第4章『コクト・パイロット・サヤ視点』-4
強めの風圧が、私の声をかき消した。
穏やかな風が二人の髪を撫でる。
「ん? 今……」
「秘密です。……それにしても、ちょこっと寒いですねー」
わざとイタズラっぽく微笑んだ私を。
「……だったら、こうすればいい」
まるであたり前のように、隊長が抱き寄せた。彼の胸元に頬をあてる。心臓の鼓動が聞こえた。
太陽が沈みはじめ、月の輪郭が鮮明に浮かび上がる。……そのまま夕日が完全に消えるまで、二人で身を寄せ合い立ち尽くしていた。
時間の流れを、やけにゆっくり感じる、
このまま、ずっとこうしていられたら……。
「守りたい」
彼のつぶやき。たった一言だけど、ちゃんと聞こえた。
目を閉じ、うなずく。
彼の気持ちが伝わってくる。
「私も……同じ気持ちです」
一方的に守られるわけにはいかない。これ以上、甘えちゃいけない。だから、私も彼を守りたい。
――抱き合ったこのぬくもりを、守りたい。
「俺は……決めたんだ。守るって」
「はい……」
このあとに告げられる告白の瞬間。
一言たりとも聞き逃してはいけない。
彼の背中に腕を回し、早まる自分の鼓動を少しでも落ち着かせようと呼吸を整える。
コユキに対する愛情は……絶対、本物だって胸を張って宣言できる。この想いは一方的だと思っていたのに、実は彼も、私のことを……。
「サヤ…………」
コユキの腕が、私の肩を抱いた。
くる! 絶対、くるぞ! 告白、くるぞーっ。
「俺は……」
どんと来い!
「…………この世界を守りたい」
「はい、私も。…………、え、え? なに?」
こやつ、今、なんと言った?
「……ブリーズから、なんとしてもこの世界を守りたい」
守りたい? 世界を? 私は? 私じゃないのか、オイこら。
「えーっとお……。あのー、さっきの守りたいってセリフは……この世界の話ですか?」
恨めしい目で、隊長を見上げる。
しかし彼はキョトンとした表情で平然と言った。訂正、言いやがった。
「ああ。世界を平和にするために俺たちは戦ってるんだし。えっと、なにか……おかしなこと言ったか?」
「いーえ、言ってません!」
コユキのバカッ。ばーか、バーカ。
ドンッと彼をかるく突き飛ばして、エレベーターに向かう。
「うあっと、あぶなっ! 急に殴るな、落ちるだろうが!」
「知りません! 部屋に帰りますっ」
「あ、だったら俺も帰るけど……」
「あっち行け、バカーッ」
「なんでそんなに不機嫌なんだ。あれほど綺麗な夕日を見ただろ!」
「見ましたよ! 見ましたけど、それが何か?」
文句を言いつつ、二人でエレベーターに乗る。
あえて彼に背を向けると、このおバカさんは私の気持ちも考えずに、なおも説明を続けた。
「それなら、より一層この世界を守りたいとか……」
「思いましたよ、そりゃもう思いまくりですよ、ちっくしょー!」
「なにが畜生なんだ? 怒ることないだろ」
「怒ってません。隊長のせいです! むっきいーっ」
「やっぱ、怒ってる……」
「ちーがーいーまあすうっ。私はいたって普通ですうーっ」
一階に到着。
ドアが開いた途端、全力ダッシュ。
「ふんがあーっ」
「待て、サヤっ」
背後から声が追ってくるが、言うことなんてきいてあげない。
しだいに声が遠くなる。
「サヤ! おい、だから待てって」
誰が、誰があ!
「待ってやるもんかあああーっ!」
私のオトメ心はもうダメです。
とにかく走る。ひたすら走る。
「でも、でもお……」
声には出せない、魂の叫び。こーゆー時は、とりあえず言っとけ、私。
「やっぱりーっ」
コユキが好きだあああーっ!




