第1章『コクト・パイロット・サヤ視点』-12
ピッという電子音。ツナミ七式の射程に敵が入った。今度こそ!
「行きますっ」
迷わずトリガーを引き絞る。飛び散る火花。連続して発射される銃弾がターゲットめがけて一直線に走る。
「うりゃあああーっ」
ロック・オンされた目標に次々と銃弾が命中…………してない。
「なんでっ?」
あっという間に全弾を撃ち尽くし、カラカラと情けない音をあげているツナミ七式を呆然と見つめる。コユキ隊長はなにも言わずに眉間を押さえていた。
「えっと、えっと」
操縦席に警告アラームが鳴り響く。逆にロック・オンされたのだ。回避しようとあがいてみるが、実にあっけなく結末は訪れた。一方的にハチの巣にされた私の機体は、逃げることもできずに全壊。
「すばらしい命中率の低さだな……」
あ、呆れられた……らしい。
「す、すびませえん……。本気でやってるんですけど。ちゃんと狙っているつもりなんですけど……」
「そうだな、その感じは見ていてよく分かった。ただ……」
うう、次の一言を聞くのが怖い……。
「致命的に射撃センスがない」
「おっしゃるとーりですう……」
あまりの酷い結果に背中を丸め、うつむいてしまった。このまま泣きたい気分だったが、そんな時に「よしよし」と頭をナデナデしてくれる手があった。
「たいちょー……」
「そう落ち込むな。人には得手、不得手があるからな」
潤んだ瞳で彼を見つめる。この優しさが嬉しくて悲しくて。どうして期待に応えられないんだろう……。
「サヤ、まず改善すべきところは」
「発声練習ですね!」
「いや、撃つ時に叫んでも当たらないからな」
「うええっ、でもアニメとかマンガのキャラは絶対に叫んでますよ! 絶叫は基本じゃないですかっ」
「どこの基本だ、いったい」
「叫ぶと威力が上がったり、奇跡が起こったり、そりゃもう叫ばないと損ですよ!」
「叫んだ結果、撃破された奴が言うな……」
「……ダメ、ですか? サヤ理論」
「駄目だな、サヤ理論」
……バッサリやられました。その後も隊長の説明は続く。
「叫んでいるせいでレバーを握る手が揺れている。それではせっかくロックしてもターゲットがずれるのは当然だ。例えば……」
再び同じ戦闘データを入力。さきほどと同様にブリーズが一機だけ、まっすぐにこちらへ向かってくる。
「今度こそ」
「そんな睨んでも意味がないだろう。もっと肩の力を抜いていい。トリガーを引く時もガチャガチャやる必要はない。こうやって……」
敵が射程内に接近。トリガーを引こうとするとコユキ隊長の腕が伸びてきて、私の手を包み込んだ。
「ふぁ、あのあの」
「俺の顔は見なくていい。見るのはスクリーンだ」
「はひっ」
近づく敵機。重なり合う手がわずかに動く。スムーズにトリガーを引き絞る。流れる銃弾。手の平のぬくもりを感じたまま、不思議なくらい攻撃が命中していく。
「な? 落ち着いてやれば当たるだろう?」
彼の手が離れ、全面スクリーンに映る被弾したブリーズを指さした。
もう少し触れていて欲しかったな……。そんな思いで、敵ではなくスクリーンでもなく隊長のしなやかな指先を見つめ、近づき。……おいしそうな指にさらに近づき。
「あーん」
私は、口を半開きにして。
……パクっと。
「ぬおおっ、待てい、サヤ!」
「うにゃ?」
「俺の指は食えないから! オイ、かじるなっ」
やっちゃいましたか、私?
「ぐお、ごーめーんーなーさーいいいっ! つい、うっかり!」
「どんだけウッカリしてるんだ! 戦闘中にっ」
「だって、おいしそうだったから! つい!」
「つい、とか言うレベルのミスじゃないだろーが! だああ、スクリーンを見ろ!」
まだトドメをさしていなかったブリーズに攻撃され見事に敗北。機体が爆発する映像を呆然と見つめる。
「あ、ありゃ?」
「キミは…………」
一度、言葉を区切り、コユキ隊長が言った。
「戦闘には向いていない……」
「はうう……」
「これほどのドジっ子だったとは……。俺も予想してなかったよ」
「返す言葉もございませえん……」
私のヨダレで濡れた指を気にする様子もなく、次のデータを入力する隊長。




