第3章『ケンパク・パイロット・トウケン視点』-3
困惑した声音のコユキだったが、狙撃屋に言われ、しぶしぶといった様子で。
<……こちらへの追従を認める。ただしトウケンよりも後方にいること。こちらに合流する前に油断して流れ弾に当たるな。最大の注意を払え>
<はいっ!>
この部隊のお荷物になりたくないのだろう。意気込む『コクト』がシェルターを離れこちらに移動を開始する。
<これは……>
コユキのつぶやき。時間差で、他の部隊から送られてきたデータがレーダーに表示される。
<近くで戦闘中のオーファイブからの情報だ。見て分かるかと思うが>
「増援かよッ」
<あら、ご近所じゃない。トウケンがいればなんとかなるでしょ?>
「今回は本気で他人任せだな、狙撃屋……」
<悪い情報だけじゃない。司令部から報告があった。ホームの修理が完了したそうだ。民間人の保護もすべて完了>
「残りを叩けば終わりってことだよな」
<何とかなりそうじゃない、よかったわねー>
「あー。あの女、斬りてー」
<それどころじゃないですよーっ! 建物がこんなに壊されて……修復するのが大変じゃないですかっ>
<諦めなさい、サヤ。アタシたちではどうすることもできないわ>
<そんな……だって>
「新人! レーダーになんか近づいてるぞ!」
<ふえ?>
索敵レーダーに未確認の反応。味方のウィッシュではない。だとすればブリーズ以外にありえない。
<敵が見えません! 周りは建物しか……>
『コクト』との距離はあとわずか。それでもサヤは視認できていない。こちらの機体と同じである以上、ウィッシュは五メートル近い大きさだ。ここまで接近して発見できないなんてありえない。……ってことは、実は逃げ遅れた人間が傍にいるのか……?
いや、この地域の救助は終わっている。そうなると、コイツは。
「走れ、新人! 同じ場所で立ち止まるなッ!」
<はひっ>
裏返った声をあげ、『コクト』が動きだす。
<トウケン、残党狩りは任せた。俺はサヤのポイントに行く!>
「おうッ、任された!」
レーダーでは『コクト』を追いかけるように未確認のマークが後方から迫っている。先行していたコユキが新人のポイントへ戻るより、はるかにこの存在のほうが近い。どこかのビルに人が隠れている可能性もない。
つまり、このブリーズは。
「新人! 空だッ!」
<でえっ>
オレの叫びにかろうじて新人が反応した。サヤが見ている視界の映像を『ケンパク』に強制接続。
こちらの全面スクリーンの一部に『コクト』の見ている視野が表示される。ビルの裏側から姿を現した見覚えのあるシルエット。紛れもなくそれは。
<……ウィッシュ・空戦型ですよー!>
悲鳴じみた叫び。
一機のヘリが、ギリギリの間隔で建物の隙間を飛んできた。
ヘリの機銃・ライウ四式がサヤの機体を正面からロック。『コクト』に射撃武器はない。さらに、飛行する相手にこの素人が挑めるはずもない。
<に、逃げなきゃ……>
相手に背を向け一気に激走。『コクト』の背後から響く銃撃。砕けるビルの群れ。
オレの位置からではサポートできる状況ではない。援護に向かったコユキに任せて、さきほど報告のあった増援を始末するのが先だ。
<敵が空を飛ぶなんて。しかもこの狭い空間で! 反則だよーっ>
<サヤ、次の建物を左に曲がれ!>
<りょ、了解っ>
コユキの指示通り言われた路地へと『コクト』が滑り込む。
同じタイミングだった。オレの前にはそよ風から具現化したばかりのブリーズが獲物を求めて徘徊していた。十機前後ってとこか。
「喜べ六式。狩りの時間だァ!」
発生したばかりのブリーズはきわめて立ち上がりが遅い。ここまで『ケンパク』が接近していながら、反応したのはわずか数機。
あまりにニブイ動きで武器を構え、こちらに照準セット。トリガーを引く。
――悪いがその攻撃を律儀に待ってやるほどの理由はない。
銃弾が走る前に、突撃。敵機に密着。
二本の刀、フウセツ六式を振るい次々とブリーズを斬り倒す。
結果、せいぜい一分。
「よっしゃ、ザコはすべて片した! そちらの援護に向かう! 逃げ続けろ新人ッ」
<む、難しいですーっ>
これまでブリーズは地上のみで発生し、空中で活動できるものは存在しなかった。だからこそ空を支配できるヘリはブリーズに対して有効だったのだが。……ついに空戦型までコピーされる時代か……。
<ひゃっ>
サヤのポイントに全力で向かいつつ『コクト』の状況を確認。
一方的にヘリが銃撃を繰り返し、破壊されたビルの破片が『コクト』に降り注ぐ。
<すまん、遅れた!>
レーダーに、急接近する『セイバーン』の姿が飛び込んできた。
同時に、角を曲がった新人の機体を正確に捕捉する敵機。サヤが機体を走らせながら後方を振り返った。するとブリーズ空戦型のミサイル発射口がパカンと開口。
<ミーっ、ミサイルと目が合っちゃったんですけどー!>




