私の孤独事情
私には友達がいない。
理由は、私に染み付いてしまった同年代恐怖症である。私は歳が近い子と対峙するのが、怖くなってしまったのだ。それからというもの、私は誰に対しても素っ気ない態度、否、避ける態度をとるようになってしまった。昔のトラウマによる拒否反応、心を守ろうと防衛本能が働いているのかもしれない。
すぐに離れてしまうような浅はかな関係だったのなら…そんな関係が崩れただけで私自身が辛く感じてしまうのなら…いっそ、独りでいい。
そう思うと、心が楽になった。もう友達関係で悩まなくてもいいんだ、私らしくしていいんだーーー…心は楽になったけれど、私は私でなくなってしまった。
前髪を伸ばし、視界を狭くした。できるだけ本を読み、イヤホンで音楽を聴いて自分の世界に引きこもった。言葉数を減らした、下を向いた。
そうしたら誰も、私を見なくなった。寂しかったけど、学校が終わるまでの辛抱だって強がった。学校から帰ると、お父さんやお母さんがいて、弟がいて、うるさいご近所さんたちがいて、よく吠える犬がいて、美しいオネエさんがいる。商店街は、私の支え。
そうして私は、学校では独り目立たずに生活し、商店街にだけ本当の自分を出すようになった。
高校に入学してからは、ずっとそうやって静かに生きてきた。
そうしてある日、私は不良くんに出会った。
「…」
無言で歩く私たち、隣を歩く武生くんはとても大きくて、一見大人と子供のような身長差だった。金髪坊主で尚且つ大きな体の武生くんは、とても目立った。道歩く人、すれ違う人、必ず一回武生くんを見る。そしてすぐ目をそらして、強張った顔で去って行く。
武生くん、怖いもんね。私もそう思う、隣を歩くとか図々しすぎて土下座したい。頭が高いかな、匍匐前進登校とかしたほうがいいかな。
いろんな考えを巡らせていると、ふと武生くんが口を開いた。
「ーー…ッ……ッ…」
何か言いたげだが、口を開いてるばかりで何も言わない。言わないと言うより、言えないのか。まるで、喉に言葉が詰まってしまったかのように。口を開けては閉め、開けては閉め、それを繰り返した。
思わず首を傾げると、武生くんは意を決したような表情を浮かべて叫んだ。
「…あ、あ、アサ!!」
「は、はいぃぃ!?」
急に名前を呼ばれて姿勢を正すと、武生くんは唸りながらがしがしと頭を乱暴に掻き、ぼそっと一言。
「いい、天気だな…」
武生くんが一気にわからなくなった。
そのときの私は、武生くんが怖かった。だから、まともに見ることもできなかった。だから、全く気付かない。武生くんがそのとき、とても真っ赤になっていたこと。しかし、とても満足した表情になっていたこと。わけのわからない言葉の裏には、「アサ」と呼ぶ目的があったこと。
そのときの私は、決して気付かない。
武生くんは、アサの名前が呼びたかったのです。呼んで、とても喜んでます。