第2章『ベース整備兵・マリナ視点』-4
「どうやったのか方法は知らないけど、あの外部装甲を調べるかぎり、真実はひとつ」
「なになに?」
期待に満ちた子供みたいな瞳を向けてくる。この辺、素直だよなー、こいつ。
「なぜか……当たってないのよ」
「当たってない?」
「そう。ウィッシュのメイン・エンジンとか、操縦席には一発も。……絶対に命中しちゃいけないトコには当たってないの。そういう意味では回避率・百パーセントよ、あんた」
「なにそれ」
「そのままの意味。いくら敵に囲まれようと、撃たれようと、すべての攻撃が致命傷を回避してんのよ。当たって欲しくないポイントをよけるみたいにね」
「ほえー」
目も口もだらしなく開けっぱなしで感心している。
「ホント、驚いたのはこっちよ、この幸運もちめ。たぶんサヤには……すっごい女神さまがついてるのよ、きっと」
そうでなきゃ、こんな状況ありえない。あんだけ撃たれたら絶対、死んでるっつーの。
「おや、マリナさん。……と、サヤさんだったかな」
背後から声をかけられ二人で同時に振り向いた。
白衣にメガネ。茶髪の男性。彼は開発部の……。
「あ、六十五点」
「え、ボクのこと?」
「ふんッ」
隣のドジっ子にボディ一発。
「はううっ」
「あはん、聞き間違いですよー」
腹を抱えてうずくまる幸運もちを瞬時に撃破。
あたしはフォローのために頭をメッチャ高速回転。
「えっと今の点数はですね……」
「ボクが六十五点なら、コユキは千点ってところかな?」
「うわ、正解!」
追撃。顔を上げたサヤの頭を、平手でパシンと叩き落とした。
「マリナ痛いー、本気でぶったあー。暴力だー」
「愛のこもったツッコミだ。受け取れ、おバカ!」
「ボクがいると、お邪魔かな?」
申し訳なさそうに苦笑いをうかべて徐々に後退していくイスケさん。見かたを変えると怯えて逃げ腰のようにも見える。
「すみません、イスケさんが悪いんじゃないんです。タイミングが……、むしろこのおバカが全面的に悪です」
「えーっ、なんで私がワルモノなのー?」
目からビームが出そうなくらいの圧力で睨みつける。
「ご、ごめんなさい。私が悪です」
そもそもあたしだってこんな暴力オンナって設定は嫌だし……。
このままではとんでもない誤解を招きそうだったので、イスケさんにかるく状況を説明してお引き取りしてもらった。
ハンガーから出て行く彼の背中を手を振って見送る。途中で足を止め振り返ったので、最高の笑顔で追い返す。
――はよ出て行け。
「なんで開発部の人がいたんだろねえ?」
イスケさんが消えたあと、ようやくダメージから立ち直ったサヤが言った。
「なんかウィッシュのシールドが完成したとか聞いたけど……。現場まで様子を見に来たんでしょ」
「ふーん。……それにしても、さっきのマリナずいぶん必死だったねー? 私がうずくまってるあいだ、二人で仲良さそうに喋ってたし」
サヤの目がスッと細くなった。
「六十五点が好みですかにゃー?」
不敵に笑う顔面にキック。
「うっさいわね、それよりしっかり戦いなさいよ」
潰れた鼻を押さえて床に転がるサヤ。あ、顔に靴あと付いてる……。ま、いっか。
「命がけでやってるよう……」
「どーだかね」
「少しぐらい応援してくれてもいいのに……」
さすがにやりすぎたか……。甘えた声を出すヘタレの頭をよしよしと撫でてあげた。
「ま、あんたは死なないでしょ」
「もっと心配してよー」
「してやんない。あの『コクト』を見て分かったでしょ? サヤはたぶん、幸運の女神さまが守ってくれるわよ」




