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陰陽師葛葉と式神お鶴   作者: 白狐
6/6

三日月 鶴の実力 後半

「さて、今日の夕食は何にしますか?」

 放課後、うちは気晴らしに校庭を散歩しながら夕飯の献立を考えていました。因みに鶴はんは「疲れましたから先に帰りますわ」とさっさと帰ってしまいました。全く、昼食を食べたらぐっすり眠っていたではありませんか。

「?」

 あれ? 何でしょう。何やら煙たいです。

「きゃははははは」

 そして何処からか馬鹿丸出しの下品な笑い声が聞こえます。

「あ」

 校庭の隅で三人の見るからに顔が悪い不良の雑魚キャラが車座で煙草を吸っていました。うちは気づかれないようにそっと通り過ごそうとしました。しかし、

 ドン。

「おい待てよそこの忌み族」

 突如としてうちの進行方向が不良の足で封じられました。先ほどのドンは不良が足で木を蹴った時の音です。不良は締まりのない笑い声を上げながら、

「通行料を払え、忌み族。どうせお前が持っていても金が無駄になるだけだ。俺が有意義に使ってやる。きゃははははは。……おいお前、どうして俺の足をじっと見つめているんだ?」

 その言葉にうちは目に涙を溜めながら、哀れそうに、

「かわいそうです。なんでこんなにこの人の足は短いのですか? まるであの青いロボットのように短いです」

「おい舐めているのかお前は?」

 不良はうちの胸倉を掴もうとしました。しかしうちはこの長くて奇麗な脚で一歩下がり、不良の手はうちをとらえる事が出来ませんでした。そして不良を顔を見てみると、うちは再び哀れな気持ちになりました。

「不良はんの顔はまるで絵心ない芸人が書いたように醜いです」

 すると今度は別の不良が、

「おい一年坊。上級生に対する口の利き方を教えてやるよ」

 不良はぼきぼきと指を鳴らしながらうちに迫ってきました。それに対しうちは、

「きっと貴さんの顔は呪われているのでしょう。だから醜いのです。協会に行ったらいいですよ」

「おい俺の顔は呪われてないぞ!」

 協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんは切れた目をしています。でも直ぐになにやら下らない事でも思いついたのか、にやにや笑いながら、

「おい一年、お前まだ必殺技の授業を受けていないだろう」

「必殺技? 何ですかそれは?」

 うちの質問に協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんはげらげら笑いながら、

「二年生になるとな、自分専用の必殺技を使えるようになれるんだ。お前腹が立つし、俺の必殺技のモルモットにしてやるよ。感謝しな」

「貴さんに感謝するなら妄想ストーカー下僕先輩に感謝します」

「誰だそいつは?」

 協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんは呆れた顔で質問した。そして協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんは印を結びながら、

「急々如律令、殴拳おうけん

 すると先ほどまで黙って見ていた絵心が無い芸人が書いた顔の不良はんが割り込んで来て、

「説明しよう。殴拳とはあいつの拳に霊力を集め、この拳で相手を殴るという陰陽術の必殺技だ。因みに陰陽術を使う場合は必ず急々如律令を先に唱えないといけない。そうじゃ無いと術は発動しないから」

 絵心が無い芸人が書いた顔の不良はんはまるで昔のアニメの説明キャラみたいに説明してくれました。別にどうでもいいですけど。

 協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんはボクシングの構えをしています。うちは、ぼそっと、

「神速」

「きゃはははははははは。神速って一年の最初に教えてもらう陰陽術じゃん。しかも急々を唱えなければ発動しないぞ!」

 協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんは中指を立てて挑発してきました。うちは当然それを無視し、薙刀を構えました。それを待っていたかのように協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんはまるで三下敵キャラのようにげらげら笑いながら殴りかかってきました。

「回避です」

 うちは神速の力を借り、数メートル後ろに跳びました。結果、協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんの拳は空しく空を切りました。格好悪いです。

「きゃははははは阿部、お前何やってんだ。よく狙え」

 観戦していた絵心が無い芸人が書いた顔の不良はんが囃したてました。

「おかしいな、俺はちゃんと狙ったはずなのに? まぁいい、次だ」

 気を取り直した協会に行った方がいい顔が呪われている不良はんは次々に拳の波状攻撃をかけてきました。

「おりゃ! そりゃ! ごりゃ!」

 でもこの攻撃は単調でうちは軽々回避しました。

「全く、不良はん三匹との戦いはページの無駄です。さっさと終わりにします」

 うちは薙刀を正面に構え、一気に不良はん三匹との間合いに詰めました。すると絵心無い芸人が書いた顔の不良はんが顔を引きつらせながら、

「ば……馬鹿な、急々なしで陰陽術が使えるなんて……。確か中村が言っていた気がするが妖怪と人間との――」

 しかしそれが言い終わらないうちにうちは紫電一閃で不良はんを一掃しました。勿論澄んだ大空に、ドッペラー効果と一緒に遠くまで飛ばしました。

「ふぅ、いい汗かきました」

 うちはハンカチで汗をぬぐいました。

「全く、折角の三つ編みが緩んでしまったではありませんか」

 うちはぶーぶー言いながらも三つ編みを正しました。

「あれ? あれは何ですか?」

 校庭の隅の方に何やら小さな祠が見えます。でも築何百年立っているのかその祠はボロボロに朽ち果てています。

「あっ、どうやらお稲荷様のようです」

 祠を見る限りお稲荷様のようです。でもどうしてこんな所にあるのでしょうか? そう言えばこの辺りはうちが調べていた歪んだ顔の女が目撃された場所です。生徒の噂を総合するとここになりますから。

「そうです。折角ですからこの祠を過去見してみましょう。入部条件の事もありますし」

 うちは祠に手をかざし、意識を集中しました。


「ふわぁぁぁ、爽やかな朝ですね」

 ぼろぼろの裏長屋、割長屋の一室から欠伸をしながら鶴が出てきました。彼女は白い髪をつぶし島田を結い、着物は小袖を着ている。

(どうやら鶴はんの住んでいた裏長屋のようですね。狭いながらも活気があります。どうやらこのお稲荷様は裏長屋の祭られていたもののようです)

長屋はわいわい賑わっており、とても楽しそうだ。鶴は井戸で洗濯をしていた女性に挨拶をしています。

「お早うございまーす。今日も爽やかですね」

 すると洗濯をしていた一人の中年女性が苦笑しながら、

「何言ってるんだい、朝五つの鐘はとうになったよ」

(相変わらず鶴はんは朝起きるのが遅いのですね。朝五つは大体午前八時頃ですから)

 でもそんな苦言なんのその、鶴は慣れているのがスルーして洗顔と歯磨きをしました。中年女性も慣れているのかこれ以上は追求しません。

「お姉ちゃんおはよー」

 そんな鶴に元気よく挨拶をする幼女がいます。年の頃なら七から八歳の可愛い女の子です。すると鶴は満面の笑顔で、

「お早うお夏。もう朝五つよ。寺子屋は?」

「今日は都合で半刻遅く始まるみたい〜」

「そう、ちゃんと勉強するのよ」

「はーい。いってきまーす」

「いってらっしゃい」

(どうやらこの小さな女の子が鶴はんが言っていたお夏はんですね)

 お夏は元気よく走って行きましたが、直ぐに戻ってきました。その顔には戸惑いの表情を浮かべています。

「お姉ちゃん、木戸が閉まっていて外に出てられない」

 するとこの言葉を聞いた中年女性が怒り顔で、

「いいんだよ、貧しいのに女郎屋に行って朝帰りする宿六なんてほっといたら」

 しかし中年女性の怒りに対し、鶴はまぁまぁと宥め、木戸のある方向に移動しました。「あっ、お鶴ちゃん。いい所に。そこの木戸を開けて」

 木戸の向こうには数人の男性が困り顔でいました。どうやら木戸は裏長屋の方から開かないように細工してあるらしい。鶴は呆れ顔で、

「今回だけですよ。お夏が寺子屋に行けないし、棒手振りの人が入れませんから」

 よく見てみると長屋の男性衆の後ろで困り顔の棒手振りのいました。鶴は木戸を開け、男性衆を入れました。

「ありがとうお鶴ちゃん」

 するとその中の一人が、

「ああ、開けてくれたお礼にこれをあげる」

 男性は懐から何かを取り出して鶴に差し出しました。それを見た鶴は戸惑い顔で、

「何ですかこれは? こんなのいりませんよ」

 それは象牙で出来た変な人形だ。でも男性は押し付けるように、

「女郎屋で他の客がくれたんだ。何でも何とかって団体の幹部とか言っていたな」

「変な宗教じゃないですよね」

 反論している鶴に人形を渡した男性は長屋に消えていきました。


「成る程、ここが鶴はんが住んでいた長屋だったのですか」

 過去見を中止したうちは大きく息を吸いました。

「さて、帰りますか」

 うちが帰ろうとすると、不意にどこからか声が聞こえます。

「何ですかこの変な声は? げっ、死霊はんですか。今日占いでうちの星座が最下位だったのも分かります」

 少し離れた木の下で死霊はんが誰かに電話をかけていました。全く、皐月はんにストーカーしているだけではなく、誰に電話をしているのですか?

「ああ、田上先輩。俺です」

 どうやら話し相手は妄想ストーカー下僕先輩のようです。キモイ顔の二人が何を話しているのでしょうか? 聞きたくはありませんけど、これはどうやら強制イベントのようなので聞かないといけないでしょう。

「鶴がとある女郎屋で身体を売っていた事が確かめられました。間違いなく鶴を追っていたらたどり着きますよ。今後は鶴が住んでいた長屋の住人が虐殺された事件について調べてみます」

 死霊はんはそれだけ言うと去っていきました。

「? 何でしょうかあれは?」


「忌み族」

 そうお隣さんに言われながらも自分の部屋に帰りました。

「ただ今」

 するとリビングで鶴はんがまるで休日のお父さんみたいにテレビの前で横になっていました。うちは呆れながら、

「よく寝ていられますね」

 すると鶴はんは顔だけこちらに向けて、

「だって久しぶりに体を使って疲れているのですから。休ませてください」

「いやいや貴さんね、授業中ずっと寝ていたでしょう。余り寝ていると横に太りますよ」

 まぁ鶴はんは栄養は背と胸に行っているのでしょうね。うちはそんな事を考えながら夕食を作る為に台所に行きました。


「うわぁ、今日の夕餉は天ぷらなのですね」

 テーブルに並んだ天ぷらを見ながら鶴はんは感嘆の声をあげました。

「今日は春野菜の天ぷらです。天つゆをつけて食べて下さい」

「分かりましたわ」

 鶴はんはふきのとうの天ぷらを箸でつかみ、口に運びました。すると食べた瞬間晴れやかな顔になり、

「さくさくして美味しいですわ。わたくし、天ぷらは屋台で食べた事がありますけど、それは衣が厚く、串が付いていました。それはそれで美味しかったのですけどこれはその百倍美味しいですわ」

 鶴はんはにこにこしながら食べ、ふと何かに思いついたのか、

「そうですわ。わたくしとの契約は三食美味しい物を作るでどうでしょう?」

「ああ、契約ね。すっかり忘れていました。でも確か契約は双方にメリットのある事でないといけないと先輩から聞きました。それだと貴さんだけメリットがあるだけてです。それより鶴はんは何か得意な事はありますか?」

「わたくしの特技ですか?」

 鶴はんは少しだけ考え、そして空になった茶碗を差し出し、

「わたくし、三杯目でも堂々とお代わりできますわ」

 うちは差し出された茶碗にご飯も山盛りにして鶴はんに渡しました。そして一言、

「江戸時代の人って一日にご飯を五合ぐらい食べていたと聞きましたけど本当だったんですね。最初は戸惑いましたけどもう慣れました。好きなだけ食べて下さい」

 鶴はんはご飯をかき込んでいるのを見ながら、うちはふと過去見で知った事を鶴はんに教えました。

「そう言えば学校にぼろぼろの祠があったのですけど、それを過去見したら貴さんとお夏はんが住んでいた裏長屋が見えましたよ」

 すると鶴はんは満面の笑顔になり、得意げに、

「そうですか。わたくしはお夏を本当の妹のように可愛がりましたわ。湯に一緒に行ったり、縁側で共に夕涼みをしたり、花火を見たり。わたくしはお夏の為なら何でも出来ますわ。お夏を守る為なら何でもしますわ」

 そう堂々と宣言する鶴はんの姿はまるで姉のようでした。


「さて、お風呂に入った事ですし、寝るまで少し考え事をしますか」

 うちは濡れた髪を出すタオルで拭いながら自室の机で考えをまとめる事にしました。うちは引き出しからぼろぼろになった本を取り出し、少し眺めてから元に戻しました。

「全く、ご先祖様ももう少し式神について教えて欲しいです」

 まぁこれはほっといて、今日浮んだ疑問を少し考え見ましょう。

「一番の疑問はどうしてあの二人は鶴はんの事を調べているのでしょう」

 死霊はんの話では鶴はんは女郎屋で働いていたと言っていましたけど、それは違いますし、長屋の住人の虐殺も知りません。あの二人は何を調べているのでしょうか? それに鶴はんも相当な運動神経を持っています。江戸時代の女性であそこまで動ける人はいるのでしょうか? でもいくら考えてもその答えは出ません。

「ふう、うちは探偵ではありませんから無理ですね。もう寝ますか」

 うちはベッドに潜り込むと直ぐに眠気が襲ってきました。


「……く……」

「うん?」

 真っ暗な部屋でふと悲鳴とも叫び声とも取れる声にうちはふと目を覚ましました。

「鶴はん?」

 うちは隣で寝ているであろう鶴はんをふと見ました。

「!」

 鶴はんは悪い夢でも見ているのか、全身で震え、目からは涙が止まらず、苦しそうな声で、

「や……やめて、お願いですから。誰か、誰が助けてー!」

 そう叫ぶ鶴はんの柔らかな手をうちは握り、

「大丈夫ですよ。鶴はんの事はうちが守ります。貴さんはうちの大切な式神ですから。式神を守るのが陰陽師としての大切な役割です」

   

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