角度がずれたら確実に外れる。
『クレナイ』がツララ・ゼロ式を構え直す。
<これで……終わりなさい>
発射された弾丸。空を駆ける一発の弾丸が、奇跡としか思えない角度で刀の柄を正確に捉えた。
弾丸によって勢いを得たフウセツ六式が、障壁を失った敵機に突き刺さる。
同時に『コウキ』が、あの光を内部に発生させた。




