第1章『コクト・パイロット・サヤ視点』-10
「今回はコユキが来てくれて助かったよ。あの空戦型をまともに操れる優秀な人間がいなくてね」
「もう少し訓練の時間があれば、ほとんどのパイロットが操縦できるようになるさ」
「時間があればね……」
イスケの眉間にシワが寄った。
うぐっ……なんかこの人、苦手かも。
「本題に移ろう。こっちのデータを見てほしい」
イスケが空中に小さな映像モニターを表示した。
大量にウィッシュの兵器データが出現。でも見たことない名前ばっかり並んでいる。
「まだ実戦には投入されていない開発途中の物ばかりだ」
データにはライフルやミサイル、防御用のシールドなど様々な兵器があった。
「もうじき完成するのはウィッシュの携帯シールドだね。持ち運びがラクで強度も高い。あとは……」
「あのおー、この高威力ライフルってなんですか?」
イスケの目がキランと輝いた。うわ、兵器マニアの目だ……。
「理論は完璧なんだがねえ……。組み立てに時間が必要なんだ。しかも威力を重視したせいでウィッシュ単体では扱うことができない大きさになってしまった。二機で肩に担げば移動や狙撃は可能になるよ」
「イスケ……実戦でそんなノンビリ動いてくれる敵はいないぞ」
「問題はそこなんだよ」
「もっと色々な問題がありそうな気がするが……」
深く突っ込むのを諦めて、コユキ隊長が別の兵器を指さす。
「このミサイルは?」
「今のウィッシュの弱点って分かるかい?」
すかさず隊長が即答した。
「広範囲に対する攻撃、だな?」
「正解だね。ウィッシュという機体はおもに単体に対応した武器がほとんどだ。なにしろ敵であるブリーズも、こちらと似たような機動力を備えているから、こっちが大量に弾幕を張ってもどこまで通用するか……不安要素があまりに多い。しかもそんな戦法だとすぐに弾切れを起こして部隊のお荷物だ」
「うーんと……予備の弾薬を準備するとか?」
隊長が首を振って否定した。
「一回の戦闘にどれだけ資源をつぎ込むつもりだ? ウィッシュも武器も無限に用意できるワケじゃない。残された資源を利用しつつブリーズを効率的に排除するのが俺たちの戦い方だ」
「その条件を満たして、なおかつ一機で使用できて、さらに広範囲を攻撃できる兵器。それがこの……」
データに表示されているミサイルに三人の視線が集まった。
「……ちょー大型ミサイル・キリサメ五式、ですか」
「改良しながら四式までは造ったんだがね、地上専用のウィッシュではどうしても効果的に使用できない」
モニターに表示されたミサイルの詳細なデータ内容。
……まったく意味が分からない。あ、私がおバカってことじゃないよ? この開発データが難しすぎるだけだよ?
「そこで……」
混乱するこっちをよそに二人の会話はサクサク進む。
モニターにはヘリにドッキングされたミサイルの映像が表示された。
「このキリサメを」
「俺の『セイバーン』にセットしようってことか」
あの軽量ボディのヘリにこんな巨大ミサイルを……?
「あ、危ないですよお!」
「いざとなったら仕方ないだろうな。これからさらにブリーズが進化して今の兵器で苦戦するようになれば、これぐらいのリスクは必要になる」
「とは言っても、まだ開発の途中だよ。コユキが実際に使うかどうか未定なのも事実。そんな泣きそうな顔でボクを見ないでほしいな」
イスケのセリフに息を飲む。いつの間にかそんな表情をしていたらしい。慌ててパタパタと手を振り笑ってごまかした。
「だ、大丈夫ですよおー。なにより隊長はすっごい人ですから。なにが相手だろうと負けません!」
「そこまで無敵のヒーローでもないんだが……」
少し長めの蒼い髪をひと房つまみ、ふと視線を逸らしたコユキ隊長に、私はググッと詰め寄り顔を見上げた。
「大丈夫でーすーよーねっ?」
「……はいはい、了解した。なんとかするよ」
やや呆れ気味に言って、彼は私の髪を優しく撫でてくれた。
つい目を細めてウットリしてしまう。
昨日、泣いて抱きついた時もナデナデしてもらったけど……この人の指には魔法でもかかっているんだろーか?
なぜかとても心が落ち着く。
もしかしたら魔法の国からやってきた魔法使いなのかもしれない。
なんて……まさかね。




