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第3章『ケンパク・パイロット・トウケン視点』-2

 ホーム内部、居住きょじゅうスペース。

 ブリーズの存在がある以上、一般いっぱんじんが外に出ることはできない。

 結果、この限られた空間、この街が世界のすべて。ベースに守護しゅごされた世界の中心。

 ――そのはずだった。

 現実では出撃までのわずか数分で『そよ風』から具現化したブリーズが暴れ回り、人々が暮らしている世界を、日常を、思い出すらも破壊していく。

<……ホームに出撃って聞いて、なんとなく予想はしてたのよ。アタシの役回りはきっとこうなるだろうなーって!>

 真っ先に愚痴ぐちをこぼしたのはカノコだった。機体の手には使い慣れたスナイパーライフルではなく、巨大な盾が握られている。完成したばかりのウィッシュ・シールド。ただこの場合、守るのは自身じしんではなく建物から逃げ遅れた民間人を守るための道具となる。

<敵の数がまだ明確ではない。どこから狙われるか分からない、警戒しろ!>

「簡単に言ってくれるじゃねーかッ、うちの隊長さんは!」

 居住区であるため、いくつもの建物が視界をさえぎる。司令部からの命令は、住居、学校、商店、病院。そのすべてを可能なかぎり破壊しないように動きつつ敵機を発見、撃破。さらに民間人の救出。

 ……無茶ゆーな。あまりに注文が多すぎる。

 問題は他にもあった。

 それはブリーズの特徴である。表面温度だ。レーダーには味方のウィッシュと敵の機体、両方が簡易かんいマークで表示される。そこで判別の材料になるのがサーモグラフィーなのだが、ブリーズはなぜか機体の表面が人間の体温に酷似こくじしている。

 操縦席から見える全面スクリーンでは建物が邪魔して敵が視認しにんできず、レーダーでは逃げ遅れた民間人とブリーズが同じ温度で、まず区別がつかない。普段なら司令塔であるコユキも、天井すれすれを飛行しながらビルにはばまれ視界不良ふりょう。これでは指示を出すにも限界がある。

 その状態で、司令部からさきほどの命令である。そりゃもう、他の部隊の連中だって存分ぞんぶん不平ふへいれ流していることだろう。

<カノコはそのまま後退! トウケンは単身たんしんで斬り込め!>

 ビルの隙間すきまをぬって『セイバーン』がける。

 別の建物の陰から敵機てっきが出現。こちらの一般いっぱん武装であるマシンガン・ツナミ七式をかまえ、遠慮なく銃弾を撃ちまくる。

 カノコの『クレナイ』はシールドを構えたまま、ビルの陰から出てきた敵機の銃弾を数発びつつ後退していく。その足下を悲鳴を上げ逃げていく人々。あとは地下シェルターまで民間人を誘導、防衛ぼうえいしていかなければならない。

 サーモグラフィーには、大量の人とブリーズが同じ場所にかたまって表示されている。ここまで敵に接近されてしまうとレーダーがまるで役に立たない。すぐ近くに新手が出現しても反応できるかどうか微妙びみょうなところだ。

「さばけ、六式!」

 コユキの大ざっぱな指示にクレームをつけるわけにもいかず、損な役回りを与えられた狙撃屋へ一方いっぽうてきに銃撃を繰り返していたブリーズに、オレが特攻をしかけフウセツ六式で真っ二つに斬り裂く。周辺に広がる爆風をかわして『セイバーン』がさらに先行。

 あのヘリに搭載とうさいされているのは射撃武器のみ。それが使用禁止のため、コユキも戦うすべがない。

<サヤはカノコに追従ついじゅう、まだ前に出るな! まずは民間人の避難ひなんが先だ!>

<はひっ>

「レーダーが当てにならねえッ、ブリーズはあとどのくらい侵入したんだよ!」

<俺も知らん! それに修理班がまだ作業中だ。ホームの穴がふさがれるまでにそよ風が流れ込む可能性もある>

<ちょっと、もしかして増援もあり得るってこと? アタシは戦えないのに、どうしろってのよ!>

「気合で殴り倒しちまえッ!」

<アタシさー、格闘って苦手なのよねー>

「やる気ねえなァ……。コユキ、この狙撃屋になんか言ってやれ」

<真面目に戦え、お前ら>

 それなりに真剣なんだが、いまいち緊張感のない会話が飛びう。その中でサヤのタンポポだけが違った。通信をつないだまま、いつか敵に撃たれるんじゃないか……と不安そうな表情がうつっている。

「コユキの機嫌きげんが悪いなァ、なんかあったのか?」

<私生活に不満とかあるのよ。きっと、ストレスね>

<好き勝手、言いすぎだぞ……>

 当てにならないレーダーをうんざりとながめ、ブリーズがいると予測されるポイントへ先行する『セイバーン』とオレの『ケンパク』。

 その間に、サヤとカノコが民間人を保護した状態で地下シェルター入り口へ接近。近くに敵の反応はない。

<あのー、シェルターに着きましたけど……>

<はい。お仕事ね、お仕事>

 全員を無事に地下シェルターへ移動。そこで『クレナイ』が停止した。

<アタシはここで待機たいきするわよ。ブリーズがシェルターを襲う危険性もあるしね>

<了解した。サヤもそこで待機して……>

<隊長、私だって戦えますよ! 前回の私とは違うんですから!>

<しかし、まだ実戦では>

<コユキ、認めてあげなさい。こうして少女は成長していくのよ>

<どんな理屈りくつだ……>


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