⑥
宜しくお願いします。完結です。
*7/16 少し加筆しました。ストーリーは変わりありません。
ここがどこなのか、体が動かないことなどを大地に訴えかけるも、大地から返答はない。それどころか違う話を始める。克也の体は震えていた。
「ここに来たことがあるか、でしたっけ。ありますよ。というか、働いてます」
今でも。そう大地は言った。
「裏野ドリームランドは・・・・閉園したと言われているけど、本当は休園なんですよ」
当時の広報から正式に発表されたし、ホームページにも書かれているのにな、と大地は笑う。更に彼は、休園した理由を知っているか、と克也に尋ねる。
克也は頭が働かない。いまだ状況がわからないのだ。体の震えは極度の不安からか、それとも一縷の期待からか。返答をしない克也を気にせず、大地は話し続ける。
「子どもがいなくなった、勝手に廻るメリーゴーラウンド、アクアツアーで目撃が相次いだ謎の生物の影、ジェットコースターの事故・・・他にもあるけど、まあ、半分事実で半分は違う」
行方不明者はいない、事故もなかった。すべて演出だった。
「出るもしくは何かが起こる遊園地だと衆知させて、それで売り出す予定だったから」
ただ、やり過ぎたし集まり過ぎたんだよな、あいつら。と大地は笑う。思い出しているのか、本当におかしそうだ。
ここは、アトラクションのひとつ、ドリームキャッスルの中であるという。白亜の、鉛筆のような塔の屋根にハートをあしらった、可愛らしいお城だ。
「ドリームキャッスルの噂は知ってるか?」
壁のランプに小さな灯が点る。じゃらり、と大地が手にしたのは太い鎖だった。うわ、本物おいてんのか、と呆れた呟き。
ドリームキャッスルの噂・・・。克也は必死に頭を働かせる。『ねえ、ドリームキャッスルの地下には、拷問部屋があるらしいよ!』教えてくれた同期生の、愉しげな声が浮かぶ。あの彼女は・・・。
酷い顔をしているらしい克也を見て、昏く笑う大地。
「俺のレポートに取り上げてたの、ドリームランド作った人達の建築物がほとんど、って気付いてたよな? せんぱい」
大地の口調が砕けている。素の彼の言葉に、克也の肩がぴくりと動く。
「じゃあ、ここに関わる人が、ほとんどヒトじゃないってことは? 警備員は知ってたよな」
大地が壁際に行き、手を丸いハンドルに置く。キリキリ、キリキリと音が部屋に響く。木枠のみのベッドに寝かされた克也は、僅かな振動と異変に気付いた。手足が、引っ張られている。遊びが無くなったところで、止まった。
「あんた、女を喰っただろ?」
何でもないことのように投げられた大地の言葉に息を飲む克也。それを一瞥してまた大地は話し出す。
「大学入学したときから、変なヤツに見られてるなって気付いてたんだ」
大地は、人ならざるモノが見える体質であり、たまにそれらに固執される。どうやら大地は体質故か、それらにとって酷く美味らしく、よく狙われるのだという。だけれど、その体質関係でドリームランドの経営者達と知り合えた。
「妖怪って、いるんだよな。あいつらも、人間と一緒で善いヤツと悪いヤツがいる」
ここのトップは化け狸だ。人と共存しながら、妖怪の妖怪による、妖怪のための場所を造っているという。それの試験的な取り組みが裏野ドリームランドだ。妖怪を集めキャストとして鍛え、怪異をアトラクションに紛れ込ませて客を集める。
「あんた、女を喰わずに、うまく飼えば良かったのに」
大地の言葉に克也は震える。混乱と、驚愕と、歓喜。克也と大地は同類だったのだ。異質で特異な体質の。やっぱり、彼は特別だった。
「妖怪はヒトを喰わなくても、ヒトに想われるだけで生きていけるだろう? あんたと女は、うまくやっていた」
なんだか、さっきから頭が痛い。それに、大地は、何をいっているんだ? ・・・女? 克也は頭痛に顔をしかめながら瞑目する。
「なぜ喰った? いつから鬼になったんだ?」
激しい痛みと共に、めりめりと頭皮の裂ける音がきこえた。克也の額から血が滴る。白く、血でぬめる尖りがふたつ、克也の額に生えていた。
女、女、女・・・笑う、女。
同期生の。笑顔の幼い、可愛い、俺の彼女。
あまく、いい匂いの。
そう、俺は喰った。あまくて、うまいから。
いつから?
いつ?
・・・そう、十になる前。
母さんも父さんも、いい匂いだったから。
ああ、うまかったなあ。
「・・・いいさ、今日からは俺が、お前を上手く飼ってやるよ」
大地が何を言っても、もう克也には聞こえていないようだ。大地の目に、微かな揺らぎが現れ、消える。
「ドリームランドは近く営業を再開する。噂の『拷問部屋』を御披露目だ。客は、本物みたいなあんたに恐怖し、楽しむ。あんたは客の恐怖で生きていられる。俺は・・・あんたの悪食を躾し直せる。ほら、これが上手なwinーwinーwinの関係ってヤツ。じっくり、覚えろよ。せんぱい」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「佐藤家の座敷童子?と不可思議なこと」のスピンオフで書かせて貰いました。ホラー初経験で、至らない部分もあったかと思いますが、楽しんで貰えたでしょうか。