第5章『クレナイ・パイロット・カノコ視点』-6
十一月六日。
本日の深夜ブリーズが発生し、数時間後の七日に……サヤが死亡する。
「とりあえず……準備は完了ね」
「すでに他の部隊にも説明してある。まさか、あれほど巨大なエンジン・ブースターに頼ることになるとはな……」
開発部からハンガーに移動された物をコユキと見上げる。本来はウィッシュのエンジンであり、機体を加速させるためのブースターだ。
急ごしらえのため、剥き出しのブースターに、牽引できるようロープが付属している。
「相手が風である以上、具現化する前に集めてしまえばいいって思ったんだけど……本番前はさすがに緊張するわね」
「やる価値はあるさ。なんと言っても俺たちはブリーズの発生ポイントを知っている。歴史が繰り返されるなら、奴らも似たような場所から発生するはずだ。そこを、この巨大ブースターで風を起こし掻き集める。発生ポイントに先回りして、すべての部隊を利用して周辺地域のブリーズを可能なかぎり一箇所に集約。風からウィッシュに具現化した直後を一気に叩く」
もうひとつ注文していた兵器。
その名も『超大型ミサイル・キリサメ五式』。
いつもコユキが搭乗しているウィッシュ空戦型。
そのヘリにこの特大ミサイルを装備して、一撃必殺の広範囲爆撃をしよう、という作戦だ。
これならばサヤを監禁する必要なく、大量のブリーズを一網打尽。無事にサヤも生き残り、歴史が変化すると期待したのだ。
「ごめんね、コユキ。あんな危険なミサイルの扱い任せちゃって」
「心配ないさ。もしオレが吹き飛んでも、ランスに戻って肉体データを再構築してもらえばいい。この世界での死は完全な死ではない」
戦闘服姿のコユキが不敵に笑う。
「そういう意味じゃなくて。サヤのことよ。もし世界が平和になった時、コユキがいなかったら、あの子……」
「あー……、いいんだ。この世界が平和になって、サヤが生き続けてくれれば。第八世界での俺の死には……意味がある」
「ひどい男ね、サヤがどれだけ悲しむことか」
「そんなこと言われてもな……」
「だから……なんとしても作戦を成功させて、生き残るわよ。みんなでね」
ポンっと彼の背中を叩く。
不安なのは、みんなも同じだ。でも信頼できる仲間がいれば……その不安を少しでも小さく減らすことができる。
「……そうだな、全力を尽くす。そして……生き残ろう」
「うん、その意気ね。よしよし」
アタシより背の高いコユキの頭を、背伸びして撫でてあげる。
再び子供扱いされたのが不満なのか、彼は少しだけ眉間にシワを寄せた。予想通りの困った顔がちょっとカワイイ。




