表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/56

第4章『コクト・パイロット・サヤ視点』-8

 だからこそ、この絶望の渦中かちゅうでも私は笑顔で答えてしまった。

「やっちゃって、いーんですね!」

<ああ、好きなだけ行っとけ!>

 隊長から許可が出た。

 私はツナミ七式を二丁とも機体の腰に固定して、前方から接近してきた敵機めがけて跳躍ちょうやくした。ヒザ蹴りで相手の頭部を破壊。飛びついた衝撃を利用してブリーズを押し倒し七式を一丁いっちょうだけ抜いて首の付け根に、ありったけ銃弾を撃ち込む。

 爆発より速く行動。

 次の獲物えものは……。

 左右から同時に接近してくる敵機。

<サヤっ、三時から叩け!>

 反応する身体からだ。迷いは無い。右から来ていた敵機に大きく一歩いっぽ、踏み込む。肩からナイフを抜いて、逆手さかてに持ったまま、下から上に斬り上げた。

 ブリーズがツナミ七式を撃ってきたが当たる気がしない。いや、絶対、私には当たらない。確信の動き。

 相手の銃口は、私のナイフに弾かれ機体の枠外わくがいれた。ムダ弾にかまう理由はない。後方では『セイバーン』の放つ機銃、ライウ四式が空中から降り注ぐ。背後で爆発音。ほぼ同じタイミングで、こちらも撃破。敵機の操縦席をえぐり、首を斬り落としてやった。

 ――次。

 獲物には困らない。

 別のブリーズに背後はいごを取られていた。が、関係ない。

 その敵機に狙いをさだめた時、しんも狙われている感覚。一条いちじょうの弾丸。狙撃。

 肩の位置をずらしてかわす。注意が背後かられた。後ろにいたブリーズが回り込みながら至近しきん距離で射撃。銃弾が、こちらのウィッシュの胸部装甲を破壊し操縦席を揺らす。

 敵のスナイパーが邪魔だった。

 予想しづらい角度から撃ち込んでくる。

 集中がわずかにぶれる。

 なおも七式を乱射する敵機。機体をかたむけて回避しようとした時、別の方向から、さらに一発いっぱつの弾丸が視界に飛び込んできた。

「ひっ……?」

 世界が揺れた。視界が揺れた。地震かと錯覚さっかくするほどの、激震。

 空からの援護射撃。私の近くにいたブリーズが吹き飛び四散しさんする。

 そして、気がつく。

 呼吸ができなかった。

 自分の腹部にじんわり広がる痛み。胸の奥から込み上げてくるものをこらえきれず、吐き出した。赤い赤い、まぎれもない、血液。

<サヤ! 下がれ! すぐにベースで治療ちりょうすれば助かる!>

<新人ッ! オレが盾になる! はやく撤退てったいしろ!>

 操作レバーを握っている指に力が入らない。再び吐血。ようやく自分のに起きた出来事を理解した。私は何者かに狙撃そげきされたんだ。……敵に……?

<サヤ!>

 機体を貫通し、私の肉をえぐり胴体にいた穴から、大量の出血。まらない。もはやめられない。腹部からの流血は続く。

 視界がぼやける。声が出ない。息もできない。

 急激に全身の感覚が希薄きはくになる。

 ……ん……、あれ。

 もしかして私、死んじゃうのかな?

 ――待って。

 ねえ、待ってよ。まだダメだよ、こんな所で死ねないよ……。

 だって、隊長にまだ……なにも伝えてない。いつか世界が平和になったら……ちゃんと告白しようと思ってたのに。ねえ、それまで待ってよ。まだ生きたいよ……。

 だって、だって……ハンカチ……。まだ返してないし……。きちんと洗ったんだよ?

 返すって約束したのに。ダメだな、私。こんな約束も守れないなんて……そんなのイヤだ。

 だから。

 ――ねえ……。

 お願い。

 届いて。

 ――まだ。

 もっともっと、あなたと話がしたかった。

 ――まだ……。

 もっともっと、そばで声が聞きたかった。

 お願い、だから。

 こわれるほど強く、抱き締めてほしかった。

 ――もっと……あなたにれていたかった。

 ――だから。

 ねえ、隊長? ねえ…………。

「コ、ユキ……」

 たい…………。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ