⑤
宜しくお願いします。
もう
もう・・・。
お前は、うまい、あまい、いい子だった。
もう
もう、次が手に入る。
お前は・・・
「ひっ、嫌、嫌あ! 私、・・・ごめ、ごめんなさいっ。頑張るからっ!私っ、あなたが・・・・・・・あ」
つんざく女の悲鳴。
ぼりっ、ごりっ、ぐち、くちゃ・・・
は あ、
じゅる、ぴちゃ、ずずず・・・・
あまい、うまい、あまい、うまい、あまい、うまい、あまい・・・・
もう、なくなった・・・
血だまりの中、溜め息を吐く男。
つぎ、
つぎだ。
つぎは、もっとうまくて、あまい・・・・。
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気づいたら、克也はどこかの部屋にいた。体が動かない。腕を頭の上にあげて、四肢を人の字の形に拘束されている。部屋は薄暗く良く見えない。克也は動かしづらい頭を少しずらして、視線をさ迷わせる。自分は床に近い高さの場所に寝かされているようだ、となんとかわかる。心臓は早鐘を打ち、焦りで目がチカチカする。
ここはどこだ? どれくらい寝ていた? なにが起きた?
克也の脳内で滅裂に思考が飛び回る。
近くにアンティークな椅子の脚が見え、誰かが座っていた。
「大地、くん・・・」
一緒にドリームランドを見て回っていたはずの、大地が。ほの暗い笑みを浮かべていた。
夕陽が沈むかどうかの時間に、大地と克也は裏野ドリームランドで待ち合わせた。大地は単車で来たようだ。ヘルメットを抱えている。
「先輩、すみません」
昼でも夜でもない時間になったことを詫びる大地。昼に来る予定が、急用で遅れる、と大地からの連絡でこの時間になった。今日を逃すと、当分お互いの予定が合わなくなると分かっていたので仕方ない。ちなみに、この数日前に克也はようやく大地の連絡先をゲットした。
「まあ、この方が都合がいいよ・・・」
克也の声は、物珍しそうにあちこち見て先を歩く大地には聞こえていない。
静まり返った広い入り口のアーケード型の屋根は、まだ新しさを感じる。そして踊るような立体的な飾りが蛍光色と鮮やかな単色で楽しさを誘う。ローマ字とアルファベットで「裏野ドリームランド」と掲げられている。明るい時間に見られたら、さぞや心弾むことだろう。
入り口の端で控えていた警備員が、チラリと二人を見て、軽く頷く。すんなりゲートを通してくれた。
「あれが知り合い?」
大地に聞かれて、多分、と克也は答える。警備員は俯きがちで、制帽のつばに隠れて顔が確かめられなかった。だけど、誰でもいい、彼らはたくさんいるのだから、と克也は思う。
やっと大地を連れ出せた。この場所に。克也の身体中に高揚感が満ちる。
まだかろうじて灯り無しでもアトラクションの形が分かる。二人は、足早にまわる。
克也は、あれ、と思う。何か変だ。
道々に視線のようなものを感じるのは、別にいい。余計な姿を見せるなとは言ってあったが、気になるのだろう。彼らも。大地は特別だから。
でも、何だろう、何か違和感がある・・・。
克也は喉まで出掛かっているのにはっきりしない何かにざわめきを感じる。
「あ、メリーゴーラウンド」
人も居ないのにきらきらと灯りを煌めかせ勝手に回る、と鼻で笑って大地が呟く。裏ドリの噂のひとつだ。つるりとした馬の鼻面を撫で、次のアトラクションへ足を向ける。ミラーハウス、ジェットコースターとみていくが、時間を掛けずに大地はそれらから離れる。
ふと、「前にも来たことあるの?」と克也はやや先を行く大地に訊ねた。大地の足の進みに迷いがない。いくつもの視線が克也に集まる。いや、集まり過ぎだ。これでは気付かれてしまう。
克也に顔を向けた大地の表情を見て、克也は小骨のつっかえが取れたような明快さを感じながら、意識が薄れていったーーーーー。
一時間毎に完結まで予約投稿しています。6話完結です。