第3章『ケンパク・パイロット・トウケン視点』-4
<サヤっ、そのまま突き進め!>
<うにゃーっ>
いくらウィッシュでも至近距離でミサイルを食らったら相当ヤバイ。
<空戦型の性能は、俺が一番良く知ってる!>
ブリーズがミサイルを発射。白煙を上げて確実に『コクト』の背後に迫る。回避なんてできない。
コユキの言葉を信じて一心不乱にペダルを踏み込むサヤ。
同時にレーダー内に重なる機影。
間に合わない。絶望が触れる刹那の時間。
『コクト』の全面スクリーン、その視界の隅に何かがよぎった。
サヤの背後。
空、駆ける青。
『コクト』をかばうように。
あれは……間違いようのない。あの、青は。
青き空戦型は。
<…………隊長おぉぉぉーっ!>
逃げに徹していた脚を止め、サヤが振り返る。
飛翔する『セイバーン』に直撃するミサイル。防げるはずもない。目の前で起こる爆発。四散する『セイバーン』のカケラ。なにもかも、すべてが吹き飛ぶ。
「あのバカ、勝手に英雄気取りかよッ!」
サヤを守ろうとしたせいで。かばったせいで。
ムダと知りながら『コクト』が手を伸ばす。届くはずがない。願いも、その手も。
<いやだ……、こんなの認めない……>
操縦席でガタガタと震えながら。
半狂乱で。
声の続くかぎり。
サヤは……。
あいつの名を呼んだ。
<コォォォユキイイイーっ!>
爆煙を貫いて現れるヘリ。
ブリーズは生きている。次に狙われるのは……『コクト』しかいない!
「二人もやらせるかよッ!」
ビルの隙間から黒い装甲を確認。なんとか間に合ったらしい。
迷わず『コクト』の背中を目がけて機体を躍らせる。はるか頭上には敵機。地上からではフウセツ六式が届かない。
――ならば!
「悪く思うなよッ」
『コクト』を踏み台にして上空へと跳躍。
ブリーズ空戦型の機銃が『ケンパク』をロック・オン。かわすつもりはない。この二刀でバッサリと……。
「ヤバッ、届かねェ!」
あと一メートルほど。刀の先すら当たらない。
予想よりも距離があったらしい。このままでは狙い撃ちにされる。正面にはライウ四式の銃口が待ち構える。
回避、不可。
直面した危機に呼吸が止まる。
<跳びなさい>
声。そして、何かが飛んできた。
空を疾駆する弾丸のごとく。
あの狙撃屋が持っていた一枚の盾が横から突っ込んできた。
放たれるライウ四式。
両者のあいだに一瞬だけ生まれた障害物。
無数の銃弾を、飛んできたシールドが奇跡的にブロック。重力に引き戻され落ちかけたオレの『ケンパク』だったが、腕を伸ばし目前にあった盾にしがみつき。
「チャンス到来!」
シールドをきっかけに、機体を大きく上方へと跳ね上げた。
相手の射撃エリアはおもに下に向けての攻撃を想定している。答えはシンプルだ。コイツより高く跳べばいい。
「別れの言葉をくれてやる!」
二刀一閃。
「失せろッ、空戦型アアアーッ!」
プロペラもろとも、ヘリをぶった斬る。
巻き起こる爆音を間近で虚しく聞きながら、深く深く息を吐いて着地。ヘリの残骸と穴だらけのシールドが地べたに転がった。
タンポポに映るサヤの横顔。両手で顔を覆い、嗚咽だけが操縦席に響く。
<私のせいで……。こんな私をかばったせいで……>
嘆き。
<もう……こんな世界、滅びちゃえばいい……。無くなれ。消えちゃえ……>
不意にカノコのタンポポが咲いた。
<ライフルがないからシールドを投擲してみたんだけど、不思議と狙い通りだったわね>
「さすが狙撃屋。いい腕だな」
サヤが目を真っ赤にして顔を上げた。
<もう……二人ともなに言ってるんですか! 隊長が、いま……>
声を震わせて。
<大事な人が……、仲間が……>
「オイ、新人」
<なんですかっ>
こちらを睨みつけるサヤ。
「気がついてないみたいだから、あえて言ってやるけど。……自分の足下、見てみろ」
<ふえ?>




