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第6章『ベース開発部・イスケ視点』-2

 第八世界への干渉まで、あと……三十五……四十、四十八秒。

 なんとか干渉、成功。

 十一月一日。

 意識が自分の身体からだとつながる感覚。

 ふわりと世界に落下するイメージ。

 重力が全身にまとわりつき、五感が明確に機能する。指を動かし、自分がここにいることを認識。目をける。

 これまでと同じ世界。同じ部屋。

 不意ふいにタンポポが咲いた。

<イスケ、先に会議室で待ってるぞ>

 コユキの、わずかにやつれた声。

「ところで、コユキは干渉まで何秒かかった?」

 コユキとタンポポをつないだまま自室を出る。

 あのメンバーと合流するため、会議室へ向かった。部屋に引きこもっていたい気分ではない。

 数秒のがあった。質問にたいして、コユキからの返事はない。それが答えらしい。

「ボクだけじゃなかったか。そろそろこの世界に干渉するのも……危険な頃合ころあいだよね」

 タンポポにうつるコユキの顔は、納得できない事実をどう受け入れるか、迷っているように見えた。

 このランスの干渉システムは万能ばんのうではない。どの星に干渉する場合でも時間の制限が存在する。ボクたちはそれを「干渉時間」と呼んでいる。

 ――干渉時間は、最大でも一分いっぷんが限界だ。

 わずか一分いっぷん

 それ以上世界への侵入に時間をようすると、目的地に着く前に空間の狭間はざまに取り残されるおそれが出てくる。本来、人間は世界を行きすることなんて出来ない。その常識、ルールをねじ曲げているのだから、どこかに無理が出るのは当然の結果だ。

 この世には膨大ぼうだいな種類の世界があり、「世界」と『世界』のあいだをへだてる形で空間の狭間がある。世界にとってボクたちは、その狭間をつらぬいて星の内部へと侵入する異物いぶつなのだ。

 干渉する星によっては、その異物を拒絶きょぜつし、一切いっさいの干渉を許さない世界すら存在する。

 そして、もし狭間に落ちてしまえば最後、脱出はおろか帰還きかんすることもできずに、果てしない空間のどこかでちていくのみ。

 狭間に落ちるわけにはいかない。

 コユキの疲労ひろうも仕方がない。もうチャンスがないのだ。

 ――会議室に向かう途中、ふと思い出す。

 仲間の一人である、トウケンと出会った時のことを。

 今のメンバーの中で、彼は最後にランスに参加した後輩にあたる。なぜなら、彼をスカウトしたのは……ボクだ。

 場所はこの第八世界。

 今から二年前。星歴二八〇年のことだ。

 トウケンはもともと軍隊に所属している兵士だった。

 その頃はまだブリーズが発生してもない頃で、連中も現在のようなウィッシュの形状をしていなかった。

 まだ世界が大きくゆがむ前、ランスによる軍事干渉が起きる。

 もともと第八世界にウィッシュという人型兵器は存在しなかった。そこまで文明が発達していなかったのだ。

 ボクたちはブリーズがより危険な敵となる歴史を知り、軍内部に侵入。人型兵器の開発を決行。同時にテストパイロットを募集していた。

 ウィッシュとは本来「希望」を意味する。だからこそこの機体には「平和への願い」が込められ、この名が付けられた。

 彼はすぐにウィッシュのテストパイロットに志願しがんし、戦闘訓練を受けた。その時の教官がコユキだ。すでにランスとして活動していたコユキの能力は圧倒的だった。素人しろうとのトウケンでは到底とうてい足下にもおよばないレベルの存在だったのだ。

 きっとくやしかったのだろう。彼は毎日のように訓練に明け暮れ、ウィッシュの操縦技術をみがいた。

 いつも大事そうに、家族の写真を制服の胸ポケットに入れて。

 よっぽど恥ずかしいのか、絶対に家族写真を見せてくれなかったが……。

「世界が滅ぶとしたら、どうする?」

 訓練を終えたある時、ボクはトウケンにいてみた。

「滅ぶって……どうやって?」

「敵が現れて、一方的いっぽうてきにすべてを奪われる。もし世界がそうなるとしたら、トウケンはどうする?」

「んなもん決まってらァ。敵をぶっ潰す」

 あまりに簡単な答えだったので、つい派手はでに笑ってしまった。

「分かりやすいねー。ウィッシュの戦闘センスも良い。……もしもきみが世界にケンカを売ってもいいと覚悟を決めるなら……歴史を変えてみないか? 自分の力で」

 人生が変わった瞬間。

 それからトウケンはランスの一員いちいんとなり、コユキの相棒、カノコとも出会った。

 いくつもの世界、他の世界へと干渉し、共に戦い、世界の絶望を否定してきた。

 ――第八世界。開発部の軍事干渉から二年後。

 星歴せいれき二八二年。世界は、絶望する。

 ――再び、ボクたちは第八世界にやってきた。

 この世界の歴史を否定するために。


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