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hello goodbye  作者:
21/27

不意にこぼれる涙の意味

「はよ」

「お、はよ…」

朝、扉を開けると必ず金髪頭の大きな人間が私のことを待っている。馬鹿丁寧に、五分前には必ずいる。だから私は、いつもより二分くらい早く出る。武生くんが挨拶をして、私がたどたどしく返す。返すと少しだけ嬉しそうに、武生くんが笑う。それを見ると、どきっとした。

頬が紅潮して、目を合わせることができないんだ。

武生くんの大きな背中を追いかけるようにして歩くと、不意に武生くんが動きを止めた。

急に止まるもんだから、私も慌てて足を止めた。鼻先が、武生くんの背中をかすめた。とと、と一、二歩下がって首を傾げると、武生くんは勢い良く振り向いた。私はびっくりして、もう一歩下がった。

武生くんは、何かを言おうとする、けれど、言おうとして口を開いては閉じ、開いては閉じ、ついには黙り込んでしまった。

心なしか顔が赤いような…と思っていたら、耳まで赤く染まった。え、なんでこのタイミング?と、私は困惑。武生くんの様子に私まで恥ずかしくなって、顔に熱が集中する。

武生くんは意を決したように、右手を差し出した。

咄嗟の行動に、私は固まる。

「?」

「手」

「え」

「手ぇ、貸せ」

真っ赤になりながら、武生くんは強い口調で言った。前までは、この口調が苦手でいちいち怖がっていたけど、今はこの口調が照れ隠しなのがわかる。私は少しくすぐったい気分に表情が緩みながら、促されたように左手を、武生くんの大きな手に乗せようと手を伸ばした。

しかし、ぴたっと動きを止める。そして乗せようとした手が、ふっと元の位置に戻った。

「…」

今朝見た夢が、頭をよぎったのだ。途端に、体が小刻みに震え出した。

怖くない、怖くなかったはずだ。

さあっと、顔に集中していた熱が一気に冷めた。それどころか、氷水が循環しているように一気に青ざめた。

怖くない、この人は私に怖いことなんて何もしてない。この人はいい人だよ、でかくて怖くて、悪い噂は絶えないけれど。

今まで私が見てきたこの人は、とても、とても…温かい人。

信じたい、この人を信じたい。

その気持ちは嘘じゃないのに、ねえ、なんで。なんで、私はこの人を、怖がってるの。

息が詰まって、私は何も言えなくなった。

武生くんは一度伸ばされた手が引っ込められたことを疑問に思い、私の顔を見る。私は武生くんに、真っ青な顔を見られたくなくて俯いた。そうして、何も言わず、武生くんを追い越して逃げるように走った。


ああ、武生くんはどう思うだろう。

今の行動を、自分への拒絶ととるだろうか。

武生くんに、はっきりとした拒絶反応を示してしまうのは初めてだった。だからこそ、彼の顔が見れなかった。

彼が傷ついた顔を見たら、私は絶対泣く。


「ごめん、弱くてごめんね」

武生くんを置いてきてしまった。私はそれでも、謝った。届かない私の言葉は、行き場をなくして虚空に消えた。

完全に拒絶してしまったんだ。もしかしたら、もう話しかけてこないかもしれない。これで、繋がりは絶たれてしまったのかもしれない。

そう思うと、身体中が冷たいくせに、目頭だけがじんわりと熱くなった。

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