第4章『コクト・パイロット・サヤ視点』-8
だからこそ、この絶望の渦中でも私は笑顔で答えてしまった。
「やっちゃって、いーんですね!」
<ああ、好きなだけ行っとけ!>
隊長から許可が出た。
私はツナミ七式を二丁とも機体の腰に固定して、前方から接近してきた敵機めがけて跳躍した。ヒザ蹴りで相手の頭部を破壊。飛びついた衝撃を利用してブリーズを押し倒し七式を一丁だけ抜いて首の付け根に、ありったけ銃弾を撃ち込む。
爆発より速く行動。
次の獲物は……。
左右から同時に接近してくる敵機。
<サヤっ、三時から叩け!>
反応する身体。迷いは無い。右から来ていた敵機に大きく一歩、踏み込む。肩からナイフを抜いて、逆手に持ったまま、下から上に斬り上げた。
ブリーズがツナミ七式を撃ってきたが当たる気がしない。いや、絶対、私には当たらない。確信の動き。
相手の銃口は、私のナイフに弾かれ機体の枠外に逸れた。ムダ弾にかまう理由はない。後方では『セイバーン』の放つ機銃、ライウ四式が空中から降り注ぐ。背後で爆発音。ほぼ同じタイミングで、こちらも撃破。敵機の操縦席をえぐり、首を斬り落としてやった。
――次。
獲物には困らない。
別のブリーズに背後を取られていた。が、関係ない。
その敵機に狙いを定めた時、自身も狙われている感覚。一条の弾丸。狙撃。
肩の位置をずらしてかわす。注意が背後から逸れた。後ろにいたブリーズが回り込みながら至近距離で射撃。銃弾が、こちらのウィッシュの胸部装甲を破壊し操縦席を揺らす。
敵のスナイパーが邪魔だった。
予想しづらい角度から撃ち込んでくる。
集中がわずかにぶれる。
なおも七式を乱射する敵機。機体を傾けて回避しようとした時、別の方向から、さらに一発の弾丸が視界に飛び込んできた。
「ひっ……?」
世界が揺れた。視界が揺れた。地震かと錯覚するほどの、激震。
空からの援護射撃。私の近くにいたブリーズが吹き飛び四散する。
そして、気がつく。
呼吸ができなかった。
自分の腹部にじんわり広がる痛み。胸の奥から込み上げてくるものを堪えきれず、吐き出した。赤い赤い、紛れもない、血液。
<サヤ! 下がれ! すぐにベースで治療すれば助かる!>
<新人ッ! オレが盾になる! はやく撤退しろ!>
操作レバーを握っている指に力が入らない。再び吐血。ようやく自分の身に起きた出来事を理解した。私は何者かに狙撃されたんだ。……敵に……?
<サヤ!>
機体を貫通し、私の肉をえぐり胴体に空いた穴から、大量の出血。止まらない。もはや止められない。腹部からの流血は続く。
視界がぼやける。声が出ない。息もできない。
急激に全身の感覚が希薄になる。
……ん……、あれ。
もしかして私、死んじゃうのかな?
――待って。
ねえ、待ってよ。まだダメだよ、こんな所で死ねないよ……。
だって、隊長にまだ……なにも伝えてない。いつか世界が平和になったら……ちゃんと告白しようと思ってたのに。ねえ、それまで待ってよ。まだ生きたいよ……。
だって、だって……ハンカチ……。まだ返してないし……。きちんと洗ったんだよ?
返すって約束したのに。ダメだな、私。こんな約束も守れないなんて……そんなのイヤだ。
だから。
――ねえ……。
お願い。
届いて。
――まだ。
もっともっと、あなたと話がしたかった。
――まだ……。
もっともっと、傍で声が聞きたかった。
お願い、だから。
壊れるほど強く、抱き締めてほしかった。
――もっと……あなたに触れていたかった。
――だから。
ねえ、隊長? ねえ…………。
「コ、ユキ……」
たい…………。




