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第1章『コクト・パイロット・サヤ視点』-2

「私はサポート、私はサポート……」

 現在、操縦席の全面スクリーンには外の映像が表示され、やや下にある円形のレーダーには自分を中心とした仲間の位置と、ブリーズの位置が表示されている。

 レーダーには仲間の機体が色で判別できるようになっており、コユキ隊長の『セイバーン』は青。トウケンの『ケンパク』は白。カノコの『クレナイ』は赤。そして私の『コクト』は黒で表示されている。

 現状は『コクト』を中心として、もっとも後方に『クレナイ』。私のやや手前に『ケンパク』、最前線に『セイバーン』がいる。このチームは三機のウィッシュと一機の戦闘ヘリで編成されており、ヘリに搭乗とうじょうしているのがコユキ隊長だ。

 正式名称『ウィッシュ・空戦型くうせんがた

 ヘリによる視点の高さをかし、刻一刻こくいっこくと変化する戦況を空中から判断し指示を飛ばす。

 進化を続けることで恐れられているブリーズだが、現在はウィッシュの機体コピーにとどまっている。つまり敵は地上戦をしゅとして、対空たいくう兵器は非常に少ないのだ。

 確認できるかぎりで、このフィールドの残りブリーズは七機。敵も味方も形が同じのため、カノコが言っていたように誤射の危険性が考えられるが、現実この両者には決定的な違いが存在する。レーダーに装備されているサーモグラフィーがその答えだ。

 ウィッシュはエンジンの熱によって機体の表面がかなりの高温に達する。それが原因で長時間の戦闘には向いていない。……対してブリーズは、形状こそ同じだが表面温度は人間の体温に極めて近い。

 よって、機体の温度。タンポポでの通信。隊長からの指示。レーダー情報。これらのことから私たちが同士討ちにおちいる可能性はまずあり得ない。

「わ、ちょ、待ってくださいよーっ」

 先行していたトウケンがどんどん離れていく。これではサポートじゃなくて、まったくの役立たずだ。まずは『ケンパク』に追いつかないと!

 離れていく距離を少しでも詰めようとウィッシュを走らせる。全力で最大スピードを出しているつもりなのにレーダーでの互いの位置は少しも近づかない。

「ふええー、待ってえー……」

<だあああァーッ! 弾切れかよッ>

 白い背中を追いかけていると、『ケンパク』が持っていたツナミ七式ななしきを投げ捨てた。

 そこへ側面そくめんから急速に接近するブリーズが一機。

 弾切れ? さっきトウケンは弾切れって言った? 

 ってことは……わ、私が援護しないと!

 でも距離が……あーもー撃っちゃえ!

「うにゃあああーっ」

 トリガーを引いてありったけの弾丸をばらまく。さながら雨が降るように大量の弾幕が飛び散る。が、ほとんどが外れ、命中した数発は足止めにもならなかった。

 『ケンパク』に肉薄にくはくする敵機。こちらと同じ武器ツナミ七式を構え銃口が『ケンパク』をロック・オン。私の位置からでは間に合わない! どーしよ、どーしよおーっ!

ひるみなさい>

 響く声。戦場を駆ける一条の必中。カノコの言葉が弾丸に乗り、『ケンパク』をかすめてブリーズに直撃した。

<あっぶね! おいッ、今ちょっと本気でオレを狙っただろ! お前ッ>

<なんのことかしら。七式の残弾も考えずに突っ込むアンタが悪いのよ。それよりブリーズがまだ動いてるわね。トドメくらい自分で刺しなさい>

<いちいち、うるせーなァ……。言われなくてもやってやらァ、フウセツ・抜刀ッ!>

 『ケンパク』が機体の背中に固定されている二本の鞘から刀を抜いた。接近戦のプロであるトウケン専用の武器『二刀にとう・フウセツ六式』である。透明感のある二本の刀が慣れた動作で振り上げられ――

<解体ッ>

 一刀、二刀と振り下ろされたフウセツ六式がブリーズの胴体を切り裂く。

<完了! さあ、次の獲物はどいつだ、うらァ!>

 どこの組のモンだ? と思わせるようなトウケンの気迫。この人はつくづく射撃より接近戦のほうが大好物らしい。

 ――現実。この状況を目の前で見せられ、明確に思い知らされる。

 トウケンを助けたカノコの狙撃。刀を抜く一瞬さえあれば、トウケンに私の援護なんて最初から必要なかった……。攻撃できる余裕があったのに、素人の私にはそのわずかな一瞬をつくりだすこともできなかった。

 ……情けない。ずっと訓練学校でトレーニングを続けてきたのに実戦でここまで動けないなんて予想してなかった。……彼らの連携に『私』という存在はまったく組み込まれていなかったんだ……。

<まずい! サヤ、下がれっ>

「ふえ?」

 緊迫したコユキ隊長の叫び。戦場はヘコんでいる時間すら与えてくれなかった。私が状況を理解するより早く、隊長が言葉を続ける。

<敵に囲まれている! 今すぐ下がれ! カノコ、サポートできるかっ?>

<角度が悪いわね。せいぜい一機いっきかしら>

 レーダーを見てようやく納得。生き残っていたブリーズがどういうわけか一斉に私めがけて突撃してきたのだ。とはいえ、初戦闘の人間が瞬時に反応できるほど経験をんでいるはずもない。情けなく悲鳴をあげそうになってグッと息を飲む。敵は残り六機。

 で、でもどうしよ……。ツナミ七式の残弾が……。あれ、残りゼロ発? そーか! さっき乱射した時に撃ち尽くしちゃったんだ!

<喜べ新人! ヘタレのお前でもブリーズには大人気じゃねーかッ!>

「嬉しくありません!」

 トウケンに叫び返している時、すかさずコユキ隊長のタンポポが頭上をすっ飛ぶ。

<トウケン! 俺が時間を稼ぐ! あとは……>

<心配すんな、こんなトコで仲間を死なせるかっつーの! 任せろッ>

 ブリーズの包囲網が一気にせばめられる最中、冷静なカノコのつぶやきが届いた。

<サヤ、動かないで。当たるから>

「はひっ」


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